ハンバーガーをこよなく愛し、そのおいしさを探求し続ける、ハンバーガー探求家の松原好秀さん。そんな、ハンバーガー界唯一の存在である松原さんに、一食の主食として満足できる、じっくり食べられるハンバーガーを紹介してもらうこの連載。第3回は、「ファットバーガー」のハンバーガーの魅力をたっぷり教えてもらいます!

【じっくり食べたいハンバーガー】第3回「ファットバーガー」

私の中の“2018年最高のハンバーガーショップ”は、東京・渋谷の「ファットバーガー」でした。この店との出合いを、私はそれはそれは喜んだものです。しかし、世間ではその実力はまださほど知られていません。つまり、いま最も「過小評価されている店」のひとつと言えるのが、このファットバーガーなのです。

ファットバーガーは、2018年4月に「MAGNET by SHIBUYA109」にオープンしました。ハチ公前のスクランブル交差点に面したビルの7階です。

 

現在、ビルそのものの観光化が進んでおり、免税店もあれば、漫画『ONE PIECE』の公式グッズショップがあったり、VR体験ができたり。そして何より最大の“目玉”は、スクランブル交差点が一望できる屋上の展望台です。ここはいま、外国人観光客の間で超人気の自撮りスポットになっています。

ファットバーガーは米国ロサンゼルス生まれのハンバーガーショップです。近年、米国から日本に上陸した、いわゆる「黒船」と呼ばれるハンバーガーレストランがありますが、ファットバーガーはそれら黒船系の店とはまた少しタイプが違っていて、オシャレでもなければヘルシーを気にするでもない、日常ごく「ふつう」に食べる「ふつう」のバーガーを出す店――といった、いわば昔ながらのハンバーガー店です。流行りやファッションで食べるのではない、その「ふつう」の感じに私は強く惹かれました。

黒船系の代表格「SHAKE SHACK」の創業は2004年、「UMAMI BURGER」は2009年。どちらも21世紀に誕生したバーガー店です。一方のファットバーガーは、ロゴには“Since 1952”とありますが、その前身となる店は1947年から営業していました。

 

ハンバーガーにヘルシーやオーガニックを求めるようになったのは今世紀に入ってからのことで、1940年代当時のハンバーガーは「そこそこおいしいものが安くてお腹いっぱい食べられれば、それで十分」という、本来はそういった食べ物だったワケです。そもそもが「そんな気取った食べモンじゃないぞ」ということですね。

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「USキングバーガー」2,765円   出典:しん( ̄◇ ̄さん

そんなファットバーガーの名物は、パティ6枚重ねの「USキングバーガー」ですが、これはある種アトラクションを楽しむような感覚のもの。挑戦はご自由にということでお任せしまして、私からは“じっくり味わう”ためのメニューをご紹介します。

「USキングバーガー」を完食すると認定証授与の上、店内に記念写真が貼り出される

ファットバーガーをじっくり味わうなら、パティ2枚の「ダブルバーガー」にチーズ2枚をトッピングするか、パティ3枚の「トリプルバーガー」にチーズ3枚か、それぐらいがちょうどよいです。

「ダブルバーガー」1,058円に「チーズ」108円×2枚をトッピング

パティは、オージービーフの赤身8割に和牛脂2割を合わせた100gです。店内で計量・成形したものを鉄板でグリル。何枚か重ねて食べた方が「クッション効果」が現れて、より肉のやわらかさが強調されます。

 

焼いて少し硬くなった挽肉の「つぶつぶ」が、ソフトな食べ口の中にも「ザラッ」と舌に感じられて、これぞ混じり気なしの「挽肉」のおいしさ。食べやすく、気持ちよく噛み切れて、口の中で気持ちよくほぐれます。身構えずにリラックスして食べられる、心休まるおいしさです。

「オニオンリング」410円は生の玉ねぎを店でカットして揚げる自家製

一見「ふつう」のバーガーですが、変わったところもあって、例えば、マスタードはバンズでなく“パティの上”に塗られています。ダブルチーズバーガーをよく見ると、一番上の黄色はマスタードで、チーズは“パティの下”にきます。レタスは細切り。レリッシュ、ダイスオニオン、ピクルス、トマトが入り、クラウン(上バンズ)の裏にはマヨネーズ。

 

この日常ごく「ふつう」のバーガーに私は大満足して、昨年の年間最高のバーガー店にあげるくらい重宝していました。ところが、別メニューの「チキンサンドイッチ」を食べたその日から、ファットバーガーは私の中で“最高のチキンサンドの店”に変わりました。

「チキンサンドイッチ クリスピー」734円

フレーバーは、「クリスピー」「グリル」「スパイシー」の3種類あります。どれも特製のマリネ液に半日漬け込んだ鶏モモ肉を使い、これにオリジナルの粉をまぶして油で揚げると「クリスピー」。

「チキンサンドイッチ グリル」734円

鉄板で焼くと「グリル」。そこに、アメリカ南部の郷土料理であるケイジャン風のスパイスをかけたものが「スパイシー」。ひと通り試しましたが、どれも甲乙つけ難いおいしさです。

「チキンサンドイッチ スパイシー」734円

チキンは、サイズ150g。身が厚くて立体感があり、肉汁豊かでとにかくジューシー。そして、やわらか! マリネ液はインド料理の「タンドリーチキン」を思わせる味付けで、ちょっとエスニックな味わいです。野菜はレタスとトマトのみ。ソフトなバンズとの相性もよく、「チキンサンド」として実に上手くまとまっています。

「プレミアム・ミルクシェイク ストロベリー」864円。平日15~19時は生ビールとシェイクが半額で飲めてお得!

このレベルのチキンサンドに私はかつて出合ったことがありません。最近は行くといつもこれ! ということで、「都内で食べられる最もおいしいチキンサンドイッチ」を出す店はこの「ファットバーガー」。私の中の暫定チャンピオンになっています。新たな挑戦者(店)情報募集中!

 

※価格はすべて税込

 

取材・文・写真:松原好秀