〈今夜の自腹飯〉

予算内でおいしいものが食べたい!
インバウンドや食材の高騰で、外食の価格は年々あがっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで、「おいしいものを食べたいとき」につかえるハイコスパなお店とは?

高級中華とも町中華とも異なる、オリジナル料理を低価格で提供

新中野駅から徒歩2分の立地にある「チャイニーズバル ゆずのたね」は、一皿500円以下という低価格ながらクオリティの高い料理を楽しめると評判の中華バルだ。2019年6月にオープンした新店だが、すでに常連客でにぎわっている。

安い食材を使う。その代わりに手をかける

「四川飯店」で修業を積み、「広尾 はしづめ」でミシュランの一つ星に輝いた実績のあるオーナーシェフの初見直人さん。

「アワビやフカヒレではなく、スーパーで買えるような食材も、手をかけて中華料理にするとこんなにもおいしくなるのか、と驚いてほしい」と語るのは、オーナーシェフの初見直人さん。服部栄養専門学校を卒業後、陳建一氏が率いる「四川飯店」に入り20年にわたって腕を磨き、その後は「広尾 はしづめ」の料理長として店を切り盛り。青山店や原宿店のオープンにも尽力、総料理長になった後は、ミシュランの一つ星を獲得したという手腕の持ち主だ。

障子を印象的に使ったレトロな店内。実家に帰ったときのように、リラックスしてくつろげる。

そんな彼が、満を持してオープンさせたのが「チャイニーズバル ゆずのたね」。新中野駅は東京メトロ丸ノ内線で新宿駅から3駅という好立地ながら、下町の雰囲気を漂わせている。「この街で地元の人々に長く愛される、庶民的な店をつくりたかった」と初見さんは言う。

 

店名の由来は、ことわざ「桃栗三年柿八年」に続く、「柚子の大馬鹿十八年」にかけたもの。時間をかけてゆっくりと実をつける、ゆずの種をまいている。

まずはこれから!「四川火鍋もつ煮」

「四川火鍋もつ煮(全部入り)」480円。あとから増してくる辛みがクセになる。

お店の一押しメニューは「四川火鍋もつ煮」。当日の朝にしめた新鮮なモツだけを使用し、15種の香辛料と3種のラー油をブレンドして仕上げている。本場の火鍋は塩分が強いのが特徴だが、あえて白みそを加えることで甘みをプラス。深みのある辛さが刺激的で、やみつきになってしまう。

 

必ず入っているのは、シロ、テッポウ、フワの3種。仕入れによって、センマイ、ハチノス、ガツ、ハツなどが加わり、運がよければタン元やオッパイ(チチカブ)などの希少部位を食べられることもあるそう。

シンプルな「もつ煮」が380円。煮卵と煮豆腐を追加した「全部入り」でも480円。2人でシェアもできる量だ。

丁寧な仕事が光る、お酒のアテにもぴったりな料理の数々

「大アナゴの唐揚げ~上海風ソース~」480円。細かく包丁を入れて骨切りし、ふわふわの食感に。

料理は60品ほどあり、一皿100円~500円で楽しめる。コース仕立てで楽しむなら、前菜、サラダ、炒め物、揚げ物を楽しみ、〆に麺類やご飯ものを注文すればお腹いっぱいに。女性2人なら、一皿を少しずつシェアしていろいろな料理を堪能するのもおすすめだ。

 

お酒に合う料理ばかりだが、なかには驚くほど手の込んだ品もある。

 

例えば、「大アナゴの唐揚げ~上海風ソース~」。天ぷら店などで揚げられるのは小ぶりの穴子がほとんどだが、それは、大穴子は骨が太く食感が悪くなるから。ところが初見さんは、大穴子をハモのように骨切りすることで、ふわりとした食感に仕上げている。さりげなく添えられた上海ソースは、6時間ほど煮詰めてつくったもの。ひと目では気づかない、丁寧な仕事ぶりに脱帽だ。

 

ちなみに、自家製の「干し肉」は1ヵ月かけて仕込んでいるそう。手間と時間をかけることで、お店でしか食べられないクオリティの料理に昇華させている。

たっぷり飲んで、〆まで食べても3,000円以下

ゆず酒に角瓶と炭酸を合わせた「ゆずハイボール」500円。

ドリンクも豊富で、生ビール、ホッピー、ハイボール、サワー、中国酒、ワイン、日本酒、焼酎まで、一通りの酒が揃う。生ビール(中)が480円、サワーは380円から。ワインはグラスで400円、ボトルは2,100円から用意されている。

 

オリジナルの「ゆずハイボール」は、ゆずの果汁ではなく、吟醸酒をベースにしたゆず酒に角瓶と炭酸を合わせたドリンク。ゆずの香りと日本酒の旨み、そして炭酸の爽快な喉越しがたまらない。

担々麺のスープに白米を入れて炊き、パルメザンチーズをかけた「担々リゾット」320円。

そして、〆の一品にこそ「チャイニーズバル ゆずのたね」の真髄。「広尾 はしづめ」の流れを汲む、「四川汁なし担々麺」「極細麺の鶏そば」「香港屋台風焼きそば」も注目だが、新鮮な驚きを与えてくれるのが「担々リゾット」だ。

 

初見さんは「担々麺のスープにご飯を入れて食べる“まかない飯”が大好き」なのだそう。肉みそとネギとの相性のよさは言うまでもないが、パルメザンチーズを振りかけることで新たな味わいに進化させている。

毎日でも通えて、心安らぐ実家のような存在でありたい

「仕事に疲れて自炊する気がわかないときは、いつでも訪れてほしい」と初見さん。

一皿のポーションはやや少なめだが、それもおひとり様や少人数での食事にはうれしい限り。実は中華料理では、少量ずつ調理するのは難しいと言われている。それでも低価格で提供するために、初見さんは心を砕いているのだ。

 

「疲れて帰ってきた夜、“外でさっとおいしい物を食べたいな”と感じたら気軽に立ち寄ってほしい。スーパーで食材を買って調理するのとそれほど変わらない値段で、手をかけたおいしい料理とお酒を楽しんでもらえる」

 

手間と時間をかけた分だけ価格を上げてもよいのでは? とも思うが、「好きでやっていることだから」と初見さんは笑う。

 

クオリティの高い料理をこちらが申し訳なく感じるほど手頃な価格で提供するのは、中華料理の道を一筋に歩み、研鑽を積んできた料理人の矜持なのかもしれない。

多彩な料理を少しずつ楽しめるため、カウンター席には女性のひとり客の姿も多く見られる。

 

【今日のお会計】
パーソン:女性2人
■食事
・ゆずだいこん 100円
・タコの野山椒あえ 380円
・パクチーの辛いサラダ~老虎菜~ 280円
・干し肉のハニートースト 280円
・四川火鍋もつ煮(全部入り) 480円
・ナスのスパイシーグラタン 380円
・大アナゴの唐揚げから上海風ソース 480円
・担々リゾット 320円 

 

■ドリンク
・生ビール(中) 480円 ×2
・ゆずハイボール 500円×2
・トマト割 400円
・バイスサワー 380円

 

席料150円×2
合計 5,740円(1人  2,870円)

※価格はすべて税抜

 

取材・文:梶野佐智子(grooo)
撮影:松村宇洋