お菓子の歴史を語らせたら右に出るものはいない! といっても過言ではない、お菓子の歴史研究家・猫井登先生が、現在のトレンドを追いつつ、そのスイーツについて歴史を教えてくれちゃうという、一度で二度美味しいこの連載。第12回は、日本にいながら世界のスイーツ巡りが楽しめる、東京・表参道の注目店を紹介。

【猫井登のスイーツ探訪12】〜表参道で味わう世界のスイーツ編〜

 

食べログマガジン編集部

いよいよ夏休みシーズンに突入しましたね!

 

猫井先生

この時期は観光で東京に来られる方も多いかと思いますので、今回は「表参道で味わえる世界のスイーツ」を紹介していきたいと思います!

 

食べログマガジン編集部

楽しみです! まずはどの国のスイーツですか?

 

猫井先生

世界のスイーツ1軒目は、やはり、地元「日本」からにしましょう(笑)。大正12年(1923年)創業で、一世紀近い歴史を誇る老舗和菓子店です。商品のほとんどが受注生産といわれていますし、何よりお店の場所がビルの9階にあるので、知らない人も多いと思いますよ。さぁ、こちらです!

【1軒め】名物はあんこたっぷりミニどら焼き! 知る人ぞ知る老舗和菓子店「紅谷」

 

食べログマガジン編集部

これは、知らなければ気づかないで通り過ぎてしまうかも!

 

猫井先生

しかもエレベーターは8階までなので、そのあと9階までは階段で行かなければならないんですよ(笑)。そしてこちらがお店の入り口です。

 

食べログマガジン編集部

ドアを開くと和菓子屋さん……。ちょっとした探検気分も楽しめますね! 猫井先生のおすすめはどんな和菓子ですか?

 

猫井先生

特に「ミニどら」226円(税込)が人気ですよ。早い時間に売り切れになることも多いので予約必須です!

 

食べログマガジン編集部

女性の手のひらにも収まるサイズ感が可愛いですね! でも、あんこの量がすごい迫力ありますね。

 

猫井先生

さあ、次は一気に海外へ!「台湾菓子」のお店に行きましょうか。

 

食べログマガジン編集部

台湾といえば……、タピオカミルクティーですか?!

 

猫井先生

たしかに、タピオカミルクティーも台湾発祥ですが……、今日ご紹介するのは「パイナップルケーキ」です! 一言でいえば「クッキー生地でパイナップルのジャムを包んだもの」でしょうか。

 

食べログマガジン編集部

お土産で見たことがあるような、ないような。

 

猫井先生

そんな方のために、これから行くお店では、喫茶室で「丸ごと1個」しかも「お茶付き」で試食させてくれますよ!

 

食べログマガジン編集部

なんて太っ腹!

 

猫井先生

しかも建物がすごい! 一見の価値ありです。

【2軒め】美しい建造にも注目! スタイリッシュな台湾スイーツスポット「サニーヒルズ」

 

食べログマガジン編集部

な、なんですか、この建物は! 森みたいですよ!

 

猫井先生

2020年開催予定の東京オリンピックのメインスタジアムを設計した隈研吾氏によるデザインの建物です。日本の木造建築に伝わる「地獄組み」という名のジョイントシステムを用いて建てられているそうですよ。1階が販売スペースと待合所、2階がパイナップルケーキを試食する喫茶スペース、3階がトイレになっています。さっそく、2階で試食させてもらいましょう!

「パイナップルケーキ」/出典:K-BIGSTONEさん
 

食べログマガジン編集部

「パイナップルケーキ」5個入り・1,500円(税込)〜のほかに、「りんごケーキ」5個入り・1,500円(税込)〜もあるんですね!

 

猫井先生

そうなんです。りんごケーキは青森県産の紅玉が使われており、生地もサックリとした食感で、あっさりとした味わいに仕上げられているので、日本人には親しみやすいと思いますよ。今日は、せっかくだからお互いに別の種類を選んで、両方を試食しましょうか!

「りんごケーキ」断面
 

食べログマガジン編集部

確かにりんごケーキは、すんなりと馴染む感じがしますね。

「パイナップルケーキ」の断面/出典:玉かずらさん
 

猫井先生

パイナップルケーキは、繊維が適度に残されたジャムの酸味と、しっとりとしてまろやかな味わいの生地との相性が良いですよ。

 

食べログマガジン編集部

これは甲乙つけがたいかも! お土産に両方買って帰ろうかな。

 

猫井先生

次は、一気にヨーロッパへ! 「オーストリア・ウィーン」のお菓子が食べられるお店に行きましょう。

【3軒め】ほかでは味わえないスイーツ&ヨーロッパ風情を満喫できる「カフェラントマン青山店」

写真:お店から
 

食べログマガジン編集部

いかにも、ヨーロッパのカフェって雰囲気で素敵ですね!

 

猫井先生

1873年創業、146年の歴史を誇る老舗カフェです。本店は、ウィーン市庁舎前にあって、政財界の大物や有名人も数多く訪れる名店ですよ。

 

食べログマガジン編集部

こちらではどんなウィーンスイーツが食べられるんですか?

 

猫井先生

せっかくですから、ほかのお店では、あまりお目にかかれないウィーン菓子を食べてほしいですね。「アプフェル ストゥルーデル」630円(税抜)とか「カイザーシュマーレン」770円(税抜)はいかがでしょうか?

 

食べログマガジン編集部

むむ。どちらもあまり聞いたことがない名前のスイーツですね

「アプフェル ストゥルーデル」/写真:お店から
 

猫井先生

どちらも、ウィーン菓子の中ではポピュラーなものですよ。アプフェルスゥトゥルーデルの、アプフェルは「りんご」、スゥトゥルーデルは「渦巻き」の意味で、紙のように薄く伸ばした生地でりんごを包んで焼いたものです。りんごのパイ包みを想像していただければ近いでしょう。スゥトゥルーデルはウィーンの銘菓として知られますが、発祥はトルコだともいわれ、アラブ菓子に通じるものがあります。

 

食べログマガジン編集部

しっとり系のアップルパイが好きな人におすすめしたいですね! カイザーシュマーレンはどんな由来があるんですか?

「カイザーシュマーレン」
 

猫井先生

カイザーシュマーレンに関しては、いろいろな逸話があります。カイザーは「皇帝」という意味ですが、シュマーレンは難しい。「引き裂いたもの」「冗談」など色んな意味があるからです。パンケーキを引き裂いたようなお菓子なので、「皇帝が好んだ引き裂かれたパンケーキ」というのがわかりやすいところでしょうか。一説によれば、皇帝が狩りに出かけて腹が減ったので、従者と共に近くの農家に立ち寄り、料理を作ってもらった。農夫はありあわせの材料でパンケーキを作ろうとしたが、相手が皇帝と知り、手が震えてボロボロになってしまった。出された料理を見た皇帝が「これはなにかの冗談か」と笑ったことから、このような名が付いたとも伝えられています。

 

食べログマガジン編集部

たしかに、突然、皇帝に料理作れっていわれたら、誰でも手が震えますよね(笑)。

 

猫井先生

皇帝も、まさかお菓子の名前になるとは思わなかったでしょうね。ちなみに食べる時は、りんごジャムやすもものジャムを添えてどうぞ! そうそう。せっかくこのカフェに来たら、コーヒーもちょっと変わったものに挑戦してみてください。「アインシュペンナー」800円(税抜)とか「マリア テレジア」900円(税抜)などはいかがでしょうか。

 

食べログマガジン編集部

どういうコーヒーなんですか?

「アインシュペンナー」
 

猫井先生

アインシュペンナーは「一頭立ての馬車」「御者」の意味です。寒い夜に御者が主人を待ちながら飲んでいたからこのような名がついたといわれています。コーヒーと同じ量のホイップクリームが入っているコーヒーで、コーヒーカップではなくグラスで提供されることが多いですね。「ウィンナーコーヒー」のモデルともいわれますね。

 

食べログマガジン編集部

デザートみたいな見た目も可愛いから、女性ウケが良さそうですね。マリア テレジアとはどういう違いがあるんですか?

「 マリア テレジア」
 

猫井先生

マリア テレジアは女帝の名前です。ブラックコーヒーにオレンジリキュールやブレンデーなどを入れ、ホイップクリームをのせたものです。女帝が好んだからこの名がついたとか。結構お酒が入っているんで、コーヒーだと油断していると酔っぱらいますよ。

 

食べログマガジン編集部

先に言ってくださいよ! まんまといい気分になってきてしまいました。

 

猫井先生

後半もまだまだ表参道のお店を巡りますから、早く酔いを覚ましてくださいね(笑)。

次回、後編に続く

後編では、フランス、ハンガリー、イギリスのお菓子のお店を紹介します。お楽しみに!

 

写真・文:猫井登