お菓子の歴史を語らせたら右に出るものはいない! といっても過言ではない、お菓子の歴史研究家・猫井登先生が、現在のトレンドを追いつつ、そのスイーツについて歴史を教えてくれちゃうという、一度で二度美味しいこの連載。第9回は、ひとつの分野に特化した本格派のお店が多い「代々木八幡」の美味しいものを紹介します。

 

チョコレートに特化したお店を中心に紹介した前編に続き、後編では、“パン&モンブランに特化したお店”が登場します! “ひとつの分野に特化したお店”を探ることで見えてくる、代々木八幡の専門店系スイーツに注目すべき理由とは?

【猫井登のスイーツ探訪9・後編】〜代々木八幡のパン&モンブラン〜

編集(以下、編):再び代々木八幡駅のあたりに戻ってきましたが、先生、すごい行列が出来ているお店がありますよ!

 

猫井(以下、猫):こちらは料理家の高橋雅子さんによる、ベーグルに特化した「テコナ ベーグルワークス」というお店です。

【4軒め】ほかでは味わえないフレーバーのベーグルが勢揃い「テコナ ベーグルワークス」

出典:gomataniさん

 

猫:「もち」「ふか」「むぎゅ」と3つの異なる食感のベーグルが人気ですが、それに加えて店長の小林千絵さんがパティシエ出身で、ケーキのように1個で味が完成するものを目指して、「赤みそと大葉」「漬け込みフルーツとクリームチーズ」「栗のあんこと甘露煮」のように、具材と味わいが工夫されたベーグルが常時60種近くあるというのも大きな魅力です。

 

出典:ナマダさん

 

編:ベーグルだけで60種!? クリームチーズなどをサンドしたものはよく見かけますが、ここまで色んな具材を中に入れ込むというのは珍しいですね。

猫:パン屋さんといえば、この近所にもう1軒「365日」という大人気のパン屋さんがありますよ。

【5軒め】美食としてのパンを味わいたい人へ「365日」

出典:YamaNe79さん

 

猫:こちらのオーナーの杉窪さんは、パリのレストランのデセールを担当されていたパティシエさんで、「美食としてのパン」を追求されています。例えばチョコレートのパンひとつとっても、一番上はサクサクのチョコレートパフ、その下には口どけの良いチョコクリーム、両者を繋ぐパンには、泡立てた生クリームを入れたフワフワのチョコレート味のパン生地、というように非常に緻密な計算がなされています。

 

出典:rhubarbさん

 

編:どちらのお店も、ひとつひとつのパンに対しての思いが強く感じられますね。

 

猫:ポイントは、お二人とも、“根っからのパン職人ではなかった”という点! ここのところをよく覚えておいて下さいね!

 

編:ん? とりあえず覚えておきます!

猫:さあ、次のお店に行きますよ! 今度は、がらりと趣向を変えて、モンブランの専門店です!

 

編:モンブランの専門店って、あの栗のケーキのモンブランですか?

 

猫:そうですよ。

 

編:いろいろな種類のモンブランが食べられるってことですね!

 

猫:まあ、栗のパフェはありますが、モンブランだけですね。

 

編:ひとつのモンブランだけに特化した店ですか???

 

猫:さあ着きましたよ!

【6軒め】カウンターで味わう唯一無二のモンブラン専門店「モンブランスタイル」

 

編:こちらのお店、テレビで見たことがあります! すごい行列で、整理券をゲットするのも大変だとか……。

 

猫:よくご存じですね。今は少し落ち着いてきましたが、今日も朝のうちに整理券を入手しておきましたよ!

 

編:さすが先生! なんだか高級なお寿司屋さんのカウンターに座ったみたいでドキドキします。

 

 

出典:えもやん★スイーツハンターさん

 

猫:さて、メニューは大きく2つあります。「モンブラン デセル」1,482円〜(税抜)は、デザートスタイルのモンブランと飲み物のセット、「モンブラン パフェ」1,760円〜(税抜)はパフェと飲み物のセットです。

 

編:ここは、やはり「モンブラン デセル」でお願いします!

 

猫:では、目の前でモンブランが作られていく様子をじっくり楽しみましょう。まずは、栗の産地の焼き物である笠間焼のお皿の上に、円を描くように、マロンクリームを絞っていきます。

 

 

こちらのマロンクリームは、茨城・笠間にある自社農園と契約農家の栗のみを使用した和栗から作られています。

 

 

程よい高さになったところで中心部分に渋皮も合わせたマロンクリームを入れ、その上に北海道根釧産・特選生クリームを重ねていきます。

 

 

サクッとした食感のメレンゲを四つ割りにしたものをのせ、さらにマロンクリームをたっぷりと絞り、最後に粉砂糖を軽く振りかけて完成です。

 

出典:ムーニー愛さん

 

編:……言葉を失いますね。まさに栗そのものを食べている感じがします。

 

猫:メレンゲ、生クリーム、マロンクリーム。フランスのモンブランの伝統を踏襲しつつも、全く異なったものを創造されていますね。バニラ、洋酒、バターといったものを加えず、素材本来の繊細な味わいを生かしながら、出来立てを提供するというのは、和菓子に通じるものがあります。まさに和魂洋才の日本人ならではのモンブランと言っていいでしょう。

 

編:こんなに凄いモンブランを作るパティシエさんって一体どんな方なんですか?

 

猫:実はね、こちらのオーナーさんは、会社員としてクリエイティブディレクターをされていた方なんです。全国の食べ物の産地を巡る中で笠間の和栗の美味しさに感動して、2011年には、以前モンブラン特集でも紹介した東京・谷中銀座に「和栗や」をオープンし、2018年5月にこちらの店をオープンされたんです。

編:ほぉ〜。前編で紹介したチョコレート専門店「ミニマル」のオーナーさんは元コンサルタントで、こちらのオーナーさんは、元クリエイティブディレクター。代々木八幡って、異業種から料理人になった方のお店が多いんですかね?

 

猫:いいところに気づかれましたね! お二人とも、根っからのスイーツ業界人ではなく、自らが料理の美味しさに感動して異業種からお店を始められたわけです。もっと言えば、ひとつのメーカーがカカオ豆から板チョコまで一貫して管理して製造する「Bean to Bar」を始めた人たちだってIT関連の人や芸術家だったわけで、チョコレート業界の人たちではなかった。

 

編:このお店に入る前に寄った2軒のパン屋さんも元々パン職人ではなく、パティシエ出身でしたよね。

 

猫:さすがです! 実はそこが今回お伝えしたかった重要ポイントです! 最初からどっぷり同じ業界にいると、いつの間にか既成概念にとらわれるようになって、なかなか新しい視点や斬新なアイディアというのは持ちにくい。

 

でも、異なる業種、分野から来た人たちは、自由に考えることが出来て、新しいものが産み出されやすいというメリットがあります。異業種・異分野出身者の台頭は、これからスイーツ界の新しいトレンドのひとつとなっていくと思いますよ。

 

編:なるほど。今後のトレンドとして注目していきたいと思います!

 

写真・取材・文:猫井登