【肉、最前線!】

「人生最後の日に食べたいのはもちろん肉」と豪語する“肉食系フードライター”小寺慶子が、肉愛たっぷりに奥深きMEAT WORLDを追求していきます!

vol.1 先入観は捨て去れ!肉と日本酒編

海外で日本酒が人気なのは「先入観がないから」という意見を聞く。世界の名だたるレストランでも日本酒を取り扱う店は年々増えており、フレンチやイタリアンのペアリングコースでも目に(口に?)する機会が多くなった。

 

日本酒が十把一絡げにくくられていたのも今は昔。その個性を堪能してもらおうと、専門的に日本酒をあつかう酒場が増えているが、なかでも地に足のついた酒のセレクトと料理で人気を集めているのが、五反田を中心に、異なるコンセプトで店舗展開する「それがし」だ。

黒毛和牛のしゃぶすき 四枚¥3,600

これまでに「酒場それがし」、「鳥料理 それがし」など、純米酒を軸に料理との相性を提案してきたが、今年の5月には鶏以外の肉を出す「肉料理 それがし」をオープン。メニューには、ローストビーフや和牛のなめろう、しゃぶすきなど肉好きの心をときめかせる料理が並ぶ。

 

オーナーの尾山 淳さんは「日本酒も肉もブームを経て、人気が定着したという共通点がある。このふたつを組み合わせることで新しい化学反応が起きるのではないかと思った」と話すが、実際に食べてみると肉と酒のうま味の相乗効果は、予想以上。

ローストビーフ 卵黄ダレ¥1,200

たとえば、甘口ダレと卵を絡ませたローストビーフには、辛口タイプの百十郎 赤面を。“飲まし手”の山本貴文さんは「すっきりとした飲み口だが、常温で出すことを考えると甘めのタレとまろやかな卵黄との相性がとてもいい。大切なのは温度感で、お燗でも常温でも、その酒の個性が立つ温度帯を見極めたうえでどの料理に合うというご提案をさせてもらっている」という。

 

サーロインのようなサシが多めの肉にキンッと冷えた日本酒を合わせると脂が際立ち、かえってしつこく感じてしまうこともあるし、淡泊な赤身肉に山廃などのどっしりしたタイプを常温で合わせると日本酒に肉の味が負けてしまうこともある。

飲まし手の山本貴文さん

焼き物はハラミやイチボ、カメノコなどを揃えており、それぞれの肉の個性によって、バルサミコと味噌や、辛子に芽ネギ、岩塩と挽きたて山椒などの調味料を合わせているのもユニーク。

黒毛和牛 カイノミ 泡醤油と粒マスタード¥3,400

まずは酒を口にひと含み。そのあとに料理を合わせるとまた違った味わいが、ふわりと浮き上がる。それはときにジューシィでときにフルーティでときにエロティック。とりあえずは先入観を捨てて、肉と日本酒の相性をじっくりと楽しみたい。

 

写真:石渡 朋 執筆:小寺慶子