「うどん 百名店 2018」で知る、ご当地うどんの魅力
秋田の稲庭うどん、福岡の博多うどん、宮崎の釜揚げうどんなど、各地方のうどん店がいま東京で人気だ。食べログで高評価のうどん店を集めた「食べログ うどん 百名店 2018」でも、ご当地うどんの躍進がうかがえる結果となった。
そのダイバーシティ(多様性)ぶりで賑わいを見せる東京うどんシーンの中でも、今回はうどん 百名店に初選出された豊前うどんの名店に注目。うどんライターの井上こんさんに、その魅力と楽しみ方を解説していただこう。
「豊前うどん」を知っていますか?
このところテレビや雑誌で「福岡のうどん」の話題が増えていることは、うどん好きの方ならご存じのとおり。従来なら福岡のうどんといってもせいぜい博多うどんくらいしか挙げられなかったが、2018年現在、「福岡のうどん」という広義で特集を組む媒体は一つや二つではない。今、わずかだが変化が起きている。
さて、東京における福岡うどんの盛り上がりを支える立役者ともいえる店を紹介しよう。高田馬場にある「大地のうどん 東京馬場店」だ。
福岡・西区の小さな店から始まり、相当な苦労の末、今や県を代表する人気うどん店に成長した大地のうどん。8店舗ある内、唯一の東京店が高田馬場にあるのだが、果たしてなぜ勝負の東京1店舗目に高田馬場? 高田馬場に他意はない。が、やはりなぜと思ってしまう場所。おまけに駅から徒歩7~8分もある。
以前、その理由を「東京のことはよく分からんけど、とりあえず有名な山手線内だからOK!」と、情報だけで即決したとオーナー直々に伺ったことがある。というのは完全なる余談だが、竹を割ったような総大将・空さんの性格を表したエピソードで筆者は気に入っている。
閑話休題。大地のうどんについて調べると、“豊前うどん”という言葉に出合うだろう。豊前うどんとは、北九州市小倉南区を中心に30軒ほどで構成される「豊前裏打会」特有のもので、一般的にイメージされるうどんにはない透明感が共通する特徴だが、いくつかの店を取材した経験からいえることは「店それぞれの豊前うどんを楽しんでほしい」ということだ。
かくあるべきとルール化された部分よりも、加水面や熟成面など各店に采配を託した部分の方がずっと多いからである。
キラキラと光る、透明度の高い麺
ざるうどん550円(税込)
大地のうどんのモットーの一つに、注文後に生地を延ばす、いわゆる打ちたてがある。茹で上がった麺の透明度たるや、あの白い小麦粉からよくぞここまで透き通った美麺が生まれるものだと見惚れてしまうほど。
そして食感もこれ以上ないほどユニーク。舌に吸い付くような甘美な質感で、噛めば押し返され、その抗いが心地よく……と、まあなんとも魔性な麺なのだ。
カギとなるのは熟成だ。その期間、3日間。温度に緩急をつけながら管理し、極限まで脱気(生地内の空気が抜けることで透明感が出る)を促す。これがどれほど骨が折れることか。ただ熟成が長いほどいいという話ではない。
むしろ、計り損なえば理想とかけ離れるリスクも大いにある。事実、同店でも釜に入れた瞬間、麺が溶けてしまったり、満足がいかずに営業を断念したりしたことも少なくない。キラキラ光る魅惑の麺は、日々針に糸を通すような砕心の結晶なのだ。
一度見たら忘れられない、迫力のごぼう天
最後にもう1種類、いや、これこそこの店の代名詞的な存在といえるメニューを紹介しよう。
ごぼう天うどん580円(税込)
初見ならば間違いなく声を上げてしまうだろう。何度食べている身でもそうなのだ。このごぼう天うどん、福岡っ子の心の天ぷらであるごぼう天がとにかくべらぼうに大きい。長さ15cmはあるごぼうのスライスを20本ほど使っており、揚げたてにかぶりつく快味は言わずもがな、時間が経つにつれだしに浸ってしんなりとなった部分とのコントラストを楽しむのもオツだ。
ながらく「東京では福岡のうどんは根付かない」と言われ続けた時代は過ぎた、と願っている。うどんを評価する項目はたぶん私たちが思う以上に存在し、よっぽど厳しく定義付けされ、その遵守を美学とする場合を別とすれば作り手の数だけあって然るべきではないか。
コシがあるのも、ないのも、硬いのも、柔らかいのもいろいろあっていい。大地のうどんには私たちの凝り固まった“うどん観”を解きほぐす、そんなうどんがある。
写真:上田佳代子
取材・文:井上こん