〈食べログ3.5以下のうまい店〉

グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回は、トルティーヤ研究家の吉川孝一郎さんが教えてくれた、伝統製法で焼き上げる本格トルティーヤが話題の店を紹介。
伝統製法で焼き上げる日本初のトルティーヤ専門店

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。
食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

ここ数年、各地に専門店がオープンし、自宅でパーティーをする人も増えるなど、ブームが拡大中のタコス。そんな中、全国のタコス店関係者やメキシカン好き、中南米・メキシコ出身の人々が“本物の味”を求めてこぞって足を運んでいるのが、小田急線代々木上原駅からすぐの場所にある国内初のコーントルティーヤ専門店「Tortilla Club TORTILLERIA(トルティーヤクラブ トルティレリア)」。
タコスブームといっても、そのベースとなる生地・トルティーヤはまだ日本では馴染みがないこともあり、食べログの点数は2025年10月時点で3.31。しかし、口コミを見ると「出来立ての生の生地のおいしさに驚いた」などのコメントが並び、店頭に行列ができることもしばしば。日本における本格トルティーヤの拠点として、今後新たな食カルチャーを牽引していく存在になりそうな注目店だ。

吉川さん
トルティーヤにこだわったお店です。本当にトルティーヤがおいしかったですし、具材やサルサもおいしく理想的なタコスが味わえました。メニュー数は少ないながらタコス以外のメニューも本当においしいです。


トルティレリア(スペイン語でトルティーヤ店)の名を掲げている通り、メインで販売しているのはトルティーヤ。毎日店内で焼きあげるトルティーヤを、フレッシュまたは冷凍で量り売りをしている。
当初はトルティーヤの量り売りのみをする店を想定していたため、店内はレジカウンターとスタンドカウンターのみのコンパクトな空間。しかし、馴染みのない日本で販売するにはまず味を知ってもらうことが必要と考え、店頭で食べられるタコスなどのトルティーヤ料理を提供することに。
これが評判となりイートインを求める声が増えたため、通路沿いにテラス席を増設。このカジュアルさも、おやつやちょい飲みに適したトルティーヤ料理とマッチし、人々を引きつけている。


吉川さん
小さなお店ですが、非常におしゃれでスタッフもとてもフレンドリーです。メスカルなどメキシコのお酒もあるので料理と一緒にちょい飲みも楽しいです。晴れている日には外のテラスで食べるのも気持ちがいいです。冷凍のトルティーヤなどが買えるのも同店の一番の売りかもしれません。
ゴールは「トルティーヤを日本の主食に」

「ブームではなく、カルチャーを作りたいんです」と話すのは、代表の片山純さん。
もともと飲食店とは無縁の、家具や内装の会社に勤めていたのだが、2019年に「食べログ アジア・エスニック TOKYO 百名店」にも選出されている東京・三軒茶屋のメキシコ料理店「Los Tacos Azules(ロス タコス アスーレス)」で食べたメキシカンタコスのおいしさに衝撃を受ける。
「アボカド一切れをのせただけのシンプルなタコスでした。それなのに、こんなにおいしいなんてありえない!といろいろ調べた結果、秘密は生地だと気づいて。コーントルティーヤの奥深さを知りました」

その後自ら再現するため試行錯誤を重ね、アメリカから製粉機を取り寄せて、ついに理想の味を作り出すことに成功。そこで「将来コーントルティーヤを日本の主食のひとつにしたい!」と、トルティーヤメーカーになることを決意する。しかし、事業を始める資金も場所もなかったため、あることを思いつく。
「まずは架空でやってみようと。メキシコにある『ニュークラシック トルティーヤクラブ』という架空のトルティーヤメーカーのお店として、思いついたイメージやストーリーをインスタグラムで発信したんです。実際にはまだ何もないのに、オリジナルのスタッフTシャツを販売したりして(笑)」

やがて各地のタコス店店主やメキシカン好きの間で謎のアカウントとして注目されるように。実在するのかもわからないまま認知度があがっていく中で、代々木上原の商業施設でテナントを募集していた理想的な物件に出会い、即決。
想定していたよりもずっと早く夢が現実となり、2023年6月に店のオープンに至ったのだった。


そもそもトルティーヤは大きく分けて2種類あり、トウモロコシ由来の「コーントルティーヤ」と、小麦粉由来の「フラワートルティーヤ」がある。
「Tortilla Club TORTILLERIA」で提供しているのは、メキシコで主食として食べられているコーントルティーヤ。さらにこのコーントルティーヤにも種類があり、同じ原料でも何で作るかで仕上がりに大きな違いが出る。

現在、日本で流通しているコーントルティーヤは、焼き上げた生地を乾燥させて粉にした「マサ ハリナ(マサ粉)」というインスタント用の粉とぬるま湯をこねて作られているものがほとんど。
これに対して同店では、民族が代々育ててきた メキシコの在来種トウモロコシを取り寄せ、調理・製粉したなま生地「マサ」を使用。乾燥トウモロコシを石灰水で煮込んでから約半日漬け込む「ニシュタマリゼーション」という伝統製法の工程を経ることで、豊かな香りと濃厚な味わいが引き出されるだけでなく、栄養価も大幅にアップ(※)。こうして毎朝製粉した生地を一枚一枚焼き上げている。
※ニシュタマリゼーション(石灰処理)を行ったトウモロコシの栄養価は、白米と比べてカルシウムが12倍、鉄分が11.5倍、ビタミンB群の一種・ナイアシンが13倍にもなることがわかっている。また、赤や青の品種には抗酸化成分・ポリフェノールも含まれる。

「このなま生地で焼き上げるコーントルティーヤは、そのまま食べてもおいしいですし、実はきんぴらやひじきなど和の具材とも相性がいいんです。なんでも手軽に巻いて食べられて、しかも無添加で栄養価も高い。タコスだけでなく、パンやお米に代わる主食としてぜひ活用してほしいですね」(片山さん)

さらに、毎日違う色のトウモロコシを使って製粉し、日ごとに違う色のトルティーヤを味わえるのも同店ならでは。白や黄色など、色の薄いものは甘みがあり、肉料理などしっかりした味付けの食材と相性がよく、赤や青など色が濃いものは粘り気とコクがあり、和の食材に合うという。食べ慣れてきたら、トルティーヤの色ごとに合わせる具材を考え、好みの味を探してみるのも楽しそうだ。

吉川さん
タコスの味はほぼトルティーヤで決まると言っても過言ではありません。ぜひメキシコ産在来種トウモロコシから作られたトルティーヤのタコスの他、ソペスと言われるメキシカンカナッペやトスターダスと言われる揚げたトルティーヤの一品なども食べてみてほしいです。
