知識ゼロでも大丈夫。新しい日本酒の選び方

今年誕生した日本酒の味覚判定サービス「YUMMY SAKE」が、新たな日本酒ファンを開拓している。10種類の日本酒のテイスティングとAIを使ったアプリによって、本当に好みの味わいを知ることができるというエンタテインメント感覚の新たな試み。AIはどんな日本酒をすすめてくれるのか、実際に体験してきた。

どうやってAIは味覚を判定する?

現在「YUMMY SAKE」を体験できるのは、「未来日本酒店」の代官山店と吉祥寺店の2店。知名度やスペックだけではなく、コンセプトやストーリーで選んだ日本酒をラインアップする新スタイルの酒販店だ。今回は、今年6月にオープンした吉祥寺店に訪問した。

早速、YUMMY SAKEを体験してみることに。ブラインドテイスティングキットと診断結果の日本酒1杯が付いて2,000円(税抜)。テイスティングの所要時間は5~10分で、予約なしで注文できる手軽さも嬉しい。

まずは、自分のスマートフォンからYUMMY SAKEのWEBサイトにアクセス。少量ずつ10種類の日本酒を、銘柄や解説を伏せて味わう。1種類毎に味わいを5段階評価し、3項目あるイメージから1つを選択していく。

10種類すべてのブラインドテイスティングを終えた後は、玉子焼きやラーメンなどの味わいの好みに関するアンケートに回答。その後、すぐに味覚のタイプの判定結果がスマートフォンに表示される。

 

判定結果に応じて、その人の味覚に合った日本酒をグラス1杯注いでくれるので、自分が直感的に選んだ好みの日本酒をじっくり味わうことができる。

先入観なしで選ぶから、本当に好きな味が見つかる

テイスティングする日本酒のセレクトや、味覚判定のAI技術は、唎き酒師と共に開発されたもの。サービスを開発したProject Yummyの中島琢郎さんは、「人からの勧めや、ラベルデザイン、スペックなどの余計な情報なしに、自分の味覚の直感で選んだ味わいというのは、本来の好みの味わい。ずっと好きな味として続くものです」と語る。

 

「『日本酒ってよくわからない』という声をよく耳にするなかで、難しい知識や勉強ではなく、直感で選べばいいと気づいたのです」。なるほど、人工知能を導入しながら、実はアンチ情報化社会ともいえるこのシステム。

 

日本酒初心者にとっては入り口となり、すでに日本酒をよく知る人たちにとっては改めて自身の好みを知る機会となる。自分の好みだと思い込んでいたタイプとは違った意外な結果が出て、新たな気づきとなる人もいるようだ。

判定結果に合わせて、好みの味わいをリコメンド

判定結果で登場する日本酒は、全部で12種類。「オノマトペ酒」と名付けられ、「YUMMY SAKE」と連動して開発したものだ。オノマトペとは、擬声語を意味するフランス語。展開する日本酒には、「アワアワ」「ビュンビュン」「キュンキュン」などの名前がついている。

 

これは、味覚のタイプを表現した言葉で、12のカテゴリーに分類され、難しい用語や専門的なルールを知らなくても、誰でも直感的に日本酒を選べるようになっているというしくみ。

 

日本酒のイメージを覆すラベルだが、オシャレなだけではなく、デザインに意味が込められている。オノマトペがそれぞれの日本酒の風味と連動しているのと同様に、そのイメージを色と形で表現。12本並べるとグラデーションになっており、色が近いもの同士、テイストも比較的近いということがわかる。

「トロトロ」は石川県の数馬酒造、「シャラシャラ」は富山県の吉乃友酒造など、オノマトペ酒はいくつもの酒蔵の協力のもと完成している。蔵元からは「ビッグブランドにならなくても、このシステムによって味で勝負できることが有難い」「蔵が造り出す味わいと好みの合う飲み手の方々と繋がることができ嬉しい」という声が寄せられているという。

 

また飲み手は、自分が好きだと判定された蔵に興味を持つことにも繋がっていく。さらに自分の味覚のタイプが「ホワホワ」とわかったら、それを基準に今後の日本酒選びに反映することができる。

判定結果のオノマトペ酒は、店頭とWEBサイトで購入できる。さらに、店内で販売されている他の日本酒のプライスカードにも、オノマトペに対応したマークが貼られているので、自分の好みの酒を探すことも容易になる。

期待が高まる多彩な展開

今秋には、YUMMY SAKEのアップデートを行ってAIの精度を高める予定。さらに、居酒屋やバーなどと提携することで、自分の味覚のオノマトペを把握していれば、銘柄を知らなくてもその店にある好みの日本酒をオーダーできるシステムも導入していく。さらに、同じ好みを持つ人たちで集まってのパーティーの開催や、好みのタイプに分類される日本酒を定期購入できるシステムも検討中だ。

 

このサービスは紅茶やチョコレートなど、お酒以外の分野にも応用できるため、多彩な展開が期待できる。ぜひ“自分の本当に好みの味覚”を発見してみてほしい。

 

取材・文:外川ゆい

撮影:石渡 朋