【THEご褒美スイーツ 〜知っておきたい通な店〜】

「食事と同じくらい、スイーツにも絶対手を抜きたくない!」と、日々美味なるスイーツを探し求める甘いもの好きさんにお届けする本連載。スイーツの歴史研究のみならず、製菓にも精通するお菓子の歴史研究家・猫井登さんが太鼓判を押す、ご褒美スイーツを紹介します。

〈第17回〉「Taisuke Endo」

シェフパティシエ・遠藤泰介氏が手がけるパティスリー「Taisuke Endo」

「Taisuke Endo」は2024年7月に、東横線「学芸大学」駅近く、鷹番にオープンしたパティスリー。フランス・アルザスでの修業経験もある遠藤シェフが、スタイリッシュなケーキのほか、魅力的なヴィエノワズリーの数々を提供している。

【ご褒美スイーツその①】「マリーアントワネット」

「マリーアントワネット」820円

まず外せないのが、シェフのシグニチャーケーキ「マリーアントワネット」。フランスで修業した際に出合ったピスタチオとピンクグレープフルーツの組み合わせにインスパイアされ、エレガントなガトーに昇華させた逸品。

ピスタチオ、ダックワーズ、クランブル等食感も楽しめる構成になっている

ピスタチオを合わせたダックワーズ生地とサクサクとした食感のクランブルの生地に、鮮やかな色合いのピスタチオクリーム、フレッシュなピンクグレープフルーツのジュレを合わせて、全体をローズのシャンティクリームで、優しく包み込んでいる。つるりとした表面には、マリーアントワネットが愛したバラの花びらが、ひとひら。

トップにはマリーアントワネットが愛したとされるバラの花びらをのせ、可憐なビジュアルに

口に含むと、まずは華やかなバラの香りがふわっと鼻腔を抜けていく。次いでピスタチオの香りとまったりとしたうまみ。そこに瑞々しいピンクグレープフルーツのジュレが柔らかな酸味で爽やかさを添える。しっとりとしたダックワーズに、サクサクのクランブルの食感が楽しい。バラの香りに続いて、グレープフルーツのほのかな苦みが余韻を残し、上品で大人な味わいへと導く。細部まで丁寧に仕上げられた、完成度の高い一品だ。

【ご褒美スイーツその②】「ミルフイユヴァニーユ」

2枚の極厚のパイ生地でクリームを挟んだ独特のフォルムが目を引くミルフィーユ。通常のミルフィーユ生地のようにパイ生地を上から押さえつけず、ふわっと焼き上げ、仕上げに砂糖を纏わせながらも、完全にキャラメリゼする前で止めている。パイ生地の表面では、砂糖の粒子が、キラキラと宝石のように光を放つ。

「ミルフイユヴァニーユ」780円

ナイフを入れるとパリッと心地よい音が。口に含むと、一層一層がサクサクで、発酵バターのじんわりとしたうまみを感じさせながらも、はらりと、はかなく溶けていく。クリームは、バニラを贅沢に使ったクレームパティシエール(カスタードクリーム)にマスカルポーネクリームを合わせたもので、パイ生地との相性も抜群。独創的な新時代のミルフィーユを是非味わってほしい。

【ご褒美スイーツその③】「フォレノワール」

フォレノワールとは「黒い森」の意味。ドイツとフランス東部アルザスの国境にある“黒い森”に見立てられた、アルザスの伝統菓子だ。

「フォレノワール」820円

小麦粉不使用のショコラの生地に、クレームショコラとムースショコラの2層仕立て。中には、黒い森の特産品であるさくらんぼをキルシュ(さくらんぼ酒)で漬けたグリオット。上部にはクレームマスカルポーネキルシュをトッピング。クレームショコラが濃厚なカカオの香りと味わいを感じさせつつも、そこに口溶けが良いムースショコラ、さらにはクレームマスカルポーネキルシュを合わせることで、濃厚なのに、後味に重さを感じさせない作品に仕上げられている。

グリオットの酸味と甘さ控えめのショコラの味わいが大人の口にぴったり

中に含ませてある瑞々しいグリオットのジューシーな甘みとほどよい酸味が、ショコラの味わいと実によく調和している。全体的に甘さ控えめで、キルシュが香る、エレガントな大人のチョコレートケーキだ。

ケーキのみならず、圧巻のヴィエノワズリーにも大注目! 遠藤シェフってどんな人?

遠藤泰介氏は、調理師学校卒業後、イタリア料理店で修業し、パティシエの世界へ。パティスリー界のピカソとも称される巨匠ピエール・エルメ氏に見いだされ「ピエール・エルメ イクスピアリ店」(現在は閉店)に入店。UIPCG(世界洋菓子連盟)世界ジュニア製菓技術者コンクール ハンガリー大会(2010年)での準優勝などの実績を積み、同店のシェフパティシエに。「ザ・ペニンシュラ東京」ではショコラ担当を任され、2018年には「パティスリーカメリア銀座店」(現在は閉店)シェフパティシエに就任し、2022年渡仏。アルザス「ルレデセール パティスリーカム」ほか、フランス国内のパティスリーで研鑽を積み、2024年7月に自身のお店をオープンした。

ケーキのショーケースコーナー

店はホワイト、シルバー、グレーを基調にしたスタイリッシュな空間。店内に入るとまず目を引くのが、圧倒的な種類のヴィエノワズリーだ。クロワッサン、パン・オ・ショコラ、ショーソン、クイニーアマン、クロワッサン・ダマンド、ボストック、カヌレ、焼き立てのフィナンシェ……。ケーキ好きの方にも、パン好きの方にも、焼き菓子好きの方にも、お客様全員にワクワクしてほしいというシェフの思いが込められている。

クロワッサンにクイニーアマン、カヌレ……と、スイーツ好きにもパン好きにも刺さる商品がずらり

特に印象的なのは「クグロフ」! バター、卵をたっぷりと入れた生地にレーズンなどを加えて作られる王冠形の発酵菓子で、シェフが修業したアルザス地方の銘菓としても知られる。通常は、表面に砂糖をまぶした甘いものが主流だが、こちらのお店では、ベーコンや玉ねぎをじっくりと炒め、クルミを加えて焼き上げた、お食事系「クグロフ・サレ」も!

甘いものだけでなく、ベーコンや玉ねぎを使用したお食事系のクグロフが食べられるのも珍しい

「アルザスではこういったパンを持ち寄ってホームパーティーをよく開くんですよ。日本でもそういった習慣を楽しんでいただければ」とシェフ。 

いよいよ、煌びやかなケーキが並ぶ、ショーケースへ! 整然と並ぶプチガトーは、約15種類。内容は、季節に合わせて、少しずつ変化していく。

タルトフランボワーズ、タルトシトロンムラングなど、フルーツのタルトから始まり、シューアラクレーム、エクレアまで、パティスリーで定番の商品が並ぶが、よく見ると随所にシェフのオリジナリティーが加えられているのがわかる。

写真真ん中に並ぶエクレア形のケーキが「パリ・トウキョウ」

例えば「パリ・トウキョウ」。原型は「パリ・ブレスト」というリング状のシュー生地にアーモンドとキャラメルを合わせたプラリネクリームを絞ったもので、パリ―ブレスト間の自転車レースを記念して創作されたものだ。

こちらでは、敢えてエクレア形にし、ナッツも日本人に馴染み深いピーナッツとキャラメルを合わせた自家製のプラリネにしてアレンジを加えている。「パリと東京を、フランスと日本をつなぐお菓子になれば」というシェフの思いだ。

こちらも充実の焼き菓子コーナー

土曜日の朝、お店の前には開店前から行列が。開店と同時に、ヴィエノワズリーやケーキが、どんどん売れていく……。

ショーケースの反対側には、マドレーヌ、フィナンシェ、クッキーが並び、贈答用のパッケージ商品も。奥には、イートインスペースも完備。コーヒー、紅茶、フレッシュジュースなどと共にケーキやヴィエノワズリーを楽しめる。こちらも開店と同時に、ほぼ満席。早目のお出かけを!

イートインコーナー

食べログマガジンで紹介したお店を動画で配信中!
https://www.instagram.com/tabelog/

撮影:外山温子

文:猫井登、食べログマガジン編集部