いま、行きたいお店が空席なのか、一秒で分かる。

リアルタイムで空席情報を知ることができるサービス「VACAN for digital-signage(バカン フォー デジタルサイネージ)」をご存じだろうか?

 

「お店に着いたら満席で、入ることができなかった」「急いでトイレに行きたいのに、入れる場所が見つからない」といった、悲しい思いを経験したことがある人は多いだろう。お店の人に尋ねる前に、あるいはお店に到着する前に空席情報を知ることができれば、そんな悲しみも減るはず。

 

その願いを叶えてくれる「VACAN for digital-signage」が、いま商業施設をはじめとする店舗で徐々に導入されてきている。空席状況が分かることで、「悲しい思いや無駄な時間を減らすだけではなく、配慮し合う関係を紡ぎ出すことができれば」と話すのは、このサービスの技術開発をしている株式会社バカンの取締役・篠原清志氏と、社長室長・高田悠介氏。空席状況が一目で分かるシステムがもたらす世界とは、一体どんなものなのか、話を伺った。

行ってみたけどダメだった、という悲しみをなくしたい

――お店に入る前にリアルタイムで空席情報がわかるサービスがあると知ったとき、その便利さにとても驚きました。「VACAN for digital-signage」はなぜ開発しようと思ったのでしょうか。その背景を教えてください。

 

高田:弊社の代表取締役である河野(剛進)が家族で外出をした際、飲食店がどこも混んでいて、なかなか入店できないということがありました。まだお子さんが小さかったこともあり、次第にぐずり出し、重い空気に包まれてしまいました。結果的に、その日は「外出をしたことそのものが間違いだったんじゃないか」と後悔したことで、もし事前に混雑状況や空席状況が分かっていれば、悲しい思いをする人が減り、もっと効率よく楽しむことができるのではないか……そんな思いからこのサービスを始めるにいたりました。

左から株式会社バカンの取締役・篠原清志氏と、社長室長・高田悠介氏

 

――たしかに、行きたかったお店が混んでいて入店できないと喪失感も大きいです。そもそも並びたくないという人も多いと思います。

 

高田:日本政策金融公庫の「外食に関する消費者意識と飲食店の経営実態調査」(2013)によると、飲食店を選ぶ際の重視点として、“低価格であること”をしのぎ、約7割の方が「入店時に時間がかからないこと」を第1位の理由に挙げています。行列に並ぶことに対して抵抗がない方は約3割で、ほとんどは並ばずに入りたいと考えている。そういった方々に対して、事前に混雑状況を“見える化”することは、大きな意味を持つと思いました。

 

篠原:純粋に、自分たちがそういったサービスを欲していたことも理由のひとつです。ないのであれば、自分たちで作ってしまおうと。

 

高田:裏路地のお店は空いているけど、存在が知られていないため、お客さんが入らないケースなどもあります。VACANが浸透することで、セレンディピティではないですが、思わぬお店を発見する可能性につながる。ランチミーティングや飲み会の二次会など、空席をきっかけにお店とユーザーをマッチングさせるといったこともVACANなら可能になります。

 

――空席を介したマッチングというのは新しいですね! 空席状況はどのように判別しているのでしょうか?

 

篠原:空席を検知するセンサー、または画像解析カメラを使います。センサーは、東京駅構内にあるベーカリーカフェ「デイジイ東京」で採用されていますが、センサーをテーブル下に取り付けることで、人の着席状況を判断し、店頭に設置しているデジタルサイネージへ空席状況をリアルタイムに表示します。

試験導入している東京駅構内の「デイジイ東京」。テーブル下にはセンサーが設置されている

――センサーは空席の有無のみを表示すると。

 

篠原:現状は有無のみです。センサーは導入コストを抑えられることに加え、カメラを店内に設置することに消極的な店舗様などに有効的だと思われます。 一方、画像解析カメラは、AIによって空席数や待ち時間を推計することが可能です。こちらは、実証実験を経て、正式に横浜駅西口の相鉄ジョイナスや髙島屋横浜店で導入されています。1階にあるデジタルサイネージに情報が送られますので、利用者はレストランフロアに上がらずに、空席状況を知ることができます。

1階にあるデジタルサイネージでレストランフロアの各店舗の空席状況が一目で分かる

混雑だけでなく、社会を緩和させる機能としても

――デジタルサイネージには、QRコードが表示されていますが、これは一体?

 

篠原:QRコードをスマホのカメラでスキャンして読み取り、ブックマークやホーム画面に登録することで、いつでもどこでもスマホから空席情報等を確認することが可能になります。 友人や家族とシェアすることもできますので、QRコードを他者に見せ、同様の対応をしていただければ、デジタルサイネージが設置されている現地に行かなくてもスマホに取り込めます。

こちらは高島屋横浜店のスマホでの表示画面。同施設は、実証実験の際、前年度に比べ同月の売上が5%向上している

こちらは相鉄ジョイナスのデジタルサイネージの画面

 

高田:アプリと違い、デジタルサイネージの良いところはダウンロードや検索の手間がなく、一目で分かるという点です。 もしアプリにしてしまうとダウンロードや、タップして立ち上げるといった、手間が増えてしまいます。若い世代は慣れているかもしれませんが、ご年配の方や外国人の方を考慮したときに、VACANの有効性が伝わりづらくなってしまう。一目瞭然のデジタルサイネージであれば、誰でも一秒で分かります。

 

篠原:すぐに判断できることが大切だと思っています。ですから、VACANはトイレの空室状況でも重宝されています。

 

――トイレも、ですか!?

 

高田:人によっては、トイレの空室の有無は死活問題になりかねません(笑)。もしも腹痛のとき、事前に何階のトイレが空いていると分かれば、こんなに心強いことはない。また、授乳室の空き状況も一目で分かるため、お子様連れのお母様からもご好評をいただいています。

 

篠原:代表的な場所では、有楽町マルイ様で導入していただいています。各フロアの女子トイレの個室にQRコードが貼ってありますので、先ほどと同様にスキャンしていただければ、遠隔から確認ができるようになります。2階の女子トイレの入口にデジタルサイネージもありますから、店頭で把握することもできます。興味を覚えてくださった方は、一度、見に行ってみてください。

有楽町マルイのトイレ状況も“見える化”されている。これはありがたい!

 

高田:空室情報を提供する同様のサービスがありますが、感知から表示までタイムラグがあるものが少なくないです。VACANのセンサーは、リアルタイム性を重視しているので、その点も強みだと思います。

 

――痒い所に手が届き、非常に汎用性の高いサービス。いろいろな場所での導入が待ち遠しいですね。

 

高田:将来的には、飲食店や商業施設にとらわれることなく、駅周辺のあらゆるお店や映画館、カラオケなどの空席情報がスマホやデジタルサイネージから瞬時に判別できる世界を作れれば。また、多くの消費者が訪れるであろう観光地などでも導入を目指しています。「せっかく行ったのに……」というやるせない気持ちを、少しでも減少させたいですよね。

 

――人気だからこそ人が集まる。でも、その結果、楽しめない人もいる。その抜け道ではないですが、仰っていたように空席がもたらす偶然性、発見性もある。なんだか、逆に混雑を楽しめる余裕が生まれそうです。

 

篠原:先進国であり行列文化のある日本ならでは、とも言えます。海外でこういったサービスを展開しているのは聞いたことがありません(笑)。だったら、逆手にとって日本にはこんな面白いサービスがあるということを発信したい。ゆくゆくは、海外の美術館や観光地のほか、人口増加や経済発展が進むにつれてアジアやアフリカでも展開を進めていければ。

 

高田:混雑しているということは、裏を返せば、入りたい人、空席を探している人がいるということ。このサービスを通じて、空席を探すことが一般的になったとき、探す側も譲る側も、お店の混雑状況により理解が生まれるのではないかと思うんです。お皿やコップが空ならば、スマホに表示されたVACANを見て、「待っている人がいるだろうからお会計をしよう」と思ってくれればうれしい。限られた空間に多くの人が足を運ぶからこそ、お互いが配慮して、少し優しさを抱く。混雑だけでなく、社会を緩和させる機能としても、VACANが浸透してくれれば最高ですね。

 

 

取材・文:我妻弘崇(アジョンス・ドゥ・原生林)