イエローと淡いグレーを基調とした爽やかな雰囲気のインテリア。出てくる料理も、ケールのサラダやタルトフランベといった洒落たメニュー。一見すると、今どきなモダンダイニングを思わせるレストランがある。ただ、ここには普通のお店ではありえないことが待ち受けている。それは、現金がまったく使えない、完全キャッシュレスということ。

 

この現金NGな店とは、東日本橋エリアにある「GATHERING TABLE PANTRY(ギャザリング テーブル パントリー) 馬喰町店」。展開するのはロイヤルホストやシズラーなどを運営するグループ会社を統括・管理しているロイヤルホールディングス株式会社だ。完全キャッシュレスのレストランでは、どんなユニークな体験ができるのか? 実際にお店を訪れ、取材してきた。

柱はできるだけ設けず、全体が見渡せる店内。 GATHERINGが意味するように、皆が一体となって集まり、楽しめる空間を目指している

 

世界に目を向けると、キャッシュレス推進を目論むアメリカではレジ無しスーパー「アマゾン・ゴー」がオープンし、話題となった。キャッシュレスどころか会計レスという画期的なスーパーだが、ネットショップではなくあえて実店舗を置くことで、先端技術を使ってユーザーに新しい体験と喜びを与えた。

 

一方、日本では完全キャッシュレスの実験型レストランが登場。そこには、現金が使えないという情報だけでは見えてこない、美味しい・不味いといった基準以外の“ここだけの体験”が隠れていた。さらに中食と外食の間のような、いま増えつつあるニーズにも合った技術が、“ここだけの体験”を異なる方向から支えていた。

 

テクノロジーと飲食はどのような未来を描くのか。GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店を訪れると、そのヒントが見えてきた――。

 

■前編:現金NG!完全キャッシュレスの飲食店に見た、働く楽しさを取り戻すためのテクノロジー

今までの飲食店にはなかった体験と会話

GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店。決済方法は、各種クレジットカード、交通系電子マネー、QR決済(楽天ペイ、d払い、LINE Pay)など、20種類以上にわたる

 

店先に掲げられた「CASHLESS」の文字。

完全キャッシュレスの飲食店「GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店」は、日本有数の問屋街として名高い日本橋馬喰町にある。

 

江戸時代、横山町大通りの一部が、日光・奥州街道に隣接していたため、旅人用の各種問屋が軒を連ね一大問屋街を形成。その名残が現在まで続く物流の要衝に、最先端のキャッシュレスオンリーの飲食店があるというのも面白い。

 

店内に入るとスタッフがタブレットを持ってきてくれる。基本はユーザーがタブレットから注文を行うが、スタッフに声をかけて注文することも可能。タブレットを介して、ドリンクモニタ、キッチンモニタにオーダーが届き、スタッフはそれを確認し、調理&サーブを行う流れになる。ファミレスや居酒屋でホールスタッフが持つハンディターミナルもなければ、POSレジもない。

「会計やオーダーのトレーニング時間は2時間もあれば十分ですね。アルバイト初日の方でも、私たちと同じくらいできてしまいます」。そう笑うのは、同店の責任者である店長の城戸さん。テクノロジーを活用することで業務軽減、生産性向上につながっているという。

 

「業務の負荷が軽減されるため、スタッフやお客様とのコミュニケーションもカジュアルです。私はこれまでさまざまな飲食店で働いていたので、型にはまってしまいがちで、一番かしこまってしまいます(笑)。フランクにお客様と接するアルバイトの方たちを見て、学ばせてもらっているくらいです」

 

完全キャッシュレスゆえに、勝手の分からないお客さんも当然いる。そういった点をサポートし、新しい飲食の形であるGATHERING TABLE PANTRYの魅力を知ってもらうために説明することも、スタッフの役割とのこと。来店したお客さんも、他の飲食店には無いであろう、会話や体験ができるのは大きな魅力だ。

テクノロジーが可能にするUX(ユーザーエクスペリエンス)

また、「ホールとキッチンにスタッフが分かれてシフトインしていますが、厳密な役割分担は決めないんです」と城戸さんが語るように、クオリティの高い料理を誰でも調理できることも、同店の大きな特長と言える。

 

「何度かホールを経験した後に、キッチンにトライします。続いて翌週にはドリンカーをするということも珍しくないです。できることが次々に増えていくことにスタッフは楽しさを覚えているようですね」

前編で常務取締役の野々村さんが語ったセントラルキッチンのノウハウと、調理設備(マイクロウェーブコンベクションオーブン)があることで、誰でもキッチンをこなすことが可能となる。他の飲食店の場合、採用から一カ月と言えば、まだ研修期間内にあたるだろうが、ここではすでに十分な戦力だ。

 

試しに、「チキンのハーブグリルとレンズ豆~バジルソース~」680円(税別)と「タルトフランベナチュール」480円(税別)をオーダーすると――。

 

そのメニューに応じて食材を用意するなど簡単な準備をした上で、専用の調理設備で加熱しただけで料理は完成。もちろん、盛り付けやサラダなどは機器に頼ることはできない。それでも、「オーダーが立て込んだ際も、オーブンを使う料理とそうでない料理とで手順を判断し、加熱している間に調理可能な他の料理に手を回せます。今まで体験してきたどのお店よりも効率的ですね」と、城戸さんは声を弾ませる。

「チキンのハーブグリルとレンズ豆~バジルソース~」680円(税別)

 

オーブンで調理したからと言って侮るなかれ。チキンは皮がパリッとしているのに、中はふっくらと柔らかい。各メニューに応じて表面や内部の加熱具合が変わるように加熱工程・時間が設計されているというから、“恐るべし”である。また、メニューを選ぶ際には、タブレットからアレルギー物質なども確認することができる。これもまた、デジタルだからこそ容易となったサービスだ。

「タルトフランベナチュール」480円(税別)

“おひとりさま”も温かく迎える、ちょうど良い外食

店内には、仕事帰りと思しき一人で来店しているビジネスパーソンも少なくない。このまま家に帰っても面白くない。何か美味しいものを食べたいけど、かしこまった店やワイワイと盛り上がっているお店に行くのも面倒だ。かといって、コンビニのイートインでは味気ない。

 

そんなとき、良心的な価格で美味しい料理を、ビール片手にのんびりと食べることができるGATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店は、新しい外食の形と言えるかもしれない。グループで来ているお客さんはもちろん、“おひとりさま”に対しても外食の楽しみを提供することは、これからの時代、大切なはずだ。

 

会計は、スタッフが持つ専用スマートフォンや決済用のカードリーダーなどで済ます。レジに並ぶ必要はなく、その場で多様な決済方法に応じる。ただし、何度も繰り返すようだが現金はNGだ。

 

「最近では女子会での利用なども増えています。段々とお店の魅力が広がっていっていると実感していますので、“現金を使わない飲食”をぜひ体験しに来店してほしいです。何か分からないことがあったら、遠慮なくお尋ねください。その会話やコミュニケーションも、私たちのお店でしか提供できないサービスですから」

パントリーというだけあって、冷凍の商品を購入することもできる

 

消費者視点で見れば、他の店舗では味わうことができないUX(ユーザーエクスペリエンス)を知ることができるのが、GATHERING TABLE PANTRY 馬喰町店の大きな魅力だ。サクッと立ち寄って、「ピッ!」と会計を済ますことができる外食。そのお手軽さもありがたい。

 

単に、現金を扱わないことだけに面白さがあるわけではない。
非現金決済だからこそ生まれる、新しい外食の形が広がりつつあることも忘れてはいけない。今後はますますこういったお店が登場してくるに違いない。

 

■前編はこちら

 

取材・文:我妻弘崇(アジョンス・ドゥ・原生林)