好きなものだけを詰め込んで、ゆるやかに、心地よく

 「SAM」という店名は、アメリカ・オレゴン州のポートランドでクラフトビールを手がける友人の名前から借用したもの。後藤さんはポートランドが持つ独特のカルチャーに引かれ、2017年ごろからコロナ禍前まで、毎年のように現地を訪れていたそう。時には同業の友人知人と連れ立って出かける時もあり、まるで大人の修学旅行のような楽しさだったとか。


「レコードは目に入る様子もいいなと思って」と後藤さん。壁に掛けた絵は知人に描いてもらったもので、左がSAMさん

「アウトドアが身近で、地産地消が浸透していて、ファーマーズマーケットが盛んで。自然の近くで、人がのびのび暮らしているいい街だなと思います。ナチュラルワインもクラフトビールもおいしいし、薪の火で料理をするレストランも多いんですよ」

ピザに、ナチュラルワインに、クラフトビール。後藤さんが大好きなものだけを集めたら、お客さんも笑顔になるフレンドリーな空間ができあがった。それはどこか、ポートランドのゆるやかで心地よい空気を思わせる。通常はカウンター席のみを使っているが、実は店の奥にテーブル席が1つだけスタンバイ。「カウンターには座りにくい子どもやお年寄りを連れた家族にも、くつろいで楽しんでほしい」という後藤さんの気持ちが現れた空間だ。

積み上げられた薪と自転車もトレードマーク

「まだオープンから日も浅く、最近ようやく街の雰囲気がわかってきたところです。近所の人がふらりと立ち寄ってくれたり、テイクアウトでピザを買って行ってくれたりするのがうれしくて。これから少しずつ、この場所になじんでいきたいと思っています」

 

大木さん

音楽はLPレコードで、ピッツァとナチュラルワインとクラフトビールを愛し、アメリカ・ポートランドのカルチャー好きゆえか、遥か調布の自宅から自転車で店に通う、そんな店主・後藤崇暁さんのやりたかったことを形にした、カウンタ―のみのワンオペ店。なんとも居心地がよく、常連になりたくなるお店です。  

教えてくれた人

大木淳夫
「東京最高のレストラン」編集長 
1965年東京生まれ。ぴあ株式会社入社後、日本初のプロによる唯一の実名評価本「東京最高のレストラン」編集長を2001年の創刊より務めている。その他の編集作品に「キャリア不要の時代 僕が飲食店で成功を続ける理由」(堀江貴文)、「新時代の江戸前鮨がわかる本」(早川光)、「にっぽん氷の図鑑」(原田泉)、「東京とんかつ会議」(山本益博、マッキー牧元、河田剛)、「一食入魂」(小山薫堂)、「いまどき真っ当な料理店」(田中康夫)など。 
好きなジャンルは寿司とフレンチ。現在は、食べログ「グルメ著名人」としても活動中。2018年1月に発足した「日本ガストロノミー協会」理事も務める。最新刊「東京最高のレストラン2024」が発売中。

※価格は税込です

取材・文:本城さつき
撮影:柿崎真子