ショートケーキの履歴書【Vol.2】

エディター 河合知子さん編

河合さんの“ショートケーキ”のベースにあるのは、料理教室を主宰していたお母様がイチゴのシーズンに作ってくれる、クリスマスや誕生日(河合さんは12月生まれ)のイチゴショートケーキ 。スポンジの配合、生クリームの硬さ・柔らかさと甘さ、洋酒の利かせ方、イチゴの切り方にデコレーションなどを何度も試作し、その年のイチゴの出来や流行にあったものを製作していたそう。そんなショートケーキにまつわる、やさしい思い出を持つ河合さんの履歴書をいざ、拝見!

「フレジエ」で目覚めた、ショートケーキ愛

河合さんのショートケーキ・ターニングポイントは、日本のイチゴショートの原型になったともいわれる「フレジエ」との出会い。濃厚なバタークリームとイチゴの相性のよさに驚きながらも、日本のイチゴショートにはパティスリーごとに個性があることを痛感し、惹かれていくきっかけに。また、10年ほど前、「カカオエット・パリ」の飲むショートケーキや、「リベルターブル」がレストランだった時代の、ショートケーキをベースにしたデセールとの出合いからも衝撃を受けた。

 

「今は、すごくモダンなものも、クラシックなものも、ぜんぶ好き。また、イチゴの品種改良が進み、イチゴの個性もとても豊かになっています。新品種のイチゴを楽しむのも、ショートケーキの醍醐味ですよ。形を変えつつも、大好きなイチゴとクリームとスポンジが常に身近にあることに、親しみと楽しみを感じています」

1. 河合さんが抱いていた、イチゴショートケーキの概念を刷新した一皿

資生堂パーラー 銀座本店 サロン・ド・カフェ「自家製ケーキセット」

「自家製ケーキセット」(コーヒーまたは紅茶付き/カップサービス)1,540円

 

「資生堂パーラーのイチゴパフェが大好きでよく食べているのですが、銀座店を訪れた際、たまにはパフェ以外のものをと頼んでみたら、あまりのおいしさにびっくりしました。伝統的なフランス菓子、ショートケーキの原型となった原型になったともいわれる『フレジエ』に近いデザインで、どっしり濃厚な味わい。イチゴをたっぷりと使わないと作れない形で、トップのイチゴも惜しみなく盛られ、ぜいたくな雰囲気です」と河合さん。

 

イチゴは、夏の時期にもおいしい品種を仕入れ、一年中食べ頃の国産イチゴを用意。本和香糖を使い朝一番に焼き上げたスポンジを薄くスライスし、軽やかなクリームでサンドしているので、フレッシュなクリームとスポンジが、たっぷりの果汁と口の中で混ざり合う。「スポンジはコクがあって濃厚。ほどよい食べ応えがあります。クリームも香り豊か。いちごはマリネなどをせず、新鮮な生のイチゴを大きめに切って使っているので、歯ざわりも抜群です。全体的にしっかりとした味と香りを楽しんでいます。作りたての味、そしてパーツひとつひとつの味をしっかりと味わえることに感激しています」

 

「資生堂パーラーは、イチゴをおいしく食べさせることが、ほんとうに上手! 綺麗に揃ったイチゴの断面もそうですが、いちごへの愛が強く、美しく見せることにも長けています」。イチゴとアングレーズソースの赤のバランスも美しく、カトラリーも素敵だ。舌だけでなく、心も喜ぶ至福の時間を過ごして!

クラシックな佇まいの店内も気分をもりあげてくれる

 

クラシカルモダンな内装の店内ケーキワゴンのサンプルから、好きなケーキを選ぶスタイル。本日のアイスクリームまたはシャーベットも選べる。季節によってわるので、何が出るのかお楽しみに。コーヒーまたは紅茶付き。イチゴショートケーキは、一階の銀座本店ショップにて購入可能。ワンピース669円。ホール(6172円)の販売もあり。当日の販売も可能だが、できれば前日に予約を。

パティシエ 苗山和彦(なえやま・かずひこ)さん

製菓専門学校卒業後、レストランやホテル、パン工房で経験を積み、2008年に資生堂パーラー入社、銀座本店製菓部配属。2015年には銀座本店製菓長就任。レストランデセールからテイクアウト商品まで幅広く創作。実直な人柄からなる繊細な仕事が魅力。飴細工も得意とする。ジャパンケーキショー東京にて小型工芸銅賞を2年連続受賞。

2. “おもたせケーキ”の概念を変えた、ハッピー感あふれるデコケーキ

ロリオリ365 by Anniversary(伊勢丹新宿店)「スイートレディ」

「スイートレディ」13cm 3,700円、16cm 4,800円

 

「伊勢丹新宿店の地下フロアがリニューアルしたときに訪れ、美しいデコレーションが施されたケーキたちに衝撃を受けました。当時、デコレーションカップケーキなどが流行中だったこともあり、繊細で手の込んだ仕上げに見入ってしまった思い出があります。後日、美しいウエディングケーキで有名な『アニバーサリー』が経営していると知り、なるほどと納得」

 

「小学生の女の子がいる友人宅への手土産にしたときには、インパクト大で、デザートの主役に! お子さんも目を輝かせて喜んでくれました。スペシャル感があるケーキなのに、伊勢丹で予約なしで購入できるので、とても重宝しています」

 

「これだけデザインのインパクトが強いケーキだと、味はどうかしら…と思う方もいるかもしれませんが、このケーキが持つメッセージは見た目と味が両立していると感じています。ケーキは非日常を演出するもの。とはいえ、祝い事のケーキは、集まったみんなで食べるものです。老若男女、誰が食べてもおいしいと思われる味わいは大切ですよね。このケーキなら、皆が笑顔になってくれると思いますよ」

ドーム形のドレスの中は、厚みのあるしっかり目のスポンジと、やさしい甘さのクリームで、スライスしたイチゴをサンド。ドレス部分は生クリームの上からイチゴ味の生クリームをフワフワに重ね、白い花状のバタークリームが飾られている。こんなに華やかなビジュアルなのに、口の中で溶け合うと、どこか懐かしい、全ての人に愛される味になるから不思議だ。人形部分は砂糖菓子。その日の主役のお皿に添えて。

生クリームたっぷりの、純白ドレスを着たヴァージョンも。伊勢丹新宿店では、イチゴクリーム、生クリームともに、13cm(4名程度 3,700円)と、16cm(6名程度 4,800円)のケーキを用意。こちらも、予約なしで購入できるのがうれしい(当日分は売り切れ次第終了。予約は3日前まで可能)。アニバーサリー青山店でも購入可能(要予約)。

 

3. スポンジの底力を“舌感”した逸品

リョウラ「シャンティ ア ラ フレーズ」

「シャンティ ア ラ フレーズ」445円

 

「リョウラは、イチゴをはじめとしたベリー系のケーキがどれも絶品。今はメニューからなくなってしまいましたが、スプーンですくって食べるグラス仕立て“ヴェリーヌショートケーキ”が大好きだったので、いちごのショートも期待大でした。まず、フォークが引っかかることなくすーっと入っていくように、スライスしたイチゴが配置されているのが印象的で、口に含むと、軽いスポンジと香りのよい生クリームに、いちごの酸味が調和していく感じに惹かれました」

 

通常、ショートケーキというとイチゴを中心に考えられたレシピが多いが、リョウラの菅又シェフは、スポンジ、クリーム、イチゴの順でレシピを考案。実家が和菓子屋でカステラが好きだったので、“軽やかなカステラ風の生地を作ったらおいしいのでは”と思ったことがきっかけだったという。 レシピも独特で、小麦粉はカステラに使うような粒子の細かいものを用い、蜂蜜と水あめで作ったシロップに、バターとバニラを合わせて入れていく。スポンジが焼き上がったらすぐに急速冷凍。蒸気も閉じ込めて逃さない状態でクリームとイチゴをサンドするので、実にしっとりとした食感になる。スポンジの味が強いため、クリームの乳味は強め。だが、きび糖で甘みを出しているので後味はとても柔らかだ。そのスポンジとクリームを、さらに瑞々しくするのがイチゴの存在となる。

 

「シェフの菅又さんは、どちらかというと要素の多い、構築的なケーキがお得意な方。“ショートケーキは直球でくるのか、それとも変化球か!?”と、いろいろ期待していたのですが、想像以上に細部にまで細やかな気配りや計算があって、“3段のスポンジは、口の中で全ての要素が溶け合うことを計算して作られたのかな?” “生クリームの独特の香りは?”とワクワクしていたら、あっという間に完食。見た目は直球のショートケーキですが、実に奥が深いんです!」

ホールは、通常12cm(2,778円)と、15cm(3,565円)を用意しているが、すぐに売れてしまうので、できれば前日までに予約を。「お時間をいただければ当日でもご用意可能です!」と菅又シェフ。

パティシエ 菅又亮輔(すがまた・りょうすけ)さん

26歳で渡仏。ノルマンディ、ローヌ・アルプ、アルザス、パリとフランス各地で3年にわたって修行。帰国後、ピエール・エルメ サロン・ド・テにてスー・シェフを務め、エルメ氏の技術はもとより、芸術性、創造性、感性など、その奥深さを学ぶ。2007年12月「ドゥーパティスリーカフェ」オープンからシェフパティシエを務め、2010年には2号店「ドゥーパティスリーアトウキョウ」を東京駅構内にオープン。2015年10月に、「リョウラ」をオープン。

PROFILE

河合知子(かわい・ともこ)
フリーランスエディター/ライター。早稲田大学卒業後、株式会社婦人画報社(現ハースト婦人画報社)入社。料理雑誌『エル・ア・ターブル』編集部にて、料理、スイーツ、ワイン等の記事を手がける。在職中に「ル・コルドン・ブルー東京校」でフランス料理と菓子を学び、ディプロム取得。2012年に独立し、食に関する記事と書籍の編集・執筆のほか、フードイベントの企画・運営も行っている。編著に『東京最高のパティスリー』(ぴあ)、『細山田デザインのまかない帖』(セブン&アイ出版)、『ストックデリで簡単! パン弁』(パルコ)など。

 

 

撮影:安彦幸枝

取材・文:神山典子