【青森駅から徒歩で行ける至高のグルメ】

Vol.2 のっけ丼に焼きおにぎり、はちみつトーストまで。青森モーニング、いただきます!

日本全国のグルメ情報を網羅する食べログが有するメディア、食べログマガジン。だがしかし、東京のグルメ情報に少々偏りすぎでは? そんな疑問を編集部にぶつけてみたところ、「それでは我妻さん、地方グルメを取材してきてください」と仰せつかることに。

 

今回、筆者が向かった先は青森県。いろいろと聞き込みをしてみると、まだまだまだまだ……青森には知られていない超絶に旨いものがたくさんあるというではないか。

 

中でも、青森市にはJR青森駅から徒歩圏内で行くことができるエリアに最高に旨いモノが集っているという。地方都市において、中心駅から歩いて最高の食にありつける……言うなれば“至高の徒歩グルメ”を知っておけばこんなに心強いことはない!

 

第二弾は、青森駅周辺のモーニングタイムを楽しむには最適のローカルな朝食メニューをご紹介。上野発の夜行列車を降りたときは雪の中だったかもしれないが、現在の青森駅は降りるとすぐに旨いものだらけなのだ!

大トロ2枚、やりイカ1枚……食券でオリジナルのっけ丼をカスタマイズ

ここ青森市では、駅とは目と鼻の先にある中心部、新町から古川にかけたエリアが市場街として栄えた背景を持つ。その数は減ったものの、今現在も、「青森魚菜センター」や「青森生鮮食品センター」などの市場が残っており、初めて青森駅を訪れた人は、市街地のド真ん中に突如姿を現す市場に驚くことだろう。

 

青森の朝は何と言っても「のっけ丼」だ。市場内のお店から好きな具材や総菜をどんぶりにのっけていき、自分だけのオリジナル丼を完成させていく。八戸の海鮮市場丼などは、市場で売られる魚介類を指定して、その場で購入するという流れだが、ここ青森市の「青森魚菜センター」は一味違う。

10枚綴り(1,300円)、5枚綴り(650円)の食事券を購入し、市場内の各商店に所狭しと並ぶ具材を選ぶのだが、具材によって食事券の枚数が異なっている。スタート時の白米でさえ、普通盛り1枚、大盛り2枚というように、10枚(または5枚)の食事券をいかにして切っていくかがカギとなる。まるで朝市をめぐるカードゲームをしているかのような楽しさ。

サーモン1枚、うに3枚、ズワイガニ2枚、特大赤エビ2枚、当店自慢の卵焼き1枚、やりいか1枚、シャコ1枚、大トロ2枚。おまけに、焼き魚といった総菜まである。自分が考えている最高ののっけ丼を思い描き、食事券を切ってカスタマイズしていく。市場内にある約30の商店は、そのお店によって取り扱う具材や目玉具材が異なるため、よく吟味してのっけ丼をカスタマイズしていくほうが賢明だ。

次第に完成していく“この世に一つしかないオレだけののっけ丼”。「いろどりがちょっと弱いかな」「あと4枚しかないのか」などなど、思い思いにカスタマイズしていく。

 

食事券を介したお店のお母さんたちとの駆け引きも面白い。のっけ丼という共通項があるからこそ、美味しい具材やオススメの具材で話が弾み、違和感なくこの朝市に溶け込めているかのような雰囲気を味わえる。地元の方とのコミュニケーションすらも“のっかっていく”。

ちょっとしたロールプレイングゲームをクリアしたような充実感。「うんうん、やっぱりこれを選んで正解だった」と、完成したのっけ丼を見て、無性に喜びに浸りたくなる、この不思議な感じ。具材に正解などないのだけれど、地元の人と触れ合いつつ自分なりに考え抜いて選んだ具材に愛着しか抱けない。この美味しさは格別だ。

 

青森駅前の朝のローカルタイムを満喫しよう!

のっけ丼を楽しんだ後に、ぜひとも訪れてほしい場所がある。一つは、「青森魚菜センター」の裏手を出てすぐのところにある「横山商店」、通称「はるえ食堂」。多くの食通や、青森駅周辺のビジネスマン、主婦たちから愛される青森市を代表する名店だ。

横山商店は、戦後間もない頃から続く総菜店で、昭和45年頃から夫の母親から引き継ぐ形ではるえさんが店を切り盛りしている。戦後の青森市の高度経済成長をはじめ、青森市の今昔を知るはるえさんが作る数々の総菜の中でも、特にオススメなのが「焼きおにぎり」と「おでん」である。

注文すると、慣れた手つきで調理を開始。ほぐした鮭の身をご飯とよく混ぜ合わせ店の七輪の炭火で丁寧に焼きあげていく。焼けたゴマの風味と鮭の風味が抜群においしく、絶妙な塩加減は、はるえさんの歴史を覗かせてもらったかのよう。煮干出汁の優しい味のおでんは、青森のスタンダード“生姜味噌”をちょいと付けて食べると相性抜群。

多忙ではないときは雑談にも気軽に応じてくれるはるえさん。昭和の青森市がどのような風景だったか……雑談が学びとなる貴重な食体験。「遠くの親戚よりも、近くの他人よ」と微笑むはるえさんの勝手元には気づきが詰まっているのだ。

 

 

そして、もう一カ所立ち寄ってほしい場所が、魚菜センターから3分ほどの距離にある純喫茶「珈琲舎」だ。「喫茶 マロン」「麦藁帽子」といった名純喫茶が集う青森市内にあって、「珈琲舎」最大の魅力は、まるでバーのような絶妙な距離感を隣人と生み出す店内の広袤(こうぼう)だろう。狭すぎず、広すぎず。そこから生み出される地元感は「珈琲舎」ならではだ。

名物である「はちみつトースト」(290円)をほおばりながら、自家焙煎の深煎り直火焼きのブレンドコーヒー(270円)でゆっくり落ち着く。

 

ご年配のおばあさまやマダム……女子というにはいささか酸いも甘いも嚙み分けていそうな年代ではあるものの、「珈琲舎」は青森市内に暮らす女性たちにとって大切な朝の女子会の場になっている。方々から、オノマトペのようなネイティブな津軽弁が聞こえてくる様子が心地よい。

「珈琲舎」に集うお客さんは人懐っこい方が多い。「どっから来た?」と声をかけられるや、いつしかその女子会の輪の中に自分も加わっている。ローカルな雰囲気をくゆらせるが如く、しばし珈琲の味とともにローカルタイムを吟味する。

 

ゆっくり本を読む純喫茶もいい。しかし、地元の方々と分け隔てなく珈琲を共にする純喫茶というのも素敵だ。ゆったりとして温かい珈琲舎でのコミュニケーションは、夜の飲み屋では決して体験できない、ここを訪れた人に贈られる特別なひと時だろう。

 

朝の珈琲ブレイクに、もしくは新幹線までの待ち時間に。「珈琲舎」で一息ついて、帰路につこうではないか。

 

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取材・文・写真:我妻弘崇(アジョンス・ドゥ・原生林)