カウンター8席の演奏会

イタリア語でOrchestra(オルケストラ)という名前のカウンター8席の小さなレストランが、参宮橋駅のすぐそばにオープンした。

オーケストラといえば、いくつもの楽器の旋律を重ねて、壮大な楽曲を作るものだが、そのコース料理はまさに、その名に違わぬ、変化と厚みに富んだものと言えよう。

小川慎二氏

その指揮者となるのが、シェフの小川慎二氏だ。地元のホテルを振り出しに、中部イタリアのトラットリアでの素朴な郷土料理から星付リストランテのイノヴェーティブな料理まで充分に経験した。そして帰国後、都内のレストランや出張シェフを経てオルケストラのオープンにいたる。

壁のイラストも楽しさが伝わってくる

といって、現地の味覚に寄った料理を供するわけではなく、その要素は一部だ。楽章ごとにテーマがあり、それを楽しませるスタイルといったところもまさにオーケストラなのだ。

脳内で音楽を奏でる料理の数々

シンプルなビジュアルのコンソメスープ

まず出される一口のコンソメ。これには、日伊の融合が込められている。

日本とイタリアの旨みを融合させたスープ

出身地・長崎県五島列島の名産である“焼きあご”に、パルミジャーノ・レッジャーノや生ハム、干し貝柱や昆布などが旨みを支え、オリジナルのコンソメとして心を和ませてくれる。

ピアノの鍵盤のイメージ

次がアミューズだが、まずその什器に圧倒される。ピアノの鏡面仕上げを施した黒のボックスの蓋を開けると、黒鍵と白鍵が並び、その中にそれぞれ心を込めた前菜が並ぶ。

何から食べるかワクワクする

手前左から、「イワシのソットアチェート」、「南蛮エビとビーツのビネグレット」、「ブルーチーズとキャビアのブルスケッタ」といった具合に、どれも工夫に満ち、繊細な細工が施されている。続いて、前菜の「五島 林さん ハガツオ 白カブ キウイ 発酵プラム」「五島 林さん 真鯛 枝豆 蔓紫 アーモンド ミント」「トルテリーニ イン ブロード 赤平火をどり 焼きあご パルミジャーノ」が続く。大きく言えば、こちらが、第1楽章といえよう。

トリュフがたっぷり

次がシェフがイタリアで身に付けたラヴィオリだ。

「作りたて」のライブ感がうれしい

手打ち麺をのばすところから実演してくれるのが、なんとも楽しく、盛り上がる。

卵黄が濃厚なアクセントに

薄く延ばした生地の上に、リコッタチーズとほうれん草をたっぷりのせ、さらに卵黄をのせて閉じ、さっとボイル。

パルミジャーノのコクがポイント

上からたっぷりパルミジャーノレッジャーノ、黒トリュフをかけ、仕上げに焦がしバターをかける。

ワインが進む味わい

フォークを入れると黒トリュフの香りが広がり、黄身がとろりととろけ出す。慌てて口に運べば、まさに至福だ。

第3楽章は、魚の一皿が供される。前菜と同様、五島列島の林さんから仕入れた魚にシンプルに火を入れる。これも鮮度がよいからこそできる技だ。付け合わせも旬の野菜の甘みを生かして、モダンにシンプルに、がモットー。

素晴らしい焼き加減に目を奪われる

いよいよ最終章は、赤崎牛モモ肉の薪焼き。

薪の火力にこだわる

カウンター席からも特等席の場所に設置された薪窯。コースが進行する間、じっくり熾火を作り、最後にステーキにする。

じっくりと焼き上げる

炭火より水分を含んだ熾火の方が肉がしっとり、ふっくら焼けるのだ。

火力を見ながら焼き加減を調整していく

小川氏は言う。「この店を始めるにあたり、薪焼きをやるつもりはなかったんです。しかし、元『ヴァッカロッサ』の渡邊シェフの赤牛のステーキを食べて以来、そのおいしさにとりつかれて。で、窯を作るところからヴァッカロッサの渡邉シェフの指導を受け、今も毎日精進しているところです」と。

中はロゼに仕上がっている

そのこだわりそのままに、薪焼きの赤崎牛は見事な焼き上がりだった。

ぜひペアリングで楽しみたい

また、支配人でソムリエの矢島聡氏がシェフの料理の繊細さに合わせてセレクトするワインも楽しい。イタリアワインにはこだわらず、むしろフランス産が多いそうだが、それも小川シェフの繊細な料理にはその方が合うとのことからだ。

木の扉が目印

コース料金16,500円にティーペアリング6,600円、ワインペアリング9,900円。このように、オルケストラは一度のコース料理でイタリア料理のさまざまな魅力が味わえるレストランなのである。

※価格は全て税込

文:小松宏子
撮影:溝口智彦