〈これが推し麺!〉
ラーメン、そば、うどん、焼きそば、パスタ、ビーフン、冷麺など、日本人は麺類が大好き! そんな麺類の中から、食通が「これぞ!」というお気に入りの“推し麺”をご紹介。そのこだわりの材料や作り方、深い味わいの秘密に迫る。
今回訪れたのは、アートディレクターの秋山具義さんがおすすめする、中目黒に昨年オープンした関西風おでんの店「関西煮 理 OSAMU TOKYO」。三重県桑名産のはまぐりを贅沢に使った〆ラーメンを紹介する。
教えてくれる人
秋山具義
1966年秋葉原生まれ。1990年日本大学芸術学部卒業。広告代理店I&S(現 I&S BBDO)を経て、1999年デイリーフレッシュ設立。広告キャンペーン、パッケージ、写真集、CDジャケット、キャラクターデザインなど幅広い分野でアートディレクションを行う。主な仕事に、東洋水産「マルちゃん正麺」広告・パッケージデザイン、AKB48「ヘビーローテーション」CDジャケットデザインなど。著書に「世界はデザインでできている」がある。2016年より「食べログ」グルメ著名人としても活動。J-WAVE「ALL GOOD FRIDAY」にランチのスペシャリストとして出演している。
開業1年で満席御礼の人気店に! 三重の関西風おでん屋が移転オープン
秋山さん
中目黒の新店は常にチェックしているのですが、三重県の津から中目黒に移転というのをネットで知って、東京で出汁がおいしいおでん屋さんを探していたので、すぐに行きました。
中目黒駅から目黒銀座商店街を歩いて2分ほどのビルの3階。三重県津市で30年続いた「おでんオサム」が、2022年10月に「関西煮 理 OSAMU TOKYO」としてこの地に移転オープンした。
大将の加藤理さんは、辻調理師専門学校で日本料理の基礎を学び、大阪の割烹料理店で3年研鑽を重ねた。この大阪時代に食べ歩きをする中で魅せられたのが、関西風おでんだ。大阪や京都などを中心に親しまれている関西風おでんは出汁の透明感を追求し、おでんに用いられる醤油や牛すじ、トンコツなどを使用せず、出汁を濁らせないクジラの皮を使う。塩ベースなのに、あっさりしすぎない深みとコクのある関西風おでんの味わいが理さんを虜にした。
そこから、22歳で三重県津市にある実家の一部を改装して「おでんオサム」を開業。東海地区では頻繁にメディアに取り上げられる有名店として名を馳せたが、創業30年の節目を前に「東京でも勝負したい」という思いが高まる。子育ても一段落したこと、また居抜き物件が豊富なコロナ禍は出店のチャンスでもあると感じた理さんは、見事東京進出を果たした。
クジラの皮を使った関西風おでん、シズル感がたまらないトマトチーズ鉄板リゾットに垂涎
カウンターから匂い立つ名物のおでんは、松阪市の鰹節店で作ってもらった鰹節、鯵節、鯖節、マグロ節、煮干し、コロと呼ばれるクジラの皮をブレンドした特製出汁だ。練り物業が盛んな津市の「かねまさ商店」の練り物を使うなど、おでんの核となる素材は地元三重から仕入れている。特製の出汁は鰹節など魚介系の角がなく、クジラ独特のクセもなく、奥行きがありバランスの取れたまるみのある味わいだ。
具材は約50種類。出汁だけでなく具材としても使われているコロは、クジラの油で揚げたあと乾燥させたものを仕入れており、水で戻してから油抜きし、おでんに入れて1週間の時間を要す一品だ。外側は香ばしく、中はコラーゲンたっぷりでクジラの滋味があふれる。このほか一般的な大根や玉子、巾着や生麩、タコやイワシのツミレなどもあるほか、なかなか東京ではお目にかかれない松阪牛を使用した「牛すじ」や「牛アキレス」なども選べる。
秋山さん
たらこやレタスなどおでんの具では珍しいものも多く、出汁が本当においしくて、その出汁で食べる明石焼きやトマトチーズ鉄板リゾットなど〆も充実しています。
秋山さんイチオシのおでんのたらこは、別鍋で沸かしたおでん出汁をたらこにまわしかけ、美しい花を咲かせる。おでん出汁とともに火入れされたたらこの外側のホロホロ感と、中のレアなトロッと感のコントラストを味わえる、酒好きにはたまらない一品だ。
秋山さんも言及している「鉄板リゾット」は、同店で20年以上人気のメニューで、毎年冬になると東海地区のメディアで取り上げられてきた。ステーキを提供する際に使われる鉄板皿に、三重県産の無農薬の黒米と白米を混ぜ合わせて炊いたご飯をのせ、塩、胡椒、ガーリックで味付けし、ミックスチーズをふりかけてバーナーで炙り、おでんの丸ごとトマトをのせる。そして、最後におでん出汁を客の前で回しかけると、ジュージューと出汁の匂いと煙が上りたつ。出汁やチーズが溶け合ったおこげに、トマトの酸味やうまみ、甘みが咀嚼するたびに口の中に広がる。