〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

地元・川崎にゆったり集えるレストランを

内観。店の中央にあるコの字カウンター。いろりを囲むように落ち着いてくつろぎのある空間をめざした

川崎市多摩区の小田急線・読売ランド前駅周辺には、郊外の住宅地らしいのんびりした街並みが広がる。「IRORI」は地元出身の兄弟2人の手によって2017年にオープンした。ソムリエで兄の伊藤雅さんはレストランのマネージャーを経て飲食コンサル、シェフで弟の伊藤優さんはイタリア修業を経て料理人と、それぞれのフィールドで活躍していた。

左からソムリエの伊藤雅(まさし)さん、シェフの伊藤優(まさる)さん

「2人で独立を考えた当初は都内で物件を探していましたが『地元に家族で集まれるレストランがないね』という話になり、だったら自分たちでつくろうとなりました」と雅さん。店づくりをするに当たっては、地元の家族連れや大学生でも「ちょっとした贅沢気分」で使えるように、都心にあるレストランほど料理も自然派ワインもとがりすぎないようにして、ボリュームがあってリーズナブルな価格設定にした。

6人まで、ゆったり使える大きなテーブル席。反対側にはソファタイプのテーブル席もある

たとえば、ランチのショートコースは2,200円〜、ディナーコースは4,800円〜。アラカルトも用意され、ディナーは飲んで食べても1人7,000円ほどでおさまる。その結果、誰にとってもおいしくてコストパフォーマンスの高い店に。今では評判を聞きつけて都内から訪れる人も多くなっているという。

桃のカプレーゼ✕フランチャコルタ

桃のカプレーゼ(2,200円)
ナイフを入れると、クリーミーなブッラータチーズがとろけ出る!

前菜の人気メニューは、季節のカプレーゼ。今の時期は山梨県産の桃を1個丸ごと贅沢に使ってブッラータチーズと合わせた「桃のカプレーゼ」が登場。ブッラータチーズは、優さんが修業したイタリアから直送されることも。日本人が好きなミルキーで濃厚なタイプを選んで使われている。ブッラータチーズにナイフを入れるとクリーミーにあふれ出て、口の中で桃の甘さとミントの清涼感が一体になってとろけ、たまらないおいしさがやってくる。

1701(ディチャセッテウノ)のフランチャコルタ ブリュット・ナチュールNV(グラス1,200円、ボトル8,000円)

桃のカプレーゼには、イタリアの高級スパークリングワインであるフランチャコルタがおすすめ。「ブッラータチーズとフランチャコルタに共通する酵母感がマッチし、桃の甘みとチーズのクリーミーさを心地よく流してくれます」と雅さん。軽やかな泡立ちも清涼感があり、甘く爽やかな食事のスターターとなっていた。

カチョ・エ・ペペ✕ほろ苦オレンジワイン

カチョ・エ・ペペ(1,780円)

IRORIのパスタは、具材がごろごろ入るものよりもシンプルに素材感を引き出したメニューが中心。「カチョ・エ・ぺぺ」はスパゲットーニ(太いスパゲッティ)にチーズとコショウをからめたローマの郷土料理だが、IRORIではパルミジャーノとペコリーノを上にどっさりかけて仕上げられている。まるで粉雪のような繊細なチーズが既視感のないビジュアルだ。

粉雪のように繊細な2種類のチーズがからむ

「たっぷりのせることで、チーズをからめながら食べてもらえるので、濃い部分と薄い部分で味のランダム感が出て、おつまみっぽく味わっていただけます」と優さん。上にのせられていることでチーズの香りも豊か。チーズがかたまることもあるスパゲットーニが、ジューシーなまま繊細にチーズがからまるおいしさ。ぜひ一度味わってみてほしい、新感覚のカチョ・エ・ぺぺだ。

アリアンナ・オキピンティのSP68ビアンコ2016(グラス1,300円)

カチョ・エ・ぺぺには、イタリアのオレンジワインをペアリング。「色は濃いですが、レモネードのような抜け感があるワインです。ズィビッボという品種特有の苦味もあって、チーズの乳酸っぽさを重くしません」と雅さん。なるほど、カチョ・エ・ぺぺの旨味をほろ苦さでまとめてくれるアッビナメントだった。

ポルケッタ✕好バランス赤ワイン

仕上げは炭火の炎で香りづけ
ポルケッタ(2,980円)

IRORIの肉料理は、塊肉を炭火焼きしたメニューが自慢。ローマなどイタリア中部の郷土料理である「ポルケッタ」は豚肉をオーブンでじっくり7時間焼き固めて、炭火で香りづけ。たっぷり200g切り分けられたポルケッタは、脂がほどよく落とされ、肉の味わいがジューシーに凝縮。ハムのような旨味がありながら香ばしさもある至福のおいしさだった。

イル・パラッツィーノのトスカーナ ロッソ・デル・パラッツィーノ2019(グラス1,000円)

ポルケッタにはイタリアを代表する赤ワイン品種のサンジョヴェーゼを合わせてもらった。「ポルケッタとトスカーナ州のサンジョヴェーゼは王道の組み合わせです。古樽を使った赤ワインなので樽香が気にならず、果実の旨味がしっかり表現されています」と雅さん。豚肉の甘みのある旨味とほどよいボリューム感のある赤ワインは上品にマッチしていた。

ソムリエ伊藤雅さんの「私が恋した自然派ワイン」

レミ・セデスのキュヴェ・サンプルムース ロゼ2021(ボトル8,000円)

ソムリエの伊藤雅さんが恋した自然派ワインは、初めて自然派ワインを飲む人におすすめのワイン。

「ラベルがグレープフルーツの断面になっていますが、本当にグレープフルーツの味がするロゼワインです。僕自身、2004年くらいから自然派ワインを飲みはじめましたが、最初に飲んだ時にフルーツそのものを食べているようなピュアな果実感に引かれました。

このワインもジュースのような飲みなじみの良さがあって、旨味もしっかりある。自然派ワインを初めて飲む人にこそおすすめしたい1本です」

入門になる自然派ワインをラインアップ

IRORIでは、イタリアワインを中心にヨーロッパやオーストラリアのワインをラインアップ。産地にはこだわらず、初めて自然派ワインを飲む人でも、素直においしいと思えるワインがそろえられている。ボトルワイン(4,800〜15,000円)は100〜150種類、グラスワイン(750〜1,300円)は10種類を用意。グラスワインはたっぷ100mL注がれ、ワインをガブガブ飲みたいという人にはハウスワインもある。

家族や恋人とゆったり過ごしたいときに

外観

IRORIの店内を改めて見渡すと、広々したつくりになっている。店の中央にあるコの字カウンターの幅は1m以上あり、テーブルの配置もかなりゆったり。コンセプトである「いろりを囲むように」は店内のインテリアでも表現されている。家族で落ち着いておいしいものを食べたい、くつろいでデートを楽しみたい。そんなときにおだやかで贅沢な時間を過ごせるだろう。

※価格はすべて税込

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:木村雅章