【肉、最前線!】

数多のメディアで、肉を主戦場に執筆している“肉食フードライター”小寺慶子さん。「人生最後の日に食べたいのはもちろん肉」と豪語する彼女が、食べ方や調理法、酒との相性など、肉の新たな可能性を肉愛たっぷりに探っていく。奥深きNEW MEAT WORLDへ、いざ行かん!

 

今回登場するのは、近年のレトロブームのなか、再注目を浴びているやきとん。専門店ならではのマニアックな部位も並びつつ、女性ひとりでも行ける店構えはネオ大衆酒場とも呼ぶべき装いだ。

Vol.16 日本発のエネルギッシュな肉文化!肉と大衆編

うなぎに馬肉、すっぽんなど“精が付く”と言われ、昔から日本人に親しまれてきた食べ物は数あるが、なかでも最近、ふたたび人気を集めているのがやきとんだ。

やきとんの第一次ブームが起きたのは関東大震災直後のこと。復興に向かうなか、活力が湧く食べ物として人気を集め、大衆の胃袋を支えたと言われている。第二次ブームを迎えたのは終戦後で、東京のいたるところに出現した闇市にはやきとんの屋台が多く見られたという。

 

いまでもかつての闇市があった場所や工場が密集していた地域には「安くて、旨くて、精が付く」やきとんを提供する店が軒を連ねているが、最近は大衆酒場人気や昭和レトロブームもあって、やきとん専門店の人気が再燃。老舗だけではなく若い世代の焼き手も増え、新店も続々とオープンしている。

なかでも注目は蒲田の人気店「いとや」の系列として目黒にオープンした「もつ焼き ひろや」。酒場好きのあいだで話題を呼び、強豪多い目黒で早くもリピーターを掴んでいる。

 

女性ひとりでも入りやすい清潔な店内には、やきとんの部位名が書かれた木札がずらり。たん、はらみ、ればなどおなじみの部位からさがりやブレンズ、あみればといった専門店ならではのややマニアックな部位まで揃えており、1本からオーダー可能。

ビールもいいが、大衆酒場の定番、キンミヤ焼酎を凍らせた“シャリキン”のレモンサワーでひと息。

鮮度に自信があるからこその刺身は、ればトロ刺や仔袋刺、はつ刺、あぶら刺など5種前後を用意。食感や旨みを損なわないようにボイルしてあり、柚子胡椒とごま油の風味が香る1番人気のればとろ刺しは、むっちりとした歯ごたえでもつ好きの心をワシ掴みにする。

串は1本140円~。左から、れば、はらみ、ピートロ、なんこつ。左上は、あみれば。

 

内臓肉は部位によって異なる味や食感が持ち味だが、肉の個性をきちんと引き出すためには、素材の鮮度はもちろん、下処理や焼き加減も重要。しろは舌の上に甘みを残しながらとろーりととろけ、仔袋は淡い味わいながらぶりんと歯を押し返すような弾力を持つ。

 

たんはさっくり歯切れがよく、はらみは旨みがギュッと凝縮。どの部位を食べてもくさみやクセはまったくなく、確かな目利きと丁寧な仕事を感じる。皿に塗られた通称“赤いの”は、紅生姜と味噌に七味を合わせたもので、塩気が絶妙。これだけでもお酒がすすむ。

牛もつ煮込み480円、レモンサワー450円。

 

活気のある店内で大ぶりの肉を頬張れば、やきとんが“活力源”として愛されてきた理由がよくわかる。日本で生まれたエネルギッシュな肉文化は、これからも大衆によって守られ、受け継がれていくはずだ。

 

 

写真:富澤 元
取材・執筆:小寺慶子