The World’s 50 Best Restaurants 2023 Group shot

世界で1000人を超える食の識者の投票により、レストランのランキングが決まる「世界のベストレストラン50」。世界のガストロノミーの潮流を決めるとまで言われている。今年で21周年を迎えたそれは、単なるランキングづけというよりも、現代の大きな問題である、ダイバーシティの実現へ向けて大きく前進したようだ。

「セントラル」の躍進!

The World’s 50 Best Restaurants 2023 No.1 winner

なぜなら、2023年のアワードで1位に輝いたのは南米・ペルーの「セントラル」。20年という期間を経て、初めて欧米以外の国が頂点に上り詰めたのだ。しかもそれがペルーということも、大きな意味を持つと言えるだろう。シェフのヴィルヒリオ・マルティネスは、クスコにも「ミル」をオープンし、ペルーの原種の野菜の研究や、雇用の創生など、社会活動にも熱心なのだ。ミルを切り盛りするのは夫人のピア・レオン。二人三脚で素晴らしい店を作り上げてきたのである。昨年、東京に唯一の海外店舗となる「MAZ」を開き、大きな話題にもなったが、それも、ペルー料理を地球の裏側の日本でも知ってもらいたいという気持ちからだ。今回の受賞で、愛するペルーの料理を世界に広めるという夢がまた一つかなったとも言える。

日本のレストランも健闘

俊太朗
「傳」   出典:俊太朗さん

日本勢の結果は「傳」21位、「フロリレージュ」27位、「セザン」37位入賞、という、昨年が初の日本の4店舗ランクインと比べると、やや残念なものに終わったと言えよう。日本のガストロノミー業界を牽引し続けている「NARISAWA」は惜しくも51位、昨年41位でランクインした「ラシーム」は60位と後退する結果となった。

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「フロリレージュ」   出典:みっきー0141さん

しかし、2023年のアジアベスト50で、いきなり2位にランクインした「セザン」が37位に初エントリーと明るい材料もある。昨年1年の投票権を持つ評議員の動きを考えると、コロナ禍の影響がまだ残っているのだろう。なぜならアジアのトップが、シンガポール「オデット」の14位。アジアベスト50で1位だった「ル ドゥ」が15位ということを考えると、欧州、南米に比べて評価が低いとも言える。今年のインバウンドの勢いからみても、来年に期待したいところだ。

注目のニューエントリー

「セザン」 写真:お店から

ニューエントリー12軒という、入れ替わりの激しさにも注目したい。なかでも目を見張るのが、ドバイからのニューエントリー2軒だ。うち1軒の「トレシンド スタジオ」は、いきなり11位にランクインと驚かされる。これまでの長い歴史の中で中東からの入賞はなかったことを考えると、これもまた、今回のアワードの象徴的なできごとと言えるだろう。一昨年から、ミドルイーストアワードが設立された、その効果が早くも表れていると考えられる。現在の南米勢の活躍も、十数年前にサウスアメリカアワードができたことにほかならない。そうしたことを考えると、ベスト50には、ガストロノミーによる地域おこしの側面があるとも言える。そのほかにもフランス、イギリス、タイ、コロンビア、日本と広範囲な国からニューエントリーレストランが出ている。これは、各国の評議員、フーディが常に新店を発掘しようとしているからにほかならない。日本は「セザン」が37位に入った。

圧倒的な強さのスペイン

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スペイン「ディスフルタール」   出典:natsu-kingさん

今回も圧倒的な強さを見せたのがスペインだ。21年前のアワード創設時からの伝統とはいえ、その影響力は変わりない。2位、3位、4位を占めたほか、全部で6店舗の入賞をはたしている。しかも、マドリッド、バルセロナ、ビルバオ近郊、バレンシア近郊と、全土から入賞しているところも、スペイン勢の層の厚さを物語っている。その次に目立つのは、今回1位に輝いた「セントラル」を有するペルーだ。日系料理を標榜する「マイド」が6位と、その人気はゆるがない。ペルーでは、リマに店が集中しており、リマが美食の都として、急成長してきたことがよくわかる。また、ここ数年評価が高いのがイタリアだ。7位入賞の「リド 84」を含め、5店舗。フランスでは、ハイエストニューエントリー賞を受賞した「テーブル バイ ブルーノ ベルジュ」が注目株だ。ハイエストクライマー賞を受賞したニューヨークの「アトミック」は女性シェフとの二人三脚でこちらも訪れてみたい店の一つだ。北欧勢は「ノーマ」と「ゲラニウム」が殿堂入り(1度1位になると、ベストオブベストと言われ、ランキング外になる)したため、デンマークからは「アルケミスト」の5位、スウェーデンの「フランツェン」30位にとどまっている。ノーマやゲラニウムの遺伝子を受け継ぐ店の今後の活躍に期待したい。

日本酒の魅力もアピール

アワード前の前夜祭も華やかなアワードを彩る楽しみの一つだが、公式スポンサーがドリンクやフードを提供する。受賞シェフは赤いスカーフを巻き、皆、うれしそうに、談笑していた。主力スポンサーはサンペレグリノ&アクアパンナだが、そのほかの公式スポンサーは、入れ替わる場合もある。去年から公式スポンサーに参入した、旭酒造の獺祭は今年も、クールなブースを設け、多くの外国人が次々にグラスを手にしていくさまはなんともうれしい。鏡開きも盛大に行われ、日本の酒の魅力を広めた。

撮影:小松宏子

受賞店一覧

1 Central セントラル(ぺルー)
2 Disfrutar ディスフルタール(スペイン)
3 Diverxo ディヴェルソ(スペイン)
4 Asador Etxebarri アサドール エチェバリ(スペイン)
5 Alchemist アルケミスト (デンマーク)
6 Maido マイド(ペルー)
7 Lido 84 リド84(イタリア)
8 Atomix アトミックス(USA)
9 Quintonil キントニル(メキシコ)
10 Table by Bruno Verjus(フランス)
11 Tresind Studio トレシンド スタジオ(アラブ首長国連邦)
12 A Casa do Porco ア カサ ド ポルコ(ブラジル)
13 Pujol プジョル(メキシコ)
14 Odette オデット(シンガポール)
15 Le Du ル ドゥ(タイ)
16 Reale レアーレ(イタリア)
17 Gaggan Anand ガガン アナンド(タイ)
18 Steirereck シュタイラーエック(オーストリア)
19 Don Julio ドン フリオ(アルゼンチン)
20 Quique Dacosta キケ ダコスタ (スペイン)
21 Den 傳(日本)
22 Elkano エルカノ(スペイン)
23 Kol コル(イギリス)
24 Septime セプティム(フランス)
25 Belcanto ベルカント(ポルトガル)
26 Schloss Schauenstein シュロスシャウエンスタイン(スイス)
27 Florilege フロリレージュ(日本)
28 Kjolle キホル(ペルー) 
29 Borago ボラーゴ(チリ)
30 Frantzen フランツェン(スウェーデン) 
31 Mugaritz ムガリッツ(スペイン)
32 Hisa Franko ヒシャフランコ(スロベニア)
33 El Chato エルチャト(コロンビア)
34 Uliassi ウリアッシ(イタリア)
35 Ikoyi イコイ(イギリス)
36 Plenitude プレニチュード(フランス)
37 Sezanne セザン(日本)
38 The Clove Club ザクローブクラブ(イギリス)
39 The Jane ザ ジェーン(ベルギー)
40 Restaurant Tim Raue レストラン ティム ロー(ドイツ)
41 Le Calandre レ カランドレ(イタリア)
42 Piazza Duomo ピアッツァ ドゥオーモ(イタリア)
43 Leo レオ(コロンビア)
44 Le Bernardin ル ベルナルダン(アメリカ)
45 Nobelhart & Schmutzig ノブルハット&シュマッツ(ドイツ)
46 Orfali Bros Bistro オーファリブラザーズビストロ(アラブ首長国連邦)
47 Mayta マイタ(ペルー)
48 La Grenouillere ラ グルヌイエール(フランス)
49 Rosetta ロゼッタ(メキシコ)
50 The Chairman ザ チェアマン(香港)

文:小松宏子