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おしゃれフードトレンドを追え! Vol.7
アパレル出身者が手がけるラーメン店は、他店と何が違うのか?
ファッション業界を辞めて、一念発起してラーメン屋さんになる人が最近目立つ。「脱サラしてラーメン屋を始めました」というのは、人気ラーメン店の鉄板ストーリーだが、最近は話題の店について調べると、実はアパレル出身ということも多く、元ビームス役員の方など私が身近な存在もちらほら。皆さん30~40代の男性で、ファッション分野でもそれなりのキャリアを積んだ人たちだ。ラーメン好きが高じてファッションの世界を飛び出し、独学でラーメンを究めたという経歴がほとんどで、確かにラーメン好きのファッション好きは多いなぁと思い出す。某レディスブランドS.Tのプレスたちも、ランチにはこぞって人気ラーメン店の行列に並ぶと聞くし、メンズ誌の地方ロケでは必ず一軒は地元の有名店に行ったことを覚えている。忙しいファッション業界人には、“早い・安い・旨い”は必須だ。それに個性と地域性が加わるのだから、メンズたちが夢中になるのも納得できる。女性のアパレル出身者でも食の業界へ転身する人が多いが、決してラーメンには行かない。ラーメン界に飛び込むのは、カジュアル系のメンズファッション出身者ばかり、というのがお約束だ。
アパレル出身ラーメン店の先がけ、麺屋武蔵
アパレル出身ラーメン店のパイオニアと言えば、麺屋武蔵だろう。遡ること21年前の1996年、ラーメン店がまだ男臭~い世界だった当時、唯一インテリアやBGM、ユニフォームなどに新しいセンスを取り入れていた店だ。アパレル出身の創業者・山田 雄さんは、今までにないラーメン店を作りたいと麺屋武蔵を東京・青山にオープン。間接照明を使ったインテリア、ジャズのBGMといった従来のラーメン店からは考えられない空間が当時話題となった。創業者の言葉に「お客様は、仕事や遊びの状況によって服を替えるように、モノ(ラーメン)だけを食べに来ているわけではない。モノにまつわるコトも一緒に楽しんでいるんだ」とある(『麺屋武蔵ビジネス五輪書』著者: 矢都木二郎 Gakkenより)。そうそう、これって「洋服はただのモノではない、お客様は服の背景にある世界観を買ってくれているんです」というアパレル屋の十八番フレーズを、ラーメンに置き換えたものではないか!? 現在、麺屋武蔵は都心部を中心に現在国内14店を構えている超有名店。店内はモダンで清潔、BGMの音も良い。さらには爽やかでかっこいいスタッフがきびきびと働いているのだ。
麺屋武蔵 新宿本店(出典:hamnibalさん)
麺屋武蔵はさておき、新時代のアパレル出身系ラーメンはさらに活気づいている。内装はオシャレとはほど遠く、簡素でシンプルなものが多いが、体に良い無添加のラーメンにかける情熱は熱い。天然だしを用いた優しい味わいのラーメンが主流で、何度足を運んでも飽きないあっさりさが魅力だ。これ見よがしのオシャレ空間よりも、そっけないくらいのほのぼのムードが、ラーメンマニアとラーメンファンでない客層の両方を安心させてくれるのだ。
アパレル出身者が作るラーメンはヘルシー?
アートマサシヤ(出典:神楽坂しげさん)
そんな元アパレル業界人が手がけるラーメン店で、ヘルシー系ラーメンの筆頭は「アートマサシヤ」だ。沖縄の「正志や」が東京に移転し、改名してオープンしたものだ。 ビームス原宿店の店長を務めていたという店主は、無修行・独学でラーメン作りを学んだ。 無化調天然素材100%のスープに合わせるのは 、リン酸を含まず、少量のかん水を加えて打った、江戸玉川屋に特注した麺だ。身近にも週2回は通う知人もいるが、ここの優しい味を知ったらそれもうなずける。喫茶店のようなインテリア、子供ラーメンもありでベビーカーも入店OKの優しいお店だ。
九段 斑鳩(出典:或 真宗さん)
九段 斑鳩もラーメン好きが高じて独学しオープンした元アパレル系ラーメン店だ。化学調味料に頼らず、高級料亭で使う本枯れ鰹をはじめ、厳選の天然素材を二十種類ほど使っている。黒を基調とした和風の趣で大正ロマンを感じさせる店内は、女性一人で来店しても居心地がいい。
Japanese Soba Noodles 蔦(出典:ぴーたんたんさん)
巣鴨の超人気店、Japanese Soba Noodles 蔦は、行列1時間待ち必至。ムール貝、ポルチーニ、牛肉、乾物、野菜等でダシをとってトリュフオイルと粉末を添えて作るスープ、上品な味わいが外国人の舌をも唸らせているようだ。
アパレル出身者がラーメン店を開く理由
麺屋 坂本01(出典:たりらんさん)
そのほか麺屋 坂本01など枚挙にいとまがないほど、アパレル業界を経てラーメン業を始めたオーナーは多い。どうしてこんなにラーメンだらけなのか? ふと考えた。
他業界と比べて、若い頃の給料が安いことで知られるアパレル業界。しかし服への愛はもちろん、食べることへの追求も忘れないのがおしゃれ男たちだ。彼らが1,000円ちょっとで追求することができるのがラーメンだった、とも考えられる。フレンチを究めるほどお金に余裕がないのが我々アパレル業界、ラーメンくらいがちょうどいい価格帯なのだ。さらに、不規則な生活で時間がないのもアパレル業界。やっと抜け出した食事タイム、深夜に開いているのはラーメン屋ばかり。気になるラーメン屋に通ってはハマり、オフタイムには自分でラーメンを作るようになったのだろう。時代の流れでもある健康系無添加ラーメン作りに邁進していく彼らのひたむきさが見えてくる。
ファッションの世界を飛び出してラーメンで頑張るアパレルオーナーたちは、やはり着こなしや佇まいがおしゃれだ。Tシャツ姿でさえも様になっているのはファッション業界にいたからなのだと思う。髪型や、頭にさりげなく巻いたバンダナなど、他のラーメン店のスタッフとは違うのだ。そういえば、一風堂 NY ウエストサイド店の制服はファッションブランド、エンジニアドガーメンツが手がけていて、“オシャレ過ぎる制服”と話題になった。人気ブランドがユニフォームを手がけるコラボが今後さらに盛んになり、ラーメンはおしゃれなストリートフードになっていくのか?
お金はないけれどラーメン愛に溢れたオシャレBOYS、応援していきたい存在だ。