ずらりと並ぶ鍋の下、集結しているのはグルメ界を代表するトップシェフばかり。場所は渋谷区神宮前のブティックホテル「TRUNK(HOTEL)」の地下1階。バンケット(宴会)用の大型キッチンは極彩色のスポットライトに照らされ、クラブスペースと化していた。
4年ぶりに開催された「Chefs Gathering」に潜入!
2023年4月2日の20時からはじまった「Chefs Gathering(シェフズ ギャザリング)」。参加者の大多数は国内外の人気シェフであり、それぞれが手掛けた料理を振る舞い合う。世界でも類がない、シェフによるシェフのためのキッチンイベントだ。
会場には、その数日前にシンガポールで行われたばかりの「ASIA’S 50 BEST RESTAURANTS(アジアのベストレストラン50)」の受賞者たちも駆けつけていた。
コンテンポラリー・タイ料理店「Le Du(ル ドゥー)」で1位、創作タイ料理店「Nusara(ヌサラー)」で3位と、ダブル受賞を果たしたトン氏。多忙を極める中「Chef’s Gathering」のためだけに来日し、翌日にはタイに帰国するという。
ほかにも2位にランクインした「SÉZANNE(セザン)」ダニエル・カルバート氏、4位「傳(でん)」長谷川在佑氏、8位「La Cime(ラシーム)」高田裕介氏など、会場は右も左も名だたる料理人で埋め尽くされている。
アジアのベストレストラン50にランクインしたのは、参加シェフ40名のうち7名。「オリジナリティとフィロソフィ(哲学)を持っている料理人」をイベントに招待したところ「たまたま受賞が重なっただけ」と笑うのは発起人の本田直之氏だ。
目標はトップシェフたちをつなぎ合わせるキュレーター
そもそも2017年にスタートした「Chefs Gathering」は、もっと小規模でプライベートな集まりだった。「フレンチ、イタリアン、和食、チャイニーズ……それぞれのシェフがカテゴリーを超えてつながる機会って、実はあまりないんです。もったいないじゃないですか。そこで、さまざまな発見や新しい変化が生まれる、ボーダーレスな場を作りたかった」というのが開催のきっかけ。そこから「TRUNK(HOTEL)」代表の野尻佳孝氏のアイデアで「もっと突き抜けたことをやろう」とバンケットキッチンのクラブ化に発展。コロナ禍で中断するも無事4度目の開催を迎えた。
「日本は、まだまだシェフたちの本当の価値に気づいていない人が多すぎます。彼らはアーティストなんです。すでに世界中から引く手あまたの存在なのに、国内では十分な評価を得られていません。正しい価値を広めるための応援がしたいんです」と熱く語る本田氏。食通、実業家、ブックプロデューサーなど多彩な肩書を持つが「Chefs Gathering」で自称するのはキュレーターだ。優れた作品を生み出す、トップシェフをつなぎ合わせる役割を担う。
いつか食べてみたい! 一夜限りの夢の共演から飛び出した革新的な料理
過去の開催では、生ハムと寿司が奇跡の融合を果たして定番メニュー化するなど、シェフが繋がることで生まれる化学反応はさまざま。今回は特に銀座の寿司屋「はっこく」の佐藤氏によるコラボレーションが目立っていた。
イベントで印象に残ったのは、革新的な料理だけではない。エネルギーに満ちたシェフたちの笑顔だ。表情だけ見れば学園祭で盛り上がる若者のようだが、その手が生み出す美食の数々は、紛れもなく世界最高峰である。
19世紀後半から20世紀前半にかけ、印象派、フォービズム、キュビズムなどの画家たちがパリ北部のモンマルトルに集って絵画の文化を飛躍的に発展させたように、才能が集まるところには新しい潮流が生まれるもの。コロナ禍でせき止められていたトップシェフたちの熱い思いが、ここから爆発的に広がるのではないか……。4年ぶりの開催となった「Chefs Gathering」は、ポジティブな予感に満ちあふれていた。
撮影:佐藤潮
文:佐藤潮、食べログマガジン編集部