年に1回、食べログユーザーからの投票で決まる「The Tabelog Award」。全国に星の数ほどある飲食店から選び抜かれる受賞店の魅力を伝えるとともに、店主の行きつけの店をご紹介。虎ノ門の日本料理「と村」の店主が繰り返し足を運ぶお気に入りの店とは?

〈一流の行きつけ〉Vol.12

日本料理「と村」虎ノ門

高評価を獲得した全国の店の中から、さらに食べログユーザーたちの投票によって決定する「The Tabelog Award」。どの受賞店も食通たちの熱い支持によって選ばれただけに、甲乙付け難い店ばかりだ。

当連載では一流店のエッセンスを感じてもらうべく、受賞店の魅力やこだわりとあわせて店主が通う行きつけの店を紹介する。

第12回は日本料理「と村」の店主である戸村仁男(とむらきみお)氏に話を伺った。2017年のGold受賞を皮切りに、7年連続で各賞受賞。2021年、2023年には「食べログ 日本料理 TOKYO 百名店」にも選出されるなど、輝かしい栄光を手にしてきた。そんな「と村」店主のお気に入りとは?

四季の営みと食材を知り尽くして生まれる至高の日本料理

サプレマシー
出典:サプレマシーさん

虎ノ門の路地に藍染の暖簾を掲げる「と村」は、この道50年を迎えようとする料理人・戸村仁男氏が板場に立つ日本料理の店である。全国から集まる旬の食材を揃え、京都仕込みの伝統技術を基本に、豊富な知識と長年の経験によって最上級の美食に仕立て上げることが特徴だ。土地の成り立ちと自然の理から最も良い食し方を丁寧に探究し続ける「と村」の料理は、食通の胃も心も虜にする。

代々木乃助ククル
出典:代々木乃助ククルさん

夜の部のみ営業する「と村」は季節の最旬を味わえるお任せのコースを用意する。戸村氏は「食べ物が主役」を信条に、素材の良さを最大限に引き出すために、仕事は限りなく控えめに施していく。

長い時間をかけ、全国に信頼のおける人脈を地道に築いてきた戸村氏はこう語る。

「私が常に気を配っているのは、食材を“いかに活かすか”ということです。食材を活かすためにはその食材を産み出す地球のことから知らないといけません。土のこと、空のこと。日本にある森や山、川や海。土地のことを深く知っているのは、その地で生きる地元の人なのです。全国の方々とのご縁を大切にして、食材を届けてもらっています」

写真:お店から

『京料理 と村』をオープンしたのは1992年。以来、30年以上にわたって店を続けながらも「これでいい」と感じたことはいまだにないと言う。今日よりも明日の方が上手になる。さらに良くするには、もっとおいしく食べるにはと、わずかでも改良を重ねていく。そういった試行錯誤は全く苦にならず、自らのめり込んでしまっているのだと笑顔で語るのも印象的だ。毎年少しずつ料理を変化させるのはリピーターの感動を超えるために、という思いがある。

尾州桧のカウンターで春夏秋冬の美味と出合う

うどんが主食
出典:うどんが主食さん

尾州桧を使ったカウンター6席と個室2部屋の空間に集う美食家たちは、季節ごとに登場する特別な食材に期待を寄せる。

春はタケノコ。戸村氏は一年を通して土づくりからはじまるその年の集大成を確かめに京都・樫原を毎年訪れる。

「北大路魯山人も『筍(タケノコ)の美味さは第一席』と語ります。中でも京都・樫原のタケノコを『古来第一』と称賛しています。タケノコは炊いてお出しするのが一番良いでしょう」

紅茶に浸したマドレーヌ
出典:紅茶に浸したマドレーヌさん

戸村氏は生産者と顔を合わせ、タケノコの生育の様子やその年の出来栄えを丹念に確かめる。そのうえで、出汁の構成をわずかに変え、火の入れ方も秒単位で調整を施し、香り高く、溶けるような味わいへと仕上げていく。2023年は「例年とは趣向を変えて、焼いてお出しする準備もしています」というから楽しみだ。

うどんが主食
出典:うどんが主食さん

夏は金鮎に、天然ものの鰻。秋はスッポンやまつたけ。冬は鴨や熊といったジビエにカニ。どれも地元の人と信頼を築かねば手に入らない貴重なご馳走ばかり。だからこそ戸村氏は食材そのものを尊重する。手間ひまを惜しまず丁寧に、でも無用な仕事はそぎ落としてシンプルに。「仕事をしないのが、仕事です」という戸村氏の哲学は誰もが惚れてしまうだろう。