調和と驚きが凝縮された本場の味わい

様々な食感と香りを味わえる「焼物4種盛り合わせ」

「焼物4種盛り合わせ」1,600円

漢方豚の窯焼き叉焼、香り鶏の醤油煮、豚トロの黒コショウ焼き、皮付き豚バラ肉のクリスピー焼き……一つひとつが異なる食感と香り、味わいを持ち、噛みしめると肉本来の旨味が口内に広がってゆく、まさに至福の時間。

 

森脇さん

豚バラ肉のクリスピー焼きも、カリカリに焼いた皮付きの食感と身のしっとり感のコントラストが楽しい。バラ肉ですが、脂少なめのところを選んで作っているのも、女性には嬉しいところです。

実は、きれいに正方形に切りそろえるだけでも難しいという豚バラ肉の焼物。パリッとした皮とその下のゼラチン質のもっちりした歯ごたえは、この料理でしか味わえない

焼物は、料理人の腕と知識が顕著に出るものの一つ。

例えば豚バラ。重曹で薄皮を取り、茹でて皮を膨らませ、皮のゼラチン質がどういう状態かを細かく見極めながら火を入れていく。素材の状況で塩の量や切れ目の深さなどを調整し、数多の工程を経て、口に入る状態になるまでかかる時間はおよそ3日間。

藤井シェフ曰く、なぜその工程が必要なのか一つひとつをきちんと理解して、そして手間暇をかけないと完成形にならない……それが焼物の奥深さとのこと。

食材の組み合わせや技法に料理人のセンスが光る「スープ」

金華ハムでとられたスープに鶏むね肉、ナツメや乾燥の長芋やヒメマツタケ、干し貝柱などが入った「金華ハムの蒸しスープ」2,400円

この店で必ず食べてほしい名物はまだある。月ごとで中身が変わる「本日のスープ」をはじめとしたスープ類だ。

器ごとじっくり蒸し上げて作る中華ならではの手法で作り出される蒸しスープは、蓋を開けた瞬間の香り高さと、素材一つひとつの風味が際立ってくるクリアな味わいが魅力。

小さな器の中で調和の取れた世界が構成されている……そんな感慨すら覚えるおいしさだ。

 

森脇さん

金華ハムと老鶏、豚赤身肉に竜眼をじっくり5時間ほど蒸して取る上湯に、衣笠茸やナツメ、山薬などの漢方素材を入れ、更に2時間ほど蒸して作るスープは、様々な素材の旨味が滲み出て、深淵な味わい。身体に染み入るようなおいしさです。

こちらはコースメニューの中の一品、鴨の炊き出しスープ

一方、ときには「炊く」スープも登場する。鴨という素材の力をなるべく活かすべく、雑味を出さないよう丁寧に取られたスープは、炊きだしスープとは思えない繊細さで、鴨の滋味が身体に染み渡っていく。

スープは技法自体はシンプルながら、素材の組み合わせに料理人のセンスが出るもの。今月はどんなものが登場するか、一期一会の出合いを楽しみにする客が多いのもうなずける。

変わり種ハイボールや麺類など、細部に至るまでおいしさが満載

「麻辣ハイボール」700円

これだけの料理とはぜひアルコールも一緒に合わせたいところ。ぜひこちらで飲んでほしいのは、山椒と唐辛子が入った「麻辣ハイボール」。「ハイボールに唐辛子!?」と驚くなかれ、これが驚くほどマッチするのだ。ほのかな辛味と山椒の香りがハイボールに爽やかな風味を加えるので、パンチの効いた広東料理との相性も抜群ながら、ついつい杯が進んでしまうという非常に危険な(?!)一杯。

こちらはランチでも注文できる「香港海老ワンタン麺」1,800円

食事の締めには、名物のワンタン麺をぜひいただきたい。こちらも広東料理では外せないメニューだが、大振りのワンタンに噛み付くと口内に弾けるプリップリの海老の食感、老鶏と豚モモ、金華ハムで取られた、あっさりしていながら旨味が凝縮されたスープ、歯ごたえの良い香港麺……ここにも藤井シェフの手掛ける“正統派広東料理”の真髄が詰まっている。

香港から輸入している麺は、プツンとした端切れの良い食感がなんとも楽しい。町場の「ワンタン麺」とは一線を画する、本場の味わい
 

森脇さん

国産の生麺を用いた香港海老ワンタン麺は、シャキッと歯切れの良い麺とつるりと滑らかなワンタンの皮、そしてプリッとした海老の歯応えと3つのテクスチャーのコンビネーションの妙も魅力です。

藤井寛シェフ。彼の飾らない人柄と接客も、多くのファンを生む

藤井シェフに中華の料理人を目指した理由を伺うと「子供の頃からとにかく中華が好きだった」とのこと。ファミレス中華から、昔池袋のサンシャイン60階にあった「聘珍楼」などの高級中華など、幅広く影響を受けたという。

料理の世界に入り、修行を続けるうちに広東料理の奥深さにさらに魅せられ、そしてたどり着いたのが今のスタイル。一品一品はとてもシンプルかつ完成度が高いものながら「中華料理って、こんなにおいしいんだ」という静かな感動を貰えるような料理が多いのは、シェフがかつて“中華料理”から得た驚きと感動が込められているからでは……そう思えてならないのだ。

※価格はすべて税込

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認ください。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

撮影:和田咲子

文:川口有紀(フリート)