磨き上げた技と創意が光る絶品握り4選

推薦人の森脇さんがおすすめする握り3品と、濱野さんイチ押しの寿司ネタをご紹介。いずれも新進気鋭の実力派、濱野さんの創意工夫がきらりと光る。

希少部位に藁の香りをまとわせた「鮪の脳天の燻製」

包丁目から染み出る脂の旨味もたまらない

「一宇」で提供するメニューは、料理5~6品と握り10~12貫を組み合わせた19,800円のおまかせコースのみ。序盤を彩る一品料理に続いて供される握りは、季節や仕入れにより変わるが、森脇さんが味わった中で真っ先に挙げてくれたのが「鮪の脳天の燻製」だ。

鮪の頭の両脇にある身が脳天で、1匹の鮪から2本しか取れない希少部位。脳天をメニューに加える寿司店はほとんどないと言っていいだろう。

ここで用いる調理法は藁の燻製。火が入らないよう湿らせたペーパーで脳天を包み、藁の煙で燻し、軽く漬けにして仕上げる。藁特有の香り、大トロ並みの脂のり、赤身の濃厚な味わいが口中で三位一体となり、まさに絶品。日本料理で培った技法に、濱野さんならではのエッセンスを加えたオリジナリティを感じる一貫である。

 

森脇さん

新参なので鮪の仲卸さんとの付き合いもこれからかもしれませんが、今手に入る鮪をいかにしておいしく仕上げるかという、ご主人の創意を感じます。

ねっとりとした舌触りに衝撃の「アオリイカ」

独特の食感と旨味を堪能できるアオリイカ

森脇さんおすすめの2品目はアオリイカ。この日のアオリイカは“イカの王様”とも呼ばれる徳島産で、甘味が強くモチモチした食感が特徴だ。このイカを2日間寝かせ、包丁目を入れることで、独特のねっとりとした舌触りを楽しませてくれるのが濱野流。おまかせの握りの中で、このアオリイカに衝撃を受ける客も多い。

 

森脇さん

賛否両論ありそうですが、2日間寝かせて包丁でたたいたアオリイカのねっとり、とろける食感がユニークです。

低温調理でしっとり仕上げた「煮ほたて」

低温で炊き、身をほぐしたほたてに、黒七味の品のある辛みがよく合う

3品目は煮ほたて。低温調理でゆっくりと火入れをすることで、しっとりとした食感に。中には黒七味が忍ばせてあり、煮つめの甘辛味に黒七味ならではの深い香りと辛みが相まって、これまた絶品である。

美しい照りのとろりとした煮つめを塗って仕上げる

うまい脂を堪能する「あんきもの軍艦巻」

海のフォアグラとも言われる、あんきもを使ったお酒が進む一品

「あんきもというと鍋など冬のイメージがありますが、夏場のあんきもの脂は冬に比べて味があり、これが実にいい味なんです」と、濱野さんがすすめてくれたのが「あんきもの軍艦巻」だ。

濃厚でなめらかなあんきもに合わせてあるのは、角切りの奈良漬け。異なる食感の食材同士の組み合わせの妙も濱野さんの腕の見せどころである。

地酒や高品質なシャンパーニュなど、酒類の品ぞろえもいい。コースターは雲仙の木工職人による組子

「出雲富士」や「楽器正宗」など、日本各地から選りすぐった月替わりの地酒、シャンパーニュ、ブルゴーニュの銘醸ワインなど、ドリンク類も充実している。いずれも料理とのペアリングを考えたラインアップで、メニューにないものもあり、多様な嗜好に応えてくれる。

目指すのは、寿司と日本料理のバランスの取れた融合

料理と寿司で“自分の色”を追究する濱野さん

今回握りを中心に紹介したが、日本料理の名店で腕を磨いた濱野さんが目指すのは、日本料理と寿司の融合である。

「日本料理か寿司か、どちらかに絞った方がいいと言われることもありますが、一つの店で料理と寿司をいかにバランスよく表現できるか、そこを目指し日々精進しています」と濱野さん。

森脇さんが「寿司店というよりは寿司割烹的なニュアンス」と話すように、料理は、先付け、お造り、お椀、〆の甘味まで、日本料理の名店で培った濱野さんならではの技とセンスが遺憾なく発揮され、いわゆる寿司屋のつまみとは一線を画す。

濱野さんの挑戦は始まったばかり。それだけに壁や課題に直面することもあるが、研究熱心で地道な努力を怠らない濱野さんのこと、着実に前進し、進化を遂げるはずだ。未知の可能性とフレッシュな息吹を感じる「一宇」へ、ぜひ足を運んでみてほしい。

※価格は税込

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

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撮影:齋藤ジン

文:池田実香(フリート)