まるで“飲む椎茸”なスープを合わせた「八色しいたけの七輪焼き」

和のアプローチながらフレンチのエッセンスも感じる「八色しいたけの七輪焼き」
 

森脇さん

月毎に変わるので、その時おいしかったものが常にあるとは限らないのですが、定番の中で好きなのは八色しいたけの七輪焼きと椎茸のスープ。この椎茸のスープが深みがあり、それでいて後口が優しい。

新潟県南魚沼産の菌床椎茸である「八色しいたけ」に太白ごま油をたっぷり塗り、馬目樫の紀州備長炭で7〜8分じっくり焼き上げて提供される「八色しいたけの七輪焼き」。お好みで淡路藻塩とブルーチーズのムースを添えていただく。香ばしい備長炭の香りをまといながら、オイルのおかげか椎茸はしっとりとした食感。ミネラル感のある藻塩、クリーミーでハッとする熟成香のブルーチーズのムースともよく合い、ワインを誘う。

合わせるのは「八色しいたけ」を生の状態で、自家製レーズン酵母を使い2時間ほど発酵させうま味を引き出し、同じく馬目樫の紀州備長炭で焼いた後、すぐに酒、水と塩のみで乳化させたスープだ。塩は、泰の始皇帝の時代に王室に献上された、中国福建省の天然塩であるマザーソルトを使っている。スープは炭焼きしたての最高においしい状態の椎茸を、瞬間的に閉じ込めて凝縮したような味わい。口当たりはポタージュながら、後から炭の香りと椎茸の濃い味わいが広がる、飲む椎茸のようだ。

北京ダックを和の食材で再解釈したスペシャリテ「銀座ダック」

 

森脇さん

定番メニューは、銀座ダックと飛騨の飛び牛を使った料理です。あと、フカヒレの料理も形を変えて毎回登場するようです。

オリジナルの紙ケースに入れて提供される「銀座ダック」は切り取り線に沿って開ければ、手を汚さずにいただける

「NUAGE ET VENT」のスペシャリテが、北京ダックを再解釈し、日本の食材で作り上げた「銀座ダック」。実は山下シェフ、このお店をオープンさせる以前に、フランス料理店だけでなく、六本木の「虎峰(コホウ)」などのイノベーティブ中華レストランでの修業経験もある。北京ダックもクラシックな作り方を学び、今回日本の食材に置き換えてアレンジしたのが「銀座ダック」だ。

京鴨の胸だけを塩でマリネし3週間専用の冷蔵庫で自家熟成し、赤酢と水飴を吸わせて燻製し干した後、太白ごま油を丁寧にかけて揚げている。北京ダックを包むカオヤーピンには、青森の黒ニンニクをベースとしたオリジナルの甜麺醤を塗り、ネギやキュウリのほか、大葉とそば粉のかりんとうを京鴨と一緒に包み込んだ。

北京ダックと違い銀座ダックは、皮だけでなく鴨の身も一緒に包むため、京鴨の肉のうま味もしっかりと感じられる。黒ニンニクの苦味で、一般的な北京ダックより深みと奥行きのある味わいだ。大葉やそば粉のかりんとうなど、さまざまな食感や香りの食材を包み込んでいるため、噛むたびに波打つように味が変わる。一緒に振る舞われる手羽元のだしをペアリングすると、また味が変化するのも面白い。

すっぽんだしで下味をつけたグツグツ沸き立つフカヒレも!

テーブルサーブ後にスタッフが蓋を開けると、グツグツと沸き立つフカヒレが現れ、芳しい香りが鼻をくすぐる

「銀座ダック」と同じく、ベーシックな中華料理を日本食材や違ったアプローチで仕立てたのが「気仙沼のぐつぐつ焼きフカヒレ」だ。気仙沼産のモウカザメのフカヒレは、すっぽんだしで下味をつけ、コーンスターチをまとわせて両面をこんがりとロースト。そのフカヒレを石の器に移し、アツアツのスープをまわしかけ、生湯葉と糸唐辛子をトッピングして提供される。

「一般的な中華料理のフカヒレは少し重たい印象があったのと、コースが13〜14品あるので、フカヒレのスープはあっさりさせています」と山下シェフが言うように、スープは昆布だしと大山どりのブイヨン、合わせ調味料、山椒の実やショウガ、ニンニクなど醤油を使わずに作り、とろみは片栗粉ではなく葛粉でつけ和風な仕立てになっている。一度ローストされたフカヒレは表面のカリカリとしたおこげ感が印象的。プツプツと歯切れの良い食感のフカヒレに、昆布だしなどの滋味深いスープが絡まり、しみじみとおいしい。生湯葉のアクセントも精進料理のような後味を残す。

燻製担々ダレが後を引く“飛び級クラス”の飛騨牛焼きしゃぶしゃぶも見逃せない

テーブルサーブ後に南部鉄器に入ったアツアツの昆布だしを注いでくれる

先ほどシェフは中華料理の経験もあると紹介したが、実は「吉兆」グループなど、日本料理店でも修業した経験を持つ。このさまざまな経験を生かして作っているのが「飛び牛の焼きしゃぶ・燻製胡麻ダレ」だ。

使用しているのは、飛騨牛の中でも数パーセントしかない、A5を上回るランクの飛騨牛だけが呼称できる「飛び牛」。まるで飛び級のようなネーミングだ。同店では33カ月放牧の雌牛を30日ほど熟成した状態で肉選定のプロから直接仕入れ、さらにお店でも冷蔵庫で自家熟成する。「飛び牛」は、イチボの塊を馬目樫の紀州備長炭を使い低温で火入れし、スライスするため、どこかローストビーフのような作り方だ。その後、ゲストが注ぎたての昆布だしでしゃぶしゃぶすることで「焼きしゃぶ」が完成する。

昆布だしで、ゆっくりとしゃぶしゃぶするのがおすすめとのこと

しゃぶしゃぶのタレは、中華の担々スープをベースに改良した燻製担々ダレと、自家製ポン酢とスダチの2種類。フライドガーリックと、ルッコラも添えてある。炭の香りをしっかりまとった飛び牛のしゃぶしゃぶは、赤身と霜降りの良さを兼ね備え、適度な噛みごたえがありつつも舌触りはしっとりしており、上品な脂の甘さもにじみ出る。燻製担々ダレは、ゴマに豆板醤も加えてしっかりと辛みがあり、脂が適度にのった飛騨牛との相性が良い。このタレの完成度は高く、これを使った担々麺もぜひ作っていただきたいと思ってしまう。

全国各地の素晴らしい日本食材を様々な視点で驚き溢れる料理に仕立て、アーティスティックな盛り付けとプレゼンテーションでゲストをもてなす同店。森脇さんも言っていたように、記念日レストランとしてもおすすめの一店だ。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

※営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、最新の情報はお店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

撮影:外山温子

文:中森りほ、食べログマガジン編集部