【映画のあの味が食べたい】

ブレードランナーは“焼いたチーズ”の夢をみるか?

SF映画の金字塔『ブレードランナー』(82年)の続編『ブレードランナー 2049』が公開されます。

 

なんと35年ぶり! 友人が新作にそなえてDVDで前作を観直したら、一緒に観ていた息子さんが、「なんかどこかで観たことがある」といったそうですが、なるほど。そう思うのも無理はありません。『ブレードランナー』こそ、1980年以降につくられたさまざまなSF映画やアニメなどのイメージソースとなった本家本元なのですから。

TM & (c)2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.

この作品以前は、ロボットやアンドロイドという言葉は存在していても、レプリカントという言葉は使いませんでしたし、歌舞伎町(あるいは香港)を彷彿させるようなレトロ感溢れる雑然とした街が、未来都市という概念はありませんでした。

 

公開当時、残念ながらヒットはしませんでしたが、熱狂的なファンが徐々に増えカルト映画となり、今日ではSF映画に革命をもたらした金字塔と呼ばれるまでになりました。その影響力の大きさは、映画界だけでなくゲーム界やファッション界にまで及んでいます。

TM & (c)2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.

『ブレードランナー』は、SF作家フィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を原作に、当時『エイリアン』(79年)で成功を収めて注目されていた気鋭リドリー・スコット監督が『スター・ウォーズ』(77年)のハン・ソロでトップスターとなったハリソン・フォードを主役に起用して撮った作品です。

TM & (c)2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.

舞台は、2019年のロサンゼルス。環境破壊が進み酸性雨が降り注ぐ地球は荒れ果て、多くの人は宇宙へ移住。その労働力としてタイレル社によって人造人間=レプリカントが開発され、奴隷のように扱われていました。優れた能力をもつレプリカントの反乱を恐れ、寿命は4年に設定。逃亡したりすれば、ブレードランナーと呼ばれる専任捜査官によって“解雇(処分)”されます。

 

ある日、引退していたブレードランナー、デッカード(ハリソン・フォード)は、宇宙ステーションから逃亡し、密かに地球に戻って来ている4体のレプリカントの解雇を要請されます。

TM & (c)2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.

デッカードとタイレル社の美しい秘書レイチェル(ショーン・ヤング)とのロマンスや生きることを切に求める4体のレプリカントとの死闘を通して、人間とはなにか?という根源的なテーマに迫ります。

 

フィルム・ノワール的なスタイルだけでなく、この哲学的な探求もこの作品が、今もって色あせず、傑作といわれる理由です。

続編が公開!さまざまな謎が、いま解き明かされる。

それから35年。舞台となった2019年を目前にした2017年にこれまでことあるごとに話題となってきた続編がついに完成しました。

 

タイトルは、『ブレードランナー 2049』。つまり前作より30年後のカリフォルニアが舞台です。

主人公のK(ライアン・ゴズリング)は、LAPD(ロサンゼルス警察)のブレードランナー。ある謎を解くために、かつてのブレードランナー、デッカードの行方を捜索し始める……。

 

前作のラストで逃走したデッカードとレイチェルのその後を追うという、完全なる続編です。

前作がさまざまな疑問や謎が散りばめられた作りだったのに対して、今作は、その謎に対する解答を描くような、対の作りになっているともいえます。前作を観ていなくてもストーリーはわかりますが、観ていたほうが感動は深い。

実際に2作に共通するブレードランナーの最大の素晴らしさは、その感情に訴えかけてくる点にあります。近未来を舞台としたSFというと非人間的な冷たい印象を持つ人も多いと思いますが、むしろここで描かれるのは感情のドラマであり、それが実にリアルなのです。

孤独な刑事とうどんから漂う、男の美学。

出典:Mハルさん

 

こうした“近未来なのにリアルな”ブレードランナーに登場する食といえば、「うどん」(※正確にいえばヌードルとハリソン・フォードは言っています)。

 

「強力わかもと」を始めとする日本語のサインが飛び交い、電子ヴィジョンではゲイシャが映し出される街の屋台(寿司屋)でデッカードが注文するのが「うどん」です。(映画中の「これ4つ、下さい」「お客さん、ふたつで十分ですよ」というセリフの“これ”とは、うどんのことではなく、「魚丼」のこと。白いご飯に青菜とカサゴのような魚が2匹のった丼ご飯は、劇場版ではカットされています)

 

丼にうどんのセットメニュー。妻子とは別れひとり孤独な生活をおくる引退刑事らしい夕食と言えるでしょう。監督のリドリー・スコットは、その後に大阪で松田優作らを起用して裏社会を舞台にした『ブラック・レイン』(89年)を撮っていますが、日本男児の美学に共鳴するなにかがあるのかもしれません。

出典:Mハルさん

 

ということでブレードランナー気分を味わいたいのなら、おすすめしたいのが「こくわがた」。カウンターだけの、ひとりでも気軽に入れるお店です。カジュアルだけど味は本格派。映画を見終わった後は、デッカードよろしくひとりで“人間の実存”について考えてみるのもいいかもしれません。

 

ちなみに、新作でも“近未来なのに”電子レンジではなく、炎で調理するシーンが印象的です。湯気の湿度やガーリックの匂いが漂ってきそうで五感に訴えかけてきます。タイトルの“焼いたチーズ”は新作の重要なシーンでデッカードがつぶやくセリフに由来するもの。こちらも意味深い!

 

 

作品紹介

『ブレードランナー 2049』10月27日(金)全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

 

2049年、貧困と病気が蔓延するカリフォルニア。人間と見分けのつかない人造人間“レプリカント”は労働力として生産され、人間社会と危うい共存関係にあった。ロサンゼルス市警のブレードランナー“K”は、人類への反乱を目論み、社会に紛れ込んでいる違法な旧レプリカントの“処分”任務にあたっていた。そんな最中、Kはレプリカント開発に力を注ぐ科学者ウォレスの巨大な陰謀を知る。そして、人類存亡に関わるその陰謀を暴く鍵となる一人の男の存在にたどり着く。その男こそ、30年前、恋人である女性レプリカントと共に姿を消したかつてのブレードランナー“デッカード”だった。 彼が命をかけて守り続けた秘密とはいったい何なのか? 30年のときを経て、封印された衝撃の真実が明らかになる。

 

TM & (c)2017 The Blade Runner Partnership. All Rights Reserved.

 

『ブレードランナー ファイナル・カット』
日本語吹替音声追加収録版 ブルーレイ(3枚組)¥5,990+税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

 

2019年、惑星移住が可能になった未来。高度な知能と強靭な肉体を持つレプリカントと呼ばれる人造人間が謀反を起こし、地球に侵入してしまう。レプリカント専門の捜査官“ブレードランナー”のデッカードは追跡調査を開始する。一方、彼は製造元のタイレル社でレイチェルというレプリカントに会い、心を通わせていくが……。