行列必至のとんかつ職人の座談会に潜入!

いまうまいものを食べるなら、このお店。食べログが各ジャンルの中でオススメの100店をまとめた「百名店」。今回のテーマは「とんかつ」。

 

百名店に選ばれたのはもちろん、とんかつ業界を牽引しているといっても過言ではない、蔵前「すぎ田」の店主・佐藤 光朗さんと高田馬場「成蔵」の店主・三谷 成蔵さんが、とんかつについて語り合う座談会を開催。

左から、佐藤 光朗さん、三谷 成蔵さん、河田 剛さん、マッキー牧元さん

 

オペレーターには、とんかつ会議のメンバーである、マッキー牧元さんと河田 剛さんを迎え、超豪華メンバーで座談会がスタート。

東京リアルとんかつ会議開催!

マッキー牧元(以下・牧):本日は超人気店、蔵前「すぎ田」の佐藤さんと高田馬場「成蔵」の三谷さんに、とんかつの美味しさの秘訣などをお聞きしたいと思います。

 

 

河田 剛(以下:河):この2店は我々が開催する「東京とんかつ会議」で数少ない「殿堂入り店(満場一致で賞賛する店)」に認定されており、私も大好きなお店です。今日は各店のご主人から直接、どんな“美味しい”お話が聞けるかとても楽しみです。

殿堂入り店のとんかつ職人が語る!美味しさの秘訣とは?

出典:焼肉姉妹さん

 

牧:とんかつは一見シンプルに見えて、とても奥の深い食べ物。肉質、衣、揚げ油、揚げ方、脇役(キャベツ・ご飯・お味噌汁)など、細部まで抜かりない職人技が求められます。今日はそれぞれの要素に分けて、各店の特徴をお聞きしていきましょう。

1. 肉質

三谷 成蔵さん(以下・三):メインは、栃木県の霧降高原豚というブランド豚を使用しています。クセがなくあっさりしていて万人ウケする味なので。時には雪室熟成豚、黒豚など他のブランドを使うときもありますが、基本的には展示会で仕入れたものを実際揚げてみて、その時々にベストなお肉をご提供しています。

佐藤 光朗さん(以下・佐):当店ではそんなに多くの種類の豚肉を使っていません。特徴と言えば、成蔵さんと同様にあえて「クセが強いお肉は選んでいない」ことでしょうか。

出典:お店から

 

牧:同じブランド肉でも「季節」によってお肉の質の違いはありますか?

 

三:夏はちょっと脂身がだれているものがたまにあります。一方、冬はお肉の身がしまっている印象です。

 

佐:夏は豚が水をたくさん飲んでしまうので、冬が「食べごろ」というのはあるかもしれませんね。とは言え、現代では通年安定して美味しいお肉が仕入れられるようになりました。

出典:焼肉姉妹さん

 

牧:『すぎ田』さんは、先代のお父様の時代からとんかつ屋を営んでいる老舗です。昔と比べて肉質は変化していますか?

 

 

佐:近年の生産者さんは特に、肉の品質を向上させるための研究や努力を熱心にされているので、今のとんかつ業界は「美味しい豚肉が揃う時代」と言えるかもしれませんね。

2. 衣

河:近頃のとんかつの衣は、粗めのパン粉で歯ごたえのあるザクザク系が流行っていますね。一方、我々のとんかつ会議で高評価なのは、衣が軽やかでサクッと歯触りがよく、油切れのいいもの。両店ともスタイルは違えど、衣の重要性を改めて認識させてくれるとんかつです。それぞれのポイントを教えていただけますか。

出典:お店から

 

三:私のお店のとんかつの衣は比較的粗めですが、糖分を下げて焦げにくく硬くなりにくくなるように工夫しています。一見、上顎に刺さる刺々しい衣に見えますが、実際食べてみると口に刺さる感じはなく、軽くてさっくりとしています。

出典:kanzanさん

 

佐:うちも、頬張った時の食感が軽くなるように、なるべく薄くしてきめ細かくしています。先代からずっと変わらず、近所にある浅草の「ペリカン」というパン屋さんに、特注しています。

3. 揚げ油

牧:とんかつを語る上で意外と見過ごされがちなのが「揚げ油」。両店とも「ラード」を使用されていますね。その特徴やラードを使う理由を教えてください。

出典:jlcbondさん

 

三:背脂ではなく、内臓を包んでいる腸間膜の部分のラードを使っています。コシがある油で、あったまりにくく冷めにくい。余熱が効くので、揚げあがった後しばらく置き、その余熱で火を通していきます。

 

 

佐:ラードの特徴は、やはり独特の甘みや香ばしさがあり“香り”が良いことでしょうか。ただ、ラードもピンキリなんですよね。私たちのようなお店は一斗缶で買うので、上質なラードを使用できますが、なかなかご自宅でラードを使って美味しいとんかつを再現するのは、難しいかもしれませんね。

4. 揚げ方

:『成蔵』さんと『すぎ田』さんで大きく違うのは、とんかつの「揚げ方」ですね。

出典:TINTIN@呑んだ暮れさん

 

三:最初は、110℃くらいのすごく低温の状態から入れて、弱火で20分ほど揚げ、だんだん温度を上げていき、最後は145〜150度くらいで揚げ上がります。

 

 

牧:『成蔵』さんのとんかつは、最初お肉を油に入れた瞬間、音がしないくらい静か。それくらい低温の状態から、じっくり時間をかけて高温にしていく。巧みな温度のコントロールが必要となるので、揚げの技術が求められます。

出典:浜田 岳文さん

 

佐:揚げ方の特徴は「しっかり揚げること」です。温度の違う2つの鍋を使い分けながら、じっくり揚げていきます。まずは、低温で一度ゆっくり火を入れ、次に高温に移し衣をカリッと仕上げる二度揚げ方式。

 

 

牧:「すぎ田」さんで驚かされるのが、二つの鍋がいつもピカピカに磨きあげられていること。今日新品の鍋をおろしたんじゃないかと思うくらい。厨房全体も清潔感に溢れていて、それを見るだけで美味しいものを食べさせる雰囲気が漂っている。

 

 

佐:「美味しい、美味しくない」は結局、“嗜好品”で好き嫌いの問題なんですよね。でも「綺麗、汚い」の“清潔感”は見て顕著にわかるものなので、もちろん綺麗な方がいい。日々の掃除は徹底して行なっています。

5-1. 脇役(キャベツ)

出典:一期一会のあじさん

 

三:細切りの千切りキャベツは、水に晒さないでお出ししています。水に晒すと甘みが抜けてしまうので。

 

 

佐:食感を柔らかくするために繊維に直角に、できるだけ細く切っています。できるだけキャベツの水々しい甘みを残した状態でお出しできればと。

5-2. 脇役(ご飯)

出典:ダダチャマメさん

 

三:山形の「はえぬき」を、農家さんから産直で仕入れています。ご飯が美味しいのは重要なことだと思いますが、あくまでも脇役なのであえて「主張しすぎないもの」を選んでいます。とんかつを引き立たせてくれるご飯が理想ですね。

 

 

佐:野沢温泉の「コシヒカリ」を使用しています。シンプルに美味しいんですよね。あと、ご飯はやっぱり炊きたてが美味しいので「細かく炊くこと」が秘訣だと思います。

5-3. 脇役(お味噌汁)

出典:あきとん(・・)さん

 

三:お味噌汁は、白味噌で甘め。具は根菜やお肉をたくさん入れて具だくさんな豚汁に仕上げています。他の料理で残った野菜の切れ端などを使い、食品ロスの無いように心がけています。

 

 

佐:味噌は、赤、白、こうじの3種類をブレンドしています。具は野菜だけで、大根、人参、ごぼうを中心に入れています。

絶品とんかつを食べに行こう!

牧:本日は、貴重なお話をありがとうございました。皆さんもぜひそれぞれの工夫を凝らした絶品のとんかつを食べに、『成蔵』と『すぎ田』に足を運んでみてください。

文=アキレウス