大規模な再開発にともない、しばらくこの地を離れていた大人たちから再びの注目を集める街・渋谷。だけど、いざ来てみたら食事処に迷ってしまうというケースもしばしば。そんな、“シブヤお久しぶり組”の迷える大人たちのため「食べログ グルメ著名人」で渋谷区初のCEO(Chief Eat Officer)を務める小宮山雄飛さんに渋谷の新&定番グルメスポットを両方教えてもらっちゃおう!というこの連載。

[定番]編23回目となる今回は、麻辣味ブーム到来のずっと前から辛いもの好きたちの胃袋を満たしてきた、自然派中華料理店「月世界」(げっせかい)をご案内します。

【大人の渋谷メシ・定番編】第23回「月世界」

最近、じわじわとマジ中華(中国の人が中国のお客さん相手にやっている、マジな中華料理店)がブームとなっていたり、ラーメン屋さんやカレー屋さんまでもが唐辛子と山椒を利かせた「カラシビ」と呼ばれるメニューを出したりと、日本でもすっかり麻辣味が定着した感があります。

そんなブーム到来のはるか前、今から15年ほど前に道玄坂で始まったのが激辛料理でも有名な自然派中華のお店「月世界」。

道玄坂から少し入った路地に、ここだけ本場中国!?と思ってしまう一角が。ガラスケースにはさまざまな調味料、日本人には馴染みのない「水煮肉片」の名前。唯一「営業中」の看板だけが、こちらがレストランなんだと確認できる要素です。

店内の棚も調味料でいっぱい。こちらのお店は自然派中華という名のもとに、薬膳の知識を活かし、おいしい食事をしながら美と健康にこだわったお料理をいただけます。

お店で使っている「醤(ジャン)」は、ほぼ自家製。豆板醤やXO醤をはじめ、麻辣醤、生姜醤、発酵レモン醤など料理によって30種類以上の醤を使い分けているそうです。

そんなお店の人気メニューがこちら。

「よだれ鶏(蒸し鶏の口水鶏醤がけ)」1,000円

「よだれ鶏(蒸し鶏の口水鶏醤がけ)」。鶏肉には自家製の豆板醤と芝麻醤に醤油・砂糖・ニンニクなどで味付け。その上に、これでもか!とばかりにネギをたっぷりとのせ、上から唐辛子と山椒の真っ赤なオイルをこれまた大量にかけている、実に男前なルックス。主役であるはずの鶏がもはや見えないというのがポイントでしょう。

ソースに完全に隠れていますが、しっかりと鶏肉もいます。古白鶏(こはくどり)のもも肉を使用していて、しっかりした噛みごたえがあるのが特徴。辛いソースに負けないしっかりした味わいがあります。

鶏肉の下には「箸休めに」とキュウリとセロリが敷かれていて、良いアクセントになっています。真っ赤な見た目に反して、一口食べて、そこまでの辛さは感じないのですが、あとからじわじわと「麻」=痺れがやってきます。油の方にしっかりと山椒の成分が溶け込んでいるのでしょう。この時間差攻撃が癖になります。

こちらのお店がランチタイム限定で出しているのが、お店の外にも書いてある名物の「水煮肉片(スイジューローペン)」を使った「水煮肉片麺」。

水煮羊肉麺」1,500円

水煮肉片とは四川を代表する辛い煮込み料理。夜は単品かコースで2人前から注文可能で、締めで中華麺が付いてきますが、お昼は最初から麺の入った1人前を注文できるので、気軽に本格四川の味を味わえます。

ということで頼んだのは、羊肉の入った「水煮羊肉麺」。辛さは、普通・激辛(+150円)・超激辛(+400円)から選べます。今回の辛さは普通ですが、それでも真っ赤な油が表面を覆い尽くしていて、十二分に辛そうです。

表面の油とスープについたトロミで、麺がすべってなかなか持ち上がらない(笑)。若干平らな麺にしっかりと油が絡まっています。思いっきりすするとむせそうなので、ぱくっと一口で食べると、意外にも最初にくるのは甘味。

砂糖はほとんど加えていないというので、豆板醤など醤そのものと野菜から出る甘味なのでしょう。真っ赤な見た目とは裏腹に、甘味と旨味が最初にやってきて、実においしい!

とはいえ、食べ進めるとじんわりじんわりと辛さがやってきます。クセのないラム肉との相性もばっちりで、もやし・セロリ・きゅうりといった野菜も名脇役として辛さの中に爽やかさを加えています。

唐辛子は朝天唐辛子と鷹の爪の2種類。山椒も赤山椒と青山椒の2種類。どちらもパウダーと丸のままの両方がかなりの量入っていて、たまにプチッと丸のままの山椒の実をかじると、また新鮮な痺れを感じます。

自家製の豆板醤と豆豉、たっぷりのニンニクと生姜などで味付けされていて、辛さだけじゃなくしっかりした旨味を感じて、どんどん食べ進んでしまいます。 ということで、せっかくなので「激辛」にも挑戦してみることに。

こちらが激辛の「水煮牛肉麺」。2切れのっている赤い唐辛子が、あの世界一辛いと言われるキャロライナリーパー!

さらにその間にある赤いペーストは、こちらのお店で作っているキャロライナリーパー醤! なにもそんな危険なものまで醤にしなくても(笑)と思うのですが、醤へのこだわりがひしひしと伝わってきます。

上から熱い油をかけると、ぶわ〜っと蒸気が上がります(お客さんの目の前で油をかけるサービスはディナー時のみなのですが、今回は特別にやっていただきました)。

写真では伝わりきらないのですが、キャロライナリーパーから舞い上がる蒸気が、すでにめちゃくちゃ辛いのです!

近くにいるだけで、目に染みて、息をするだけでむせてしまいます。食べる前から辛いなんて、恐るべしキャロライナリーパー。

そして蒸気が収まったところで完成。ランチタイムはライスとパクチーがおかわり自由なのもうれしいです。

牛肉は先にスープと一緒に蒸してあるだけあって、トロトロの食感。味がしっかり馴染んでいて、めちゃくちゃおいしい。

そして激辛の麺を一口。うん、辛い!

めっちゃ辛いんだけど、同時にうまい! キャロライナリーパー特有の、刺すような攻撃的な辛さがありますが、大本の豆板醤や豆豉の旨味がしっかりあり、ただの激辛ではありません。

麺を食べ終わったら、今度はご飯へ。このために残しておいた牛肉の塊と、残ったスープを上からかけて、水煮牛肉丼に。これはもう、おいしくない訳がありません!

ご飯の甘さが加わると、逆に唐辛子の辛さが浮き立って、麺よりもこちらの方が辛く感じますが、辛くておいしくて箸が止まりません。激辛好きにはぜひとも試してほしい一品。

こちらが先程のキャロライナリーパー醤。「超激辛」を頼むと、この醤とキャロライナリーパーそのものがさらにどかっと足され、季節によってはさらに別の種類の唐辛子も加わるとのこと。真の激辛マニアは挑戦してみてもよいかもしれません(マジで体調の保証はいたしませんが……)。

ちなみにお店は、東京都のまん延防止等重点措置解除後は、ランチ営業を一時休業し、ディナー営業のみとなるそうです。それに伴って「水煮肉片麺」単品での提供は終了し「水煮肉片と〆麺セット」の形で提供予定とのこと。

渋谷で辛くておいしいものが食べたくなったらココ! オリジナルの醤にこだわる、絶品中華です。

※価格はすべて税込

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認をお願いします。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

※本記事は取材日(202年2月28日)時点の情報をもとに作成しています。

取材・文:小宮山雄飛

撮影:GENIUS AT WORK