3. 洋食カレーに和のエッセンスが光る「ばばじ」

冒頭で触れた、洋食のDNAが息づく広島のカレー。その影響を受けつつも、独自色を感じる名店が「ばばじ」。メニューには「ピラフカレー」に「オムライスカレー」といった洋食系メニューもありながら、それだけにとどまらないのが同店の特徴だとカレー細胞さんは言います。

「和ダシがひとつのポイント。大阪のスパイスカレーでは和ダシをよく使うんですけど、あの感じとはちょっと違うんです。ここは、ベースはビーフや牛スジのカレーなんですけど、ダシを加えたり和風のトッピングが豊富だったり。独自の和洋折衷になっているんです」

確かにメニューを見ると洋食的なカレーがありながら、豆腐や納豆といった和風のトッピングも存在。ルックスも独特です。

あっちゃん 広島
「ばばじ」の「和風カレー」750円   出典:あっちゃん 広島さん

「牛肉礼賛の欧風カレーがベースながら、そこにダシやトッピングなどで和のエッセンスを取り入れる。ある意味広島だから生まれた、ユニークなカレーと言えるかもしれませんね」

4. 広島における欧風カレーの草分け「ガリバー」

広島で根強い人気の欧風カレー。その名店をひとつ挙げるなら「ガリバー」ではないか、とカレー細胞さん。1984年創業と歴史があり、洋酒をそろえるバーでありながらカレーも主役という個性派業態です。

「カレーを提供するバーはけっこうありますが、同店の看板には『CURRY & BAR GARIBER』の文字。カレーのバリエーションが豊富な、飲める老舗カレー屋さんなんです。『ここが広島における欧風カレーの草分け的存在』と言うスパイスマニアもいらっしゃいますよ」

「ガリバー」の「山の幸スペシャルカレー」 1,200円
「ガリバー」の「山の幸スペシャルカレー」 1,200円   写真:お店から

基本は具材の違いで、ベースとなるカレーはやはりビーフです。食材はすべて国産にこだわり、20種類のスパイスを調合。欧風ダシを取るところから3日間かけて仕込む、手作りの味を創業以来守り続けているのだとか。

「欧風カレーでありながら、小麦粉の使用を控えた粘度抑えめのなめらかな舌触り。追加料金で辛さをアップでき、以前僕は『極辛』でお願いしたのですが、個人的にはそれでもやさしめに感じました。硬めに炊かれたサフランライスもカレーとの相性がよく、素朴な味わいが心にしみるおいしさです」

5. 広島に南インドの風を吹かせる「カレーの木」

市内のラストは、伝統的なカレー文化が根付く広島においての新星を紹介。ミールスやビリヤニといった、南インドカレーをカジュアルに提供する「南印度カレー食堂 カレーの木」です。創業は2019年。

「南インド料理のレストランと言うよりは、店名にもあるように南インドカレーの食堂。スパイスカレーやカレースタンド的な業態で、南インドのメニューを味わえます。現地出身の方が、本場そのままの味を提供するスタイルではないと思いますが、広島における気鋭の新星と言えるでしょう」

まこたけ
「南印度カレー食堂 カレーの木」の土日限定8種カレーミールス 2,200円+ビリヤニ変更 250円   出典:まこたけさん

カレー細胞さん曰く、広島市内で評判が高いニューフェイスは、この「南印度カレー食堂 カレーの木」と「ぱんちょり.」だとか。広島では欧風カレー文化が人気とはいえ、新たなスパイス文化との融合が進めば、今後面白さが増していくのではないかと言います。

「たとえば大阪では、欧風カレーのカウンターカルチャーとしてスパイスカレーが生まれて発展したという側面があります。そのため双方の文化には距離があったのですが、広島はそうではありません。一緒にカレーフェスに出店もしているので、独自のスタイルが生まれるなんてこともあるかもしれませんね」

広島は瀬戸内エリアのカレーもアツい!

そのほかにも市外の注目店と、広島カレー巡りの裏ワザも教えてくれました。

「東京から広島に新幹線で行く場合、有効期間内であれば何度でも途中下車ができます(特急料金別、一部対象外区間有、後戻りは不可)。これを利用して福山、新尾道、三原、東広島で途中下車しながらカレー探索をするのがおすすめです」
※2022年3月時点の情報です。最新情報・詳細についてはJRの公式HPなどからご確認ください。

なかでもカレー細胞さんのいちおしは、福山駅前にある「自由軒」のカツカレー。

「福山の『自由軒』はコの字形カウンターがナイスな大衆居酒屋なんですけど、このカツカレーが腰抜けるほどの絶品。普通のカレーもあるんですけど、カツカレーが人気です。とにかくつまみが豊富で迷っちゃいそうですが、ぜひカツカレーを。銀座の洋食店で出てくるような深みのあるハイカラなタイプで、絶対に手間暇かかっている味。居酒屋のカツカレーとしては日本最高峰だと思います」

ropefish
「自由軒」のカツカレー 800円   出典:ropefishさん

また、福山では「旧水曜カレー(curry curry curry)」も、そして尾道では「Coyote (コヨーテ)」がおすすめ。しまなみ海道の島々では生口島の「自転車カフェ&バー 汐待亭」と因島の「しまなみカレー ルリヲン」が注目だと言います。

「『旧水曜カレー(curry curry curry)』は、大阪のスパイスカレーが移転してきた注目店。『Coyote (コヨーテ)』は、東京スパイス番長のメタ・バラッツさんが監修したハイクオリティなカレーが味わえます。

『自転車カフェ&バー 汐待亭』は、やはり名産地のレモンを使った『島のレモンバターチキンカレー』が必食。『しまなみカレー ルリヲン』は、大阪スタイルのスパイスカレーを瀬戸内の魚介類などでアレンジしたカレーが絶品です」

最後にカレー細胞さんは補足も。それは、呉名物の海軍カレー。広島のカレーを語るには、歴史が非常に長いこの料理についても外せません。

「呉の海軍カレーは、どこが名店という話ではないのですが、呉観光をする際に海軍カレーを食べると、より味わい深さが増すと思います。また、呉は肉じゃがにも注目。というのも、肉じゃがと海軍カレーって、具はほぼ一緒ですよね。食材調達が難しい洋上だからこそ海軍に重宝され、ともに発展したと言われているんです」

呉で食べ歩く際は、海軍カレーと一緒に肉じゃがも。何はともあれ本稿を参考に、広島のカレーツーリズムにぜひ行ってみてください!

※価格はすべて税込です。

※時節柄、営業時間やメニュー等の内容に変更が生じる可能性があるため、お店のSNSやホームページ等で事前にご確認ください。

※外出される際は人混みの多い場所は避け、各自治体の情報をご参照の上、感染症対策を実施し十分にご留意ください。

監修/カレー細胞(松 宏彰)
文/中山秀明