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153カ国の大使館トップ! マンリオ・カデロ駐日外交団長が語る“食と文化と愛”
昼下がりの六本木。
ひときわ目立つダンディーなイタリア人が白ワインを片手に生ハムを頬張っている。
本日の主役は、駐日外交団長サンマリノ共和国特命全権大使であるマンリオ・カデロ氏。日本に駐在する153カ国の大使館を束ねるトップの全権大使である。
そんな彼の何気ない日常のランチにも、日本とイタリア・サンマリノ共和国の歴史と絆をしっかりと垣間見ることができる。
「神社ワイン」と「サンマリノ共和国プロシュット コット」
イタリアンに詳しいあなたも、きっとまだこの組み合わせを体験したことはないだろう。両国を知り尽くしたカデロ大使が愛してやまないメニューだ。
先月輸入を開始したばかりだという「サンマリノ共和国プロシュット コット」。現在、東京では本日のお店「イル・フィーゴ・インゴルド」他、数少ないお店でしか食べることのできない「幻のハム」だそう。
このプロシュットの産地でもある「サンマリノ共和国」は、イタリアの中に存在する独立国家で世界最古の共和国。街全体が世界遺産として登録されるほど美しい町並みと自然が魅力的な国。そんな豊かな環境で生まれ育ったカデロ大使。
最初の「乾杯」はおなじみの「Salute(サルーテ)」や「Cin Cin(チンチン)」だろう……。そう思った矢先、彼の口から予想だにしない「乾杯の音頭」が発せられる。
「乾杯、万歳、心配しない、人生短い、ひとつしかない、一生懸命頑張りたい」
驚くほど流暢な日本語と、ラッパーも顔負けの脚韻。
もうこの瞬間からお店を出るまで「カデロ・ワールド」「カデロ節」全開。
イタリア人らしい「自由さと情熱」。それに加えて日本滞在歴40年で培った日本人らしい「謙虚さと思いやり」。
対照的ともいえる両国のハートを併せ持つカデロ大使が語る、“食と文化と愛”とは?
Ristorante(レストラン)
「食事はその国の文化」と語る美食家のカデロ大使に聞く、国内外の「レストラン事情」
好きなレストランは「As you like」
私は「融通が利く」レストランが好き。元来、レストラン(retaurant)はラテン語で「rest=リラックス・リフレッシュの場所」という意味を持っています。ですから「あれダメ、これダメ。」とうるさく堅苦しいレストランは好ましくありません。
でも日本人はなぜか「威張っている高級レストラン」が好きですよね。日本人はマゾヒストが多いのでしょうか?(笑)
そういえば、ローマに「ラ・パロラッチャ(悪口)」というけんか腰の接客で有名な面白いお店があります。そこの店員はみんな口が悪くて、「彼女は美人だけど、あなたはまあまあね。」など罵声を浴びせられるんです。どこの国でも形は違えどマゾヒスト的な要素を持っているのかもしれませんね(笑)。
隠し味は“おもてなしの心”
私のイタリアンの行きつけは、本日のお店「イル・フィーゴ・インゴルド(六本木)」。何といっても「フレキシブルで気前がいい」のが気に入っています。
ランチの前菜ビュッフェは自分の好きな物を好きなだけ選べる、味付けも人それぞれの好みに合わせてくれる、この「自由さ」が好きなんです。後は、若い女性のお客さんが多いこともひとつの大きな魅力です(笑)。
他は、現地のプーリア料理を唯一日本で楽しめる「アンティキサポーリ(広尾)」、新鮮な魚介が美味しい「ボガマリ・クチーナ・マリナーラ(代々木)」などがお薦め。料理が美味しいだけでなく、最高のホスピタリティーも提供してくれる素敵なリストランテです。
和食でお気に入りは、明治記念館の中にある「羽衣(信濃町)」。ランチセットは、天ぷらや焼き魚など日本を代表する料理が少しずつ食べられてリーズナブル。
私はちょっとずつをたくさん「つまみ食い」するのが好き。浮気者なんです(笑)。だってマンネリズムは面白くないでしょ?
Mangiare(食べること)
「マンジャーレ」は食べることの意味だけにとどまらない。「食」の楽しみを盛り立てる「すべてのこと」を含んでいると言うカデロ大使。
素材のシンプルさが鍵
イタリア料理と日本料理は「素材の持ち味を生かしたあっさりとした味」という共通点があります。
サンマリノも日本と同じように毎日新鮮な魚介類や美味しい野菜、果物が手に入リ「豊かな食材」に恵まれています。調味料もオリーブオイルやお塩などシンプルな味付けで、ヘルシーかつ自然と調和した料理が多いですよ。
日本のイタリアンは味が濃い?
違う点といえば、日本のイタリア料理の味は現地より濃いかもしれません。なぜかというと、現地イタリアのレストランのテーブルには塩、こしょう、唐辛子、オリーブオイル、ビネガーなどのスパイスが置いてあって、お客は自分の好きな濃さに味付けをします。だから最初運ばれてくる料理の味は少し薄めに作ってあるんです。
ちょっと足りないくらいが丁度良い。
味付けを減らすことは難しいけれど、後から増やすことはできますから。そういえば恋愛もそうですね(笑)。日本料理にはこの文化が既にありますよね。おしょうゆやワサビ、ショウガなど。日本のイタリア料理にはまだその文化が根付いていないだけかもしれません。
イタリアはマナーの発祥地
「良いマナーこそ人に敬意を抱かせ、人への敬意を表す。」といわれます。
マナーが根付いているからこそ、日本人は誰も見ていなくてもポイ捨てをしない人が多いじゃないですか。世界から尊敬されるゆえんですよね。
それでいうとイタリア=自由だけではないともいえます。実は「良いマナー」についての最初の本が書かれたのはイタリアなのです。イタリア人はリラックスした食事のシーンにおいても細やかなマナーを徹底します。
マナーというほど堅苦しいものではありませんが、日本人の皆さんが意外と知らない本来のイタリアンの食べ方などもあります。例えば、プロシュットは細長いパンの「グリッシーニ」に巻きつけて食べるのが現地流です。
最高のシェフはマンマ(お母さん)
イタリア人に「最高のシェフは?」と聞くとほとんどの人が「マンマ!」と答えます。イタリア人はお母さんが好きいわゆる「マザコン」が多いかもしれません(笑)。
私のマンマ(おふくろ)の味は、野菜がたっぷり入ったシチュー。ズッキーニ、玉ネギ、ジャガイモなどたくさんの野菜を煮込んだスープはいくら食べても飽きません。一晩寝かせた次の日が一番美味しい。お通じも良くなりますしね(笑)。私は野菜が大好きなのでいまでも自分で作っているんですよ。
日々の食生活も野菜を中心とした「健康的な食事」を心掛けています。肝に銘じているのは、アリストテレスの言葉で「Pan Metron Ariston(ギリシャ語で「何事もほどほどが望ましい」)」です。
私の人生のモットーは「第一に健康、第二に仕事、第三に愛」ですからね。
Amore (愛すること)
私たちの人生になくてはならない麗しいもの、それが愛、アモーレ。情熱的なカデロ大使の「イタリア式恋愛術」とは?
愛は人生になくてはならないもの
好きな女性のタイプは「言うことを聞く人」(笑)といいますか、周りの人のアドバイスを素直に受け入れる、柔軟性を持った「しとやかな女性」。
もうひとつは、女性として「成熟している」こと。色恋話から世間話まで、いろんな分野に対して幅広く奥深い知識と教養、さまざまな経験を持ち合わせていて会話を楽しめる女性が素敵だと思います。
だってむつみ合いがない男女なんて、まるで「ソースのないパスタ」のように味気ないものになってしまうでしょう?
一方、苦手なタイプは「I love me.」な女性。自己中心的で短気、男性に対抗心を燃やすような気の強い人。後は非現実的で遊園地のようなファンタジーの世界から抜け出せずにいる人でしょうか。
そういう意味で日本の女性は、世界で一番女性らしい。肌も美しく上品で魅力的。私が考える世界のベスト5にも「日本人女性」が入っています。他の4つは「スイスの給料、アメリカの家、スイスの政治、イタリアの料理」です。
ただひとつダメなところを挙げるとすると「曖昧なところ」。いつもYesかNoどちらかはっきりしないので、何がしたいのか、欲しいのか「求めているもの」が男性に理解できない。これは「自信がない」ことにもなってしまうのでもったいないと思います。
恋愛関係になるまでの男女のおきて
私の考えとしては、ディナーの招待を受ける前に男性も女性も自分のポジションをはっきりさせておくことが重要だと思います。
(例文)「ご招待ありがとうございます。ただあなたと関係を持つことに興味がありません。それでも私とディナーを一緒にして時間とお金をお使いになりたいなら、ご招待をお受けします!」
この曖昧さも「シーソーゲーム」。これぞ恋愛の醍醐味という人もいますが、個人的にはストレートな女性を尊重します。お互いの貴重な時間を使うわけですから、変な誤解を生まないためにもパートナーに対しては正直でクリアーでいるべきだと思います。
また「ありがとう」もひとつのマナー。お食事をごちそうになった後、この大切なひと言を忘れてしまう人はとても残念です。
理想の恋愛は「Give and Take」
お互いのことを信頼・尊敬していて、なおかつ個人としても自立している状態が理想的な恋愛関係。
私は相手の心が読めるんです。だって今までスパイに2、3回会いましたからね?(笑)
特に女性の心が読めるので、男性を利用することをゲーム感覚で楽しんでいるような冷たい心を持った女性に会うととてもむなしい気持ちになります。こういう表面だけ取り繕った女性は「本当の恋愛」を一生できないと思います。
“ヘルシー”なライフスタイルを磨く
先のような拝金主義の日本人の若い女性が「ブランド品」を持ちながら貧相な生活をしている姿を見ると、多くのヨーロッパ人は驚いて悲しい気持ちになります。
イタリアでは「人と違うこと=個性的」が評価される個人主義の土壌があります。ファッションにおいては、高価なブランド品を持ってみんなと同じ格好をしたがる日本人とは真逆かもしれませんね。
私のファッションの極意は「トレンド」や「ブランド」に流されず、独自の感性で好きなスタイルを貫くこと。皆さんにも若いうちはたくさんの失敗と経験を重ねて「自分らしさ」を磨いていって欲しいです。
最後に、日本人へメッセージ
「Life is simple. You make a life difficult.(人生はシンプル。人間が難しくしている)」
日本人は本当に素晴らしい民族ですが、時にすごく簡単なことを複雑にしてしまう傾向があるように思います。より具体的な問題に集中し、余計な物をそぎ落としてシンプルにすることを心掛けていただきたい。世界にproblemなんてないんです。人間が作り出しているだけですから。
あともうひとつ、これは日本人に限らず私も含めて全世界の人々に共通して言えることですが、「何事もバランスが大事」ということです。政治・ビジネス・食事・恋愛……すべてにおいて一方的ではなく、お互いがHappyになることが大切です。
周りの人や環境に対する「思いやりや調和の心」を持った人々が増えることで、より世界は明るく平和になると信じています。