裏路地に潜んではいるが……3店舗目は過去最高に訪れやすい!
2019年冬の中目黒、築100年という古民家の2階に、看板すら出さずオープンした「鮨 おにかい」。とはいえ、1階はミシュラン星付きの「天婦羅 みやしろ」であり、その揚げたての海老天を海苔巻きでいただけるとあって、すぐさま食通の間で評判となった。結果、予約は3ヶ月先までいっぱいに。
2020年冬、今度は「なかめのてっぺん 本店」がある雑居ビルの303号室に2店舗目「鮨おにかい+1 (たすいち)」が登場。おにかいに1を足した、つまりは3階にある。名前も場所もややこしく、当然のように看板もないが、それでも一躍人気店となった。 そして2021年初夏、東京・八丁堀に3店舗目が誕生。裏路地ではあるが、カラフルなガラス窓は遠目からもよく目立つ。入り口も1階にあり、姉妹店のなかでは最も足を運びやすく、発見しやすい隠れ家となっている。
基本メニューは10,000円の「おまかせコース」のみ。先付け3品、握り15貫、玉子、お椀と盛りだくさんの内容で、明朗会計なのが非常にありがたい。 江戸前の仕事を大切にしながら一手間をプラスした「くずし鮨」と銘打つだけあり、先付けから独創的。
たとえば、野菜をすりおろした伝統の汁物、すり流しはカクテルグラスのような陶器で提供され、マドラーに見立てたベビーコーンまで添えてある。
一昔前まで食べ合わせが悪いとタブー視されていた、鰻と梅の小皿も面白い。実際には味わい的にも栄養学的にも相性抜群の組み合わせなのだ。どの先付けからも、伝統を大切にしながら、それに固執しない柔軟さを感じる。
常識をくずしながら江戸前らしさも光る、粋な握りが続々
握りはシャリ単品からスタート。長期熟成の酒粕を使用した赤酢など3種の酢をブレンドしており、芳醇ながらカドのない口当たりだ。ネタと合わさると印象は変わるのだろうか? 期待は高まる一方である。
1貫目は中トロから。鮮度が高い夏のマグロは旨みだけでなく酸味も強い。赤酢が利いたシャリが口のなかでほろりと崩れ、見事に一体となった。事前にシャリを味見していたからこそ、絶妙なバランスで酸味が調和しているのがよく分かる。
さらに、この握りは全5種類5,000円のペアリングコース、1杯目の定番であるロゼのスパークリングにも合わせているという。マグロ、赤酢、ロゼワインの酸味が三位一体となるイメージ。緻密に計算されたペアリングの監修は、駐日イタリア大使館公認ワイン大使として知られるソムリエの永瀬喜洋さんだ。
通常、魚と言えば白ワインが定番だが、ペアリングコースはロゼまたはビールからはじまり、2杯目以降は赤ワインが中心。たとえば小肌や鰆に合わせるのは、ミネラルと塩分が豊富な海沿いの土壌で育ったフラッパートというブドウ品種のもの。チェリーのようにチャーミングな果実味が青魚を華麗に彩る。アルコール提供再開の際には、ぜひその相性の良さを味わってほしい。
また、特に今の時期は、通常のロゼワインからアルコール成分を取り除いて仕上げたスパークリング、赤ワイン用のブドウ品種を使用した濃厚ジュースなど、ノンアルコールのペアリングコース2,800円が魅力的。甘酒とジンジャーグリーンティーのカクテル、凍頂焙煎烏龍茶、有機栽培焙じ茶といった全5種類が、握りとの相性に合わせて提供される。
カウンターを取り仕切る板前は、英才教育を受けた期待の職人
店内は8席と6席のカウンター、ふたつの空間に分かれており、それぞれを若手職人が担当している。「元々は肉割烹の裏方で料理人をしていました」というのは板前の高橋優一さんだ。 新人育成に力を入れる「鮨おにかい」。集中的に技術を吸収し、わずか半年でシャリの量をグラム単位までコントロールできるようになったという。
「鮨 うらおにかい」という名前にちなみ裏メニューも開発中。高橋さんの肉の知識を活かし、第1弾はモンゴル高原の大自然で育った蒙古草原馬を使用している。さまざまなタイプの若手職人が育っているからこそ、今後も斬新なメニューが続々と登場しそうだ。
堅苦しさなど微塵もない風通しの良い雰囲気のなか、先進的なアイディアの詰まった寿司コースが堪能できる「鮨 うらおにかい」。草原のようにのびのびとした環境で若手職人たちがどのように成長するのか、楽しみにしながら通うのも、また粋だろう。行きつけの寿司屋がなかなか見つからない方にこそ、是非おすすめしたい新店である。
※価格はすべて税込