【噂の新店】il Noce
浅草合羽橋といえば食の専門店がひしめき合う街。今や料理人や飲食店だけでなく料理好きをはじめインバウンドにも人気のスポット。そこにオープンした「il Noce」が近隣店主のSNSと口コミだけで予約困難店に! 人気の所以を探ります。
合羽橋にイタリアンの新星現わる!

銀座線・田原町駅から徒歩10分ほど。かっぱ橋本通りとかっぱ橋道具街の交差点のほど近くに今年5月、荒木康朗さんとくるみさん夫妻が営む「il Noce」がオープンしました。「台東区にまつわるもの」をコンセプトに食材や食器、店のデザインを依頼。すると携わった人々がSNSで発信、さらにそれを見た人々が訪れ、開店直後から満席の日々が続く人気店となったのです。

店名は「くるみの木」という意味で、由来はくるみさんの名前から。くるみをモチーフにした可愛らしく親しみやすいロゴは、まるでくるみさんをイメージしたかのよう。

店内にはくるみ材があふれています。実は内装デザイン会社がカウンターに選んだのが偶然にもくるみ材。それならとテーブルやフローリングにも使うことになったそう。


もう一つ、居心地を良くしている立役者が店中に飾られているアートの数々。ロゴをデザインしたハヤシコウ氏の作品や思い出の写真などが、あちらこちらで見られ、作品のチョイスや飾り方にも2人のセンスがうかがえます。

夫婦ともに料理人。康朗さんは父親が五つ星ホテルの総料理長、くるみさんの実家は老舗日本料理店というサラブレッドの2人。父親が料理人にもかかわらず特に料理人になるつもりはなかったと言う康朗さんですが、当時見ていたTV番組の「料理の鉄人」と「ザ・シェフ」に感化され、次第に料理人の道を歩み始めます。右も左もわからない状態で「ホテル西洋銀座」に勤め、フランス料理部門で基礎を学びます。9年間の中で他部門を経験し、イタリア料理の世界へ進みました。自分の店を持つことを目標にしてからは想定できる仕事ができる店で修業します。その後、「ホテルオークラ東京」に入り、再びフランス料理部門でソーシエを担当、ソース作りを究めます。また大使館などへのケータリングも経験し、自身の店を持つ準備を整えました。

一方のくるみさんは「ホテルオークラ東京」「インカント」「ブラカリ」などで料理、ホール、ワインの知識を教わり、2人で「il Noce」をオープンしました。基本的に料理は康朗さんがメインで作り、くるみさんはホールを担いますが、仕込みや前菜、そしてパスタを打つのはくるみさんだそう。
圧巻のリゾットに手打ちパスタ! 食べたいものが勢揃い!

メニューにはアンティパストからプリモ、リゾット、セコンド、ドルチェに至るまで食べたくなるものがずらり! イタリアでの修業経験がないことで地方を限定せずにメニューを作れることが逆に良かったと、イタリア全州の料理を日本の食材を取り入れて親しみやすく提供します。

「勤めていた『ホテル西洋銀座 アトーレ・リストランテ』で提供していたもののオマージュです」と康朗さん。南瓜やきゅうり、葉野菜など新鮮な野菜の上にはイイダコ、海老、ホタテなどプリップリの魚介のマリネをのせ、オイル&ビネガーにレモンを搾ったドレッシングで和えました。馴染みのある料理のおいしさを改めて感じさせてくれます。

続いて康朗さんが取り掛かったのがパスタです。イタリア語で「ひきずる、引っ張る」という意味の南イタリアで食されるショートパスタ「ストラシナーティ」を、塩、フェンネルシード、白ワインで1日マリネした豚ひき肉と鶏ブロードと炒め玉ねぎで作るラグーソースに和えます。

豚ひき肉を細かくしないことで、まろやかなうまみが口中いっぱいに広がります。ストラシナーティは歯応えがあり、噛むと小麦の香りと味わいを主張しますが、ソースに絡ませると甘、辛などの五味で形容するには事足りない新しいフレーバーを感じ、心地よい余韻となってあとを引きます。

キッチンではリゾットを作りはじめました。新潟「花の米」のリゾット専用カルナローリ米「RISO」、「ぬま田海苔」「キッコーマン白トリュフ醤油」とこだわりの国産食材を使ったスペシャリテです。米とグラナ・パダーノチーズ、あおさ海苔を白ワインとブロードで鍋をゆすらずゆっくりと炊いていきます。

表面に大きな気泡がポコポコと浮かんできたら、今度は波を描くように鍋を振り続けお米とチーズを乳化させます。

卵黄、ぬま田海苔の初摘みの海苔を盛り付け、白トリュフ醤油、グラナパダーノチーズ、胡椒をかけて完成。ぬま田海苔を使って!とのリクエストで考案したこの料理、海苔のおいしさを存分に引き出しています。

日本の米とは思えないほど粘りがほとんどなく食感は完璧なアルデンテ。粒が大きめなので味が染み込んでいます。手ちぎりした海苔は香りがより高くなり、食べる手が止まりません。
また訪れたくなる魅力あふれるイタリアン

さてメインはポークチョップです。フライパンで焼き目をつけてからオーブンへ。ほぼ焼き上がったところでアルミホイルを被せて一旦休ませます。

「SPF豚」とは日本SPF豚協会が定めた厳しい衛生・飼育基準をクリアした農場で育てられた、あらかじめ指定された特定の病原菌を持っていない豚のこと。こちらで仕入れている房総ポークは東京にはほとんど出回っておらず、米や海藻、ビタミンなどを食べて育っているそう。「しゃぶしゃぶにするとほとんどアクが出ないです」と康朗さん。目の前に置かれるとポークチョップのいい香りが!

添えたのは世界遺産のラグーンを持つニューカレドニアの塩、レモン、マスタード。まずは何もつけずに食すと、あまりのおいしさに卒倒しそうになります。やわらかいのに弾力がある。けれど繊維が細かいので驚くほど歯切れが良い。とろけるような脂はにおいが一切なくうまみだけが口中に広がります。

味変を楽しめるようにとバルサミコも用意していますが、正直に言うとまったく必要がないほど肉そのものがおいしい。1本350〜400gですが、あまりの軽さに1人でペロリといけてしまいます。骨の周りについた肉は骨を手で持ってガブリといきましょう!

こちらでは「魚介のマリネサラダ」「フォカッチャ」「ティラミス」など、閉店してしまった店から康朗さんとくるみさんが引き継いだ幻の料理と、ぬま田海苔に出会って考案したリゾットのような2人のオリジナル料理とが楽しめます。2人がこれまでの修業で培ってきたものに、この町での新しい出会いを重ねたここでしか味わえない料理と温かな空気感あふれる空間、そして2人との楽しい会話、浅草にまた訪れたくなる魅力的な店が誕生しました。



