〈食べログ3.5以下のうまい店〉

グルメなあの人にお願いして、本当は教えたくない、とっておきの「3.5以下のうまい店」を紹介する本企画。今回はグルメ本編集長として数々の名店を訪れる大木淳夫さんが教えてくれた、本格寿司を気軽に楽しめる町寿司の注目店を紹介。

知る人ぞ知る路地裏の人気寿司店

高級店にも劣らない上質なネタがそろう

巷では「おいしい店は食べログ3.5以上」なんて噂がまことしやかに流れているようだが、ちょっと待ったー!
食べログ3.5以上の店は全体の3%。つまり97%は3.5以下だ。

食べログでは口コミを独自の方法で集計して採点されるため、口コミ数が少なかったり、新しくオープンしたお店だったりすると「本当はおいしいのに点数は3.5に満たない」ことが十分あり得るのだ。
点数が上がってしまうと予約が取りにくくなることもあるので、むしろ食通こそ「3.5以下のうまい店」に注目し、今のうちにと楽しんでいるらしい。

下町の粋な雰囲気を感じさせる屋号入りの長型提灯が目印

東京メトロ有楽町線・都営大江戸線月島駅から徒歩約2分。もんじゃストリートから1本入った小道沿いにある「すし春」は、夫婦2人で営むこぢんまりとした寿司店。築地「すし大」に20年勤め、若手の育成やネタの仕入れを担ってきた親方が、2025年12月に満を持して独立開業した店だ。季節感のある一品料理や目利きが光る新鮮ネタの寿司をお好みで気軽に楽しめるスタイルが好評で、常連客を中心に連日賑わっている。食べログの点数は2026年10月時点で3.18。

 

大木さん

広尾「鮨 ゆうき」の親方、林ノ内勇樹さんから「いいお店ができましたよ」と教えていただいたのがきっかけです。そんな経緯もあって若手の独立かと思いきや、斎藤親方は60歳。長く「すし大」にお勤めで、若手を指導する立場だったそうで、気が付けば還暦を迎えていたと。林ノ内親方との接点は、まぐろの仲卸が同じ「結乃花」であること。初めて食べた時の感想は「最高の町寿司の誕生だ」というものでした。昔ながらの職人さん体型に安心感があり、肩肘張らずにお好みで握ってもらえる、こういうお店を待っていたという気持ちでした。

白木のL字カウンターや間接照明など、内装は明るい和モダンテイスト

店内は入口から奥に延びる細長い空間いっぱいにカウンターを設えてあるものの、付け台をなくして天板の奥行きを広くとってある分、狭苦しさはなくリラックスできる雰囲気。むしろ個室のようなおこもり感がなんとも居心地がよく、日本酒を片手に一品料理や寿司をつまんで会話が弾み、長居する客が多いというのも頷ける。
2階には座敷もあるが、夫婦二人で回していることもあり、現状は1階カウンターのみで営業している。

 

大木さん

月島の路地にあるというロケーションがまずいい。営業は午後3時からで、豊洲市場で仕事を終えた方々、近所のご隠居さん、ゴルフ帰りの方々が集うような、昔ながらの町寿司の空気感があります。斎藤親方と支える奥様との呼吸もいい感じで、カウンター前のガラスケースに寿司種が並ぶ光景も落ち着きます。

上質なネタを甘めの白シャリとともに提供

店主の斎藤春彦さん

「以前から地元・月島で店をやりたいと思っていたんです。仕入れも担当してましたが、やはり自分で握ってお出しするほうが楽しいですね」と語るのは、店主の斎藤春彦さん。
16歳から寿司職人の道に入り、長年の経験を経て60歳にして構えた自身の店は、親しみやすさを大切にする昔ながらの町寿司。注文は基本的にお好みで、子ども連れも可。誰もが思い思いに寿司を楽しめる。
「女性や年配の人はコースだと食べきれない方が多いので。お酒を軽く飲んで握りを3つ4つつまんでいく人も多いですね。お酒好きな年配からお子さんを迎えにいく前のママたちまで、さまざまなお客さんがいらっしゃいますよ」(斎藤さん)

ガラスケースに並ぶ寿司種にワクワク目移りしながら注文するのも町寿司の醍醐味

寿司種は毎日豊洲市場に足を運び、長年培った確かな目利きでその時期に最適な産地のものを、ネタによっては部位や大きさも指定して仕入れている。シャリは、少量の砂糖と数種の酢の組み合わせでやや甘めに仕上げた白シャリ。塩気の強すぎないやわらかな味わいで酒にもよく合う。
「握り方はなるべく手数を少なくしていますね。うちはシャリがやわらかめなので、まぐろは脂が薄めのものを仕入れるなど、寿司種とのバランスも意識しています」(斎藤さん)。

日本酒は青森産を中心に常時10種類をそろえている
 

大木さん

寿司の世界は1万円前後のお店が増えてきたとはいえ、お好みで気楽に握ってもらえるお店はまだまだ少ない。「すし春」はほとんどの客がお好みで注文しています。まぐろ、青柳、コハダといった握りの質がしっかりしているのはもちろん、「結乃花」から仕入れるまぐろの実力は折り紙付き。珍しいなかおちの握りもあります。肴もうまくて、自家製の塩辛やいわしの焼き物など、酒飲みにはたまらないラインアップがそろっています。魅力的な酒肴や食べたい握りを一貫ずつ頼みながら、どこまでも酒が飲める……そんな居心地のよさが最大の魅力です。また、有名な寿司店だとあまりない、あってもなんとなく頼みづらいのが納豆巻。こちらでは素直に頼めて普通に作ってくれるところもいいんです。

まぐろ好きならコレ! 濃厚なうまみが際立つ「なかおちの握り」

「なかおちの握り」880円

中落ちとは、まぐろを3枚におろした際に中骨のまわりに残る赤身肉。スプーンなどですくい出して使用し、崩れやすいため軍艦で提供する店が多いが、同店では中落ちのうまみや香りをダイレクトに感じられる握りで提供。

豊洲市場のまぐろ専門仲卸「結乃花」から仕入れる上質な生まぐろの、中落ちの中でも首に近い部分を使用することで、とろけるような口溶けとともに濃厚なうまみを味わえる。

透明感のある鮮やかな赤色は鮮度の証。脂ののったトロでも筋が気になるという人からも人気だという
 

大木さん

なかおちを握りで出すお店は珍しく「すし春」ならではの一貫です。仲卸「結乃花」から仕入れるまぐろの質あってこその味わい。まぐろ好きならまずこれを頼んでほしい。