【肉、最前線!】
数多のメディアで、肉を主戦場に執筆している“肉食フードライター”小寺慶子さん。「人生最後の日に食べたいのはもちろん肉」と豪語する彼女が、食べ方や調理法、酒との相性など、肉の新たな可能性を肉愛たっぷりに探っていく。奥深きNEW MEAT WORLDへ、いざ行かん!
今回は、人形町エリアに誕生した焼鳥とナチュラルワインのお店。優雅でありながらフレンドリーなムードが漂う、自由で柔軟な焼鳥スタイルに迫る。
Vol.28 ワインが進む焼鳥!肉と鳥編
たとえば、仕事が早めに終わり、ふと思い立って見知らぬ駅で降りてみる。普段、気にしていなくても、東京のどんなに小さな町にもかならずと言っていいほどあるのが、焼鳥店である。大衆店からコースも出すような小洒落た店まで、内容はさまざまだが、あらためて意識してみると、焼鳥店との遭遇率の高さに驚くはずだ。
「ロワゾー」エントランス
最近人気の人形町エリアを歩いていると一軒の店と出合う。外から中の様子がうかがいづらい店に一見で入るのはハードルが高いが、ガラス窓越しにもれるあたたかな光、ほがらかな空気感がその警戒心をふっとほどいてくれる。軒先にワインボトルが並べられた外観は、フレンドリーなビストロさながらの雰囲気だが、じつはここは、正真正銘の焼鳥店。
店主・内海晋作さん
店名の「ロワゾー」とは、フランス語で“鳥”の意味。店主の内海晋作さんは、フレンチやイタリアンなど、都内のレストランやバルで経験を積み、今年の6月、人形町エリアに自身の店を構えた。
店内の様子
もともと焼鳥が好きで、自分で店をやるならナチュラルワインと一緒に楽しめるような店を、という思いを実現。あえて焼鳥店を連想しにくい店名や空間にすることで自由に柔軟に自分の焼鳥を追求したかったのだという。
主役の鶏肉はあえて銘柄を固定せず、その時々でベストだと思うものを。いまは、静岡の天城軍鶏や宮崎の黒岩土鶏を気に入って使用している。火を入れることで旨みがぎゅっと濃縮され、風味が際立つ鶏肉を選んだのは火入れに対する自信の表れでもある。
レバーは、ぷっつりした膜を残しながら中はとろりとした食感に、ササミの外側はふっくら、芯部はレアにと、部位の個性を生かし、食感のコントラストを楽しませる。串物はもちろん1本ずつのオーダーも可能で、コースは2,000円から。最初はおまかせ5種(1,300円)からスタートするのもおすすめだ。
「ワインに合わせたい!」欲がそそられるサイドメニューも充実しているが、なかでもイチオシは肝の山椒醤油煮(600円)。口中で膨らむ山椒の香りとレバーの甘みに合わせるなら果実味が柔らかいピノ・ノワールか、蜜っぽいシャルドネか……と、想像力も膨らむ。〆にオーダーしたい鶏柔麺(1,000円)は、コラーゲンたっぷりの鶏だしスープとのど越しがよい中太麺がよく絡む。
テーブルのほかに、カウンター席があるのもひとり客には嬉しいところ。居心地も雰囲気も味もよく、ワイン好きにとっても頼もしい。
できればずっと、気が向いたときにふらりと立ち寄れるような店であってほしいと願うのはこちらのワガママというもの。わかってはいるけれど、リラックスしながらワインを飲み、焼鳥をつまんでいると、そうあってくれたらいいな、と期待してしまうのである。
※すべて税込価格
写真:大谷次郎
取材・文:小寺慶子