神楽坂から銀座へ。和食「蓮」の新しい挑戦

毎晩大勢の人でにぎわう銀座コリドー街のそばに、和食店「蓮」が6月移転オープンした。

 

海外からの訪問客も多い神楽坂の人気和食店「石かわ」「虎白」の系列店として同じ神楽坂で営業していた蓮だったが、そこを離れグループ内で初の銀座移転となった。

新しくオープンした場所は、石かわの大将である石川秀樹氏の師匠のお店 「梧洋(ごよう)」の跡地。店主の三科 惇氏からすれば、師匠のさらに師匠がいたとても親しい場所なのだと言う。

 

とはいえ、今は人気店の情報は即時噂になりやすいご時世。それが世のグルマンたちの口にのぼる前の移転だった。

その理由を「実は私自身も石川から移転の話を聞いたのは今年の4月。『(銀座で)やってみないか?』と言われ、『やらせていただきます』と即答しました」と三科氏は率直に教えてくれた。

名刺代わりの一皿で見せる革新

即答の理由は、世界でも有数のグルメエリア・銀座というバリュー。そして、以前にはなかった個室が用意できることと、調理場が大きくなることによって料理の幅が拡がると感じたからだ。

 

さらに客席を19席(カウンター7席、個室各6席の2室)に減らしたことで、サービス面でも料理面でも余裕を持ったもてなしができる、と三科氏は嬉しそうに語る。「せっかくの新しい店。いろいろなチャレンジがしたいですね」という言葉のとおり、こんな献立をオープン日から提供しているという。

店のモチーフである蓮の葉の上に、3~4時間ほどじっくりと蒸して柔らかく仕上げた千葉産の蒸し鮑と、愛知産のずいきをのせ、肝のソースを添えている。

 

さらに、目の前で行われる仕上げとして、徳島産のすだちを搾って蓮の葉に垂らし、朝露を思わせる柑橘の雫で味を引き締める。ファースト・プレゼンテーションとして、なんとも心が躍るものではないだろうか。

 

石川氏の教えにより、今まで食べられないものはお皿の上にのせなかったという同店にとって、これは初めての試み。店の名前にちなんだ異例の料理は、新天地での名刺代わりの一皿と言えるだろう。

天草産の鱧と茨城産の新蓮根を添えた料理も、蓮をモチーフにした一品。鱧に添えられたつけだれに、蓮らしさが凝縮されている。

 

一見梅だれのようにも見えるつけだれは、1時間ほど蒸した淡路産の新玉ねぎをペーストにし、水と醤油で割ったもの。主役でないものにも手間暇を惜しまず、素材を生かしてシンプルに仕上げている。この実直な仕事こそが創業時より変わらない、蓮らしさと言えるだろう。

見せる調理で広がる魅力

店内には、蓮はもとより梧洋に行ったことのある人なら「おっ」と思うものがある。

それは、カウンターの背後で泳ぐ金魚、蓮の花の墨絵、石かわや虎白と同じ弥勒菩薩(みろくぼさつ)像。そして入り口の格子戸を開けてすぐ左手にある、梧洋の金魚だ。「一緒に引っ越したんですよ」と三科氏は柔らかな笑顔で話す。

また、新しい試みとして、目の前で仕上げる“見せる調理”で従来よりライブ感のある構成を意識しているそうだ。メニューは新しく22,000円(税別)のコース提供となった。入り口のある1階に、ウェイティングスペースなどの展開も考えているという。

 

「銀座への移転は楽しい挑戦です。そのうちこのあたりで食べ歩きもしてみたいですね」と三科氏。新天地・銀座で新しい表情を見せる蓮に注目したい。

撮影:鈴木拓也
取材・文:佐川碧