駅弁のプロが太鼓判! お花見エリアの必食駅弁リスト〈中部編〉

お花見シーズン中の日本列島。この季節におすすめの春の駅弁はお花見弁当にも最適。三名の駅弁のプロがお花見しながら食べたい駅弁を紹介する短期集中連載。6回目となる今回は中部地方の春駅弁をお届けします。(九州編関東編中国・四国編東海編関西編もチェック!)

旅行ジャーナリスト 小林しのぶさん推薦!:福井駅「東尋坊の焼きイカスシ」

全国にイカめしは数多あれど、珍しいイカ寿司の弁当がこちら。シンプルなイカのイラストが描かれたパッケージもどこか今風で洒落ています。駅弁調製元は番匠本店。福井駅開業6年後の明治35年(1902年)に創業した老舗店です。「越前かにめし」などカニやサバの駅弁で有名な店ですが、イカも負けていません。日本海で水揚げされたスルメイカをメーンに取り上げたこの「東尋坊の焼きイカスシ」、ふたを開けると、容器いっぱいにイカ・イカ・イカ。実にイカしてる駅弁です。

甘酢に漬けた後、香ばしく焼き上げたスルメイカの中に2種類の酢飯を詰めています。ひとつは県産の三方梅を使った「梅ちらし」。そして福井県の郷土料理であるサバのへしこ(魚のぬか漬け)を使った「へしこ寿司」。異なる味わいを楽しめるのがポイントです。驚くのはイカの食感。厚い身は弾力性に富んで歯ごたえ十分。噛めば噛むほどイカの風味が増してきます。特に「へしこ寿司」入りのイカは、ぬかの香りと塩味が食欲を刺激して、酒を進ませます。ゲソを添えたのも左党には実にありがたく、福井に行くたびに駅弁とセットで地酒も買ってしまいます。車内で食べるのはもちろん、福井市内を流れる足羽(あすわ)川沿いに約2kmの桜並木の下で食べたい駅弁です。

駅弁ライター望月崇史さん推薦!:山梨・小淵沢駅「ふもとの駅弁 元気甲斐」

日本最高の花見路線は、中央本線(東京~塩尻間)だと思います。都心の飯田橋・市ケ谷に東中野、相模湖、甲府盆地、八ヶ岳と花の名所がいっぱい。特に笹子トンネルを抜けると、勝沼ぶどう郷の桜、塩山から石和温泉にかけての桃の花、新府の桃源郷と続き、八ヶ岳に向かって走る長坂の桜並木へ。徐々に標高が高くなっていくので、見ごろの時期が変わり、長く花見が楽しめます。さらに富士山・南アルプス・八ヶ岳に輝く残雪と、山から吹き下ろす少し冷たい風が、新年度のスタートにふさわしい凛とした気持ちを演出。可憐な花の色と相まって、中央本線の旅は“春の元気”となってくれます。

そんな中央本線を走る列車の中でも人気なのが、首都圏と中央線主要駅を結ぶ特急列車「あずさ」。「あずさ」の旅で駅弁を食べるなら、小淵沢駅弁「丸政」の「ふもとの駅弁 元気甲斐」! 1985年、テレビ番組をきっかけに生まれた駅弁で、胡桃や山菜など山梨らしい食材が一流料亭の職人さんの技で駅弁に仕上げられました。綴じ紐をほどいて掛け紙を外し、昔ながらの経木の折を、ひとつひとつ開いていくだけで旅気分がグンと高まります。この春は新型車両が揃って快適になった「あずさ」で、沿線の花を愛でながら駅弁を食べて、新時代への元気をチャージしてみてはいかがでしょうか。

ウェブサイト「駅弁資料館」館長 福岡健一さん推薦!:長野・松本駅「月見五味めし」

新宿駅と松本駅を結ぶ特急「あずさ」は、東京都内でも東中野駅や立川駅~日野駅などで桜が見られる列車です。山梨県内では勝沼ぶどう郷駅で甚六桜のトンネルをくぐり、長坂駅~小淵沢駅や富士見駅で桜が覆い被り、長野県内でもみどり湖駅や松本盆地の立ち木を眺められます。全線で標高差があるため、片道の乗車で開花から葉桜まで時系列で展開することも。

国宝松本城は標高590m。4月中旬になると総堀の周りや本丸庭園などで300本以上の桜が咲き、烏城(からすじょう)と呼ばれる黒い天守や櫓(やぐら)とサクラ色のコントラストを楽しめます。「月見五味(ごもく)めし」は、1960年から松本駅で売られているロングセラー。城を描いた箱に詰める丸い容器に、戦国時代に松本城を築城した石川数正が狩猟で得た獲物を料理し、月見櫓で宴を催し城下の繁栄を願ったという話をもとに、満月を玉子で表現し、山菜などの五目飯を詰めたもの。季節と信州と名城を、駅弁で楽しませてくれます。

 

教えてくれたのは

旅行ジャーナリスト 小林しのぶさん

千葉県出身。新聞・出版・編集制作会社を経て独立。年間150日近くを旅するという旅行ジャーナリスト。駅弁はこれまで30年以上、5,000個以上を食べ歩く。雑誌やウェブだけでなくテレビ番組でも活躍中。

 

駅弁ライター 望月崇史さん

1975年静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、ニッポン放送で放送作家に。番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年、およそ4,500個! 放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。「1日1駅弁」を基本に、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の執筆を行う。

 

ウェブサイト「駅弁資料館」館長 福岡健一さん

1973年長崎県生まれ。日本全国と海外の駅弁を紹介するウェブサイト「駅弁資料館」の館長。年間約400個のペースで全国各地の駅弁を食べ集め、今まで食べた駅弁は6,600個以上。日本国内の全線と海外25か国の鉄道に乗った「乗り鉄」でもある。