駅弁のプロが太鼓判! お花見エリアの必食駅弁リスト〈関西編〉

お花見シーズンに突入した日本列島。今年のお花見は列車の旅で堪能するのはいかがでしょう? この季節におすすめの春の駅弁はお花見弁当にも最適。駅弁のプロのお三方が、お花見とベストマッチの駅弁を紹介する短期集中連載。5回目となる今回は関西地方の春駅弁をお届けします。(九州編関東編中国・四国編東海編もチェック!)

駅弁ライター望月崇史さん推薦!:奈良・吉野口駅「柿の葉寿し」

関西を代表する桜の名所の1つ・吉野の山が一面の桜色に染まる様子は圧巻! 1~2時間かけて、のんびり山を登れば、眼下は桜のじゅうたんです。吉野へのアクセスを担う近鉄吉野線の目玉は、観光特急「青の交響曲(シンフォニー)」。フワッとしたカーペット敷の車内には、2人掛け・1人掛けの幅広リクライニングシートが並びます。ラウンジ車両にはバーカウンターがあり、シンフォニー・ハイボールや地酒、ご当地ゆかりのワインなどアルコールも充実しています。特急料金は普通の特急列車と同じなので大満足! 桜の季節は運行区間が通常と異なりますが、チャンスがあればぜひ試してみましょう。

せっかく近鉄吉野線に乗るなら、JR和歌山線との乗換駅・吉野口駅前で買うことができる柳屋の「駅弁マーク」が燦然と輝く「柿の葉寿し」がおすすめです。柿の葉と鯖、米が作り出す独特のいい香りとともに、この地域の鯖への思いが伝わってきます。“桜鮎”の異名を持つ吉野川の鮎にちなんだ100年以上の歴史を誇る「鮎寿し」もある柳屋。レトロな木造駅舎の駅で途中下車して、小さな駅弁屋さんを訪ねるのもまた、桜を愛でるのと同じくらい忘れられない旅の思い出となることでしょう。

旅行ジャーナリスト 小林しのぶさん推薦!:兵庫・神戸駅「きつねの鶏めし」

神戸の桜の名所といえば、須磨浦山上遊園。ロープウェイの中から眼下に見る青い海と満開の桜のコラボレーションは、“絶景かな絶景かなと思わず叫んでしまいます。そんな美しい風景とともに食べたい駅弁は神戸駅の「きつねの鶏めし」。掛け紙に描かれたキツネの面は、こちらを睨みつけるようなつり上がった目をしています。目の奥が金色に光っていて、子どもが見たら、怖くて泣くかもしれません。

 

しかし、ふたを外せば誰でもニッコリと笑顔・笑顔。かやくご飯の上に、鶏の旨煮やつくね、ワラビの醤油漬け、ヒメタケ、ニンジン、そして京都特産の九条ネギやすぐき漬けもたっぷり載って、よい匂いが漂ってきます。ひときわ存在感を示すのは《おキツネさま》こと油揚げ。駅弁で油揚げといえば稲荷寿司がほとんどですが、これはドカーンとご飯の上に置かれた揚げ。揚げ好きにはたまりません。もう一つは袋に入った黒七味。1703年創業 の祇園の老舗「原了郭」の黒七味は一子相伝の製法を守り続けるオリジナル七味。香り豊かで、これを鶏肉や油揚げにはらりと振りかけて食べると一気に料亭の味になります。駅弁は嵯峨野トロッコ列車とのコラボ弁当で、中にはトロッコ列車の簡単な案内が同封されています。桜の季節、「きつねの鶏めし」を携えて神戸へ、京都へぜひ。

ウェブサイト「駅弁資料館」館長 福岡健一さん推薦!:和歌山駅・特急くろしお「小鯛雀寿し」

京都駅から新大阪駅や天王寺駅を経由して紀伊半島へ向かう特急「くろしお」。今から80年以上前に日本一速い電車が駆けたJR阪和線の市街地をまっすぐ疾走し、中央構造線に沿い東西に横たわる和泉山脈を通る全長1,551mの雄ノ山トンネルを抜けると、車窓の雰囲気が温暖に変わったように感じます。雄ノ山峠の峠道にある山中渓(やまなかだに)駅は桜の名所。普段は降りる人も少ない静かな駅も、3月末には前後左右の桜花に囲まれ、花見の客や鉄道写真の趣味者が多く訪れる賑やかな駅になります。次の停車駅は和歌山駅。

この駅では明治時代から売られる駅弁が健在です。「小鯛雀寿し」は、黒潮の恵み豊かな紀淡海峡で一年中釣れるタイのうち、小さなサイズの「チャリコ」と呼ばれる小鯛の酢締めの握り寿司。白い身に銀色の皮が輝き、塩味と身や合わせ酢の甘みが感じられ、この風味を味わうために醤油を付けずにそのまま食べるのがおすすめだとか。古くは源平の時代からの和歌山の郷土料理で、明治時代には廃れていたものが、駅弁になることで名物として知られるようになった、という経緯があります。「雀寿し」の名は、チャリコをまるごと尾付きで握った姿がスズメのように見えたことから付いたもの。実はそんな本来の「尾っぽつき」の雀寿しを、事前の予約にて駅弁で買うことができます。10個入りで4,300円という高額な商品になりますが、身も飯も通常版の倍くらいある食べ応えと豊かな香りは忘れられません。

 

※価格は税込

 

教えてくれたのは

駅弁ライター 望月崇史さん

1975年静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、ニッポン放送で放送作家に。番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年、およそ4,500個! 放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。「1日1駅弁」を基本に、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の執筆を行う。

 

旅行ジャーナリスト 小林しのぶさん

千葉県出身。新聞・出版・編集制作会社を経て独立。年間150日近くを旅するという旅行ジャーナリスト。駅弁はこれまで30年以上、5,000個以上を食べ歩く。雑誌やウェブだけでなくテレビ番組でも活躍中。

 

ウェブサイト「駅弁資料館」館長 福岡健一さん

1973年長崎県生まれ。日本全国と海外の駅弁を紹介するウェブサイト「駅弁資料館」の館長。年間約400個のペースで全国各地の駅弁を食べ集め、今まで食べた駅弁は6,600個以上。日本国内の全線と海外25か国の鉄道に乗った「乗り鉄」でもある。