「ぶっかけそば」の魅力に迫る

冷たいそばに冷たい汁をかけて具をのせる“ぶっかけそば”は、夏に食べたくなる一品。ひとくちに“ぶっかけ”と言っても、のせる具などに決まりごとがないため、そのお店の個性を楽しめるメニューです。「食べログ そば  百名店 2018」の中から、美味しいぶっかけそばに出合える3店をそば研究家の前島敏正さんに教えていただきました。

 

「ぶっかけそば」というと、具をのせたそばとつゆが別々に出されるメニューもありますが、ここでご紹介するのは冷たいそばに冷たい汁をかけて具をのせた、いわゆる「冷やかけそば」です。この「冷やかけ」タイプは、冷たい汁の中でそばが冷えて締まりが出るため、心地よいコシを楽しめるのが特長です。  

前島敏正  (まえしま・としまさ) そば研究家。ほぼ毎日そばを食べ歩きながら、ブログや本でのそば情報の発信、そば同好会のセミナー主宰など、幅広く活動している。「蕎麦鑑定士」「江戸ソバリエ及びルシック(ソバリエ上級者)」の資格を保有。訪問した全国のそば屋約1,000軒のデータベース化をしている。

手打蕎麦処 紫仙庵(武蔵小山)

今回取材させていただいた「手打蕎麦処 紫仙庵」は、夏限定の「冷かけそば」(1,500円)が名物。そばは厳選した産地から仕入れるそばの実を石臼で挽き、その日に必要な量だけを自家製粉し、十割で打っています。店主の宮下和夫さんは、「挽きたて」「打ちたて」「茹でたて」の“三たて”はもちろん、最近はそばの実の熟成も研究しているとのこと。ぶっかけそばは、茹で方と汁にもポイントがあります。 

「普通のそばの茹で時間が30秒なら、『冷かけそば』のそばの茹で時間は33秒。冷たい汁の中でそばが締まってしまうため、やや長めに茹でることが肝心です。つゆは、温かい『かけそば』には薄めの汁“甘汁”を使いますが、『冷かけそば』には濃いめの汁“辛汁”を加えます。冷やすと塩味が足りないと感じるようになりますのでね」 (宮下さん)

 

冷やすことによって生じる微妙な変化を計算してつくられた「冷かけそば」は、ワカメや辛味大根おろしなどの具が入り、凛としたつゆの旨味と梅干しの酸味がマッチした味わい。コシのあるそばは、輪郭がはっきりとした端正な趣です。 

「仕事は『がんばらないけど一生懸命やる』」と語る宮下さんは、美大卒業後、陶芸家を目指していたという芸術家肌。ちなみに父は書家、母は水墨画の先生とあり、店内に飾られている水墨画や書はご両親の作品です。店名は母の雅号「紫仙」に由来。そんな文化的な香りや、趣のある日本家屋の風情も魅力的なそば店です。 

また、通年で楽しめるぶっかけそばとして、「辛味大根おろし蕎麦」(1,500円)も。

 

※価格は税別

そば 法師人(桜台)

前島さんのもう一軒のおすすめは、 桜台駅から徒歩12分ほどの住宅街に佇む「そば 法師人(ほうしと)」。自家製の粗挽きそばが評判の、週末の夜のみ営業する隠れ家的なそば店です。「ゴマ油香る夏の冷しぶっかけ」は、ゴーヤ、トマト、若布、貝割、揚げ玉、ゆで卵と、具沢山のぶっかけそば。コシのある細打ちそばと甘汁の旨味、そしてゴマ油と夏野菜の香りが相まった、夏ならではの味覚です。

出典:gomugomuさん 

 手打ち蕎麦 銀杏(西大島)

最後にご紹介する西大島の「手打ち蕎麦 銀杏」は、個性豊かな夏そばに定評のある一軒。

 

3種のぶっかけそばのうち、もっともすっきりした「梅時雨」は、南高白梅の薄塩梅干しとあおさ海苔の風味が生きた、旨酸っぱい味わいです。国産のあさりをそばが見えなくなるほどたっぷりと盛った「冷製浅蜊そば」は、爽やかな旨味が持ち味で、飲んだ後の〆にも人気。薄切りのトマトをのせた「紅の雫」は、トマトのエキスと相まったつゆも、飲み干さずにいられません。なめらかなそばの喉越しと旨味あふれるつゆのマリアージュを、夏の間にぜひお楽しみください。 

「梅時雨」 出典:バナナメロンさん

「冷製浅蜊そば」出典:バナナメロンさん

「紅の雫」出典:バナナメロンさん

取材・文/小松めぐみ 撮影/大谷次郎(「手打蕎麦 紫仙庵」分)