飾らないルックスながら、新鮮な驚きに満ちたdough-istのパンたち

たとえば、こちらのドーナツ。見た目こそシンプルなドーナツだが、口に入れると“溶ける”。いまだかつてドーナツでは味わったことがないようなふんわり、しっとりして軟らかい食感は「飲めるドーナツ」とお客さんに呼ばれるほど。
「パン屋が本気で作ったドーナツです」
生地にこだわると、日常的なスイーツがここまで進化するのかと驚かされる。dough-istに来たら、必ず試してほしい商品だ。

店名を冠した「ドウイスト」は、こちらの店のスペシャリテ。国産小麦を使い、湯種が50%も配合された生地は、ほのかに塩気が利いてもっちりとした食感が心地よい。発酵に酒粕や麹を使っているせいか、日本人の食卓にすんなり馴染む風味を感じる。「新しい日本のパン」を作りたい……そんな思いから開発された商品だ。
「僕のやり方でおいしい食パンを究めようとすると、“カットできない”軟らかさになってしまう。あと初めてお店に来られた方にとって、食パンは少しハードルが高いんですよね。小ぶりにして手に取りやすくすることで、たくさんの方に試していただきたい。そう思いこの形にしています」

こちらも看板商品「湯種スコーン」。dough-istのスコーンは、まず一般的に「スコーン」という単語を聞いたときにイメージする造形からはかけ離れたビジュアル。この形と独特の食感を生み出すのもまた“湯種”。ここで使われるのは、溶かしバターと小麦粉で作られた「バター湯種」だ。
「湯種って、別に小麦粉とお湯だけとは限らないんです。例えば温めた牛乳で作ってもいいし、溶かしバターにしてもいい。溶かしバターにしたら小麦粉の粒の中に熱いバターがしっかり入っていくので、シュークリームの生地に近いものが出来上がります。そうやっていろいろな湯種と生地を組み合わせることで、レシピの幅と可能性がどんどん広がっていったんです」
これが、彼が「湯種の魔術師」と言われる所以。バター湯種がしっかり織り込まれた生地は、通常のスコーンよりは“重い”。しかしこの生地を横に寝かせて焼くことで、扇のように広がる独特な形に。焼いている間に余計なバターが下に落ち、外側はさっくり、中はしっとりという絶妙な食感を生み出すこととなった。

パンごとに異なる湯種を使うだけでなく、小麦の種類も変えている。メインは自身の出身地でもある北海道産の国産小麦を使用しているが、その数、十数種類。湯種を使うと、湯種の分の仕込み時間もかかるので、1つのパンが完成するまでトータルで3〜4日かかる計算になる。前述の「手間が省けるわけではない」という発言は、そういうことだ。
「もしかしたら、こんなことをしなくてもお客様が思う“おいしいパン”は作れるんじゃないかと。でも、ただ“おいしいパン”が作れればうれしい、というわけでもないんです。お客様に、食べたときに感動してほしい、その感動はときに、口に入れたときの驚きやギャップが生み出すものでもあると思うんですね。その驚きやギャップがネガティブにならないようなラインを攻めたい、という気持ちがあります」

自己満足か、もしかしたら“やりすぎ”なのかもしれない……そう言って笑う川原シェフ。しかし、店を訪れる客が途切れないという現状が、けして自己満足ではないということの証明でもある。
湯種の魔術師の探求は、これからも続く。
※価格は税込
「dough-ist」の紹介動画はこちら!
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