〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

季節の中華とワインのペアリング

内観

コースの一皿とワインとのペアリングが珍しくなくなった。それでも中華とのペアリングは新鮮で想像以上のマリアージュに出会える。未知数なぶんだけ、魅惑の組み合わせなのだ。それを体現するかのように「中華とワインの至高ペアリング」をコンセプトに掲げるのが、広尾「ワイノログ」だ。

左からソムリエの永冶 大さん、シェフの皆川浩正さん

シェフの皆川浩正さんは渋谷の中華料理店を営む家庭に生まれ、そのまま中華料理の道一筋。広東料理の師匠の下、銀座で修業した後、2年ほど香港に渡って本場の味も学んだ。オーナーシェフを務めた赤坂「櫻花亭」では、広東料理のエッセンスをベースに新たな中華料理を模索。ワイノログでも日本の食材を取り入れながら、素材の味を活かした創作中華を追求している。

円卓をイメージしたテーブル席

この道30年となる皆川さんをも驚かせているのが中華とワインの組み合わせ。「びっくりするような変化が起きた」というペアリングを叶えているのは、ソムリエの永冶 大さん。「感覚的にペアリングするのではなく、論理的に説明できるのがソムリエの仕事」と話すように独自のペアリング術を完成させている。

ワイノログではアラカルトとコース、ペアリングのメニューが用意されている。現在は上海蟹を長く味わってもらいたいと12月中旬にかけて「秋の上海蟹コース」(8,250円)を提供。上海蟹のほぐし身やみそを使った小籠包やチャーハンを含むメニューが登場している。さらに1月下旬まではコース内の「枝豆のスープ」を「上海蟹の土瓶蒸し」 にプラス2,000円でアップグレードできる(12月中旬以降のコース内容は「冬の上海蟹コース」に変更)。5種のぺアリング(4,950円)と一緒に楽しみたい。

金目鯛の広東蒸し✕日本の赤ワイン

金目鯛の広東蒸し(「秋の上海蟹コース」より)

秋の上海蟹コースの魚料理として出されているのが「金目鯛の広東蒸し」。広東料理では伝統的にハタやタイをシンプルに調理した鮮魚の蒸し物があるが、これを金目鯛でアレンジ。「金目鯛は秋から冬にかけておいしくなる食材です。それを広東の技法で蒸した後、日本の“金目鯛の煮付け”のエッセンスを加えて醤油ベースのソースで仕上げています」と皆川さん。

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ソースは醤油がベースながら、さまざまな調味料が仕込んであり、エキゾチックな味わい。広東料理の素材の味を引き立てる上品な蒸し方とあいまって、豪快な日本の金目鯛の煮付けとは異なる繊細な一皿が堪能できる。

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勝沼醸造 アルガーノ クラン2022(グラス100ml 1,200円、写真はペアリング60ml)

金目鯛の広東蒸しのペアリングは、日本のマスカット・ベーリーA主体の赤ワイン。「こちらの赤ワインには山梨と山形のブドウが使われています。醤油ベースの味付けで脂身が強い金目鯛なので、白ワインではなく赤ワインと合わせました。日本の赤ワインは鉄分が少ないので魚を生臭く感じにくいんです。マスカット・ベーリーAの華やかなキャンディ香が糸唐辛子の風味とも合います」と永冶さんが解説してくれた。

三元豚の黒酢ソース和え✕微発泡赤ワイン

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三元豚の特製辛味黒酢ソース和え(「秋の上海蟹コース」より)

秋の上海蟹コースの肉料理は「三元豚の特製辛味黒酢ソース和え」。豚肉の唐揚げに黒酢ベースのソースというと酢豚のようだが、ソースが技あり!「実は、修行したザ・ペニンシュラ香港のレストランの特製ソースがベースになっています。黒酢は入っていますが、りんごや大根のすりおろし、はちみつも入っているので、一緒に出す蒸し野菜につけて召し上がってみてください」と皆川さん。

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メディチ・エルメーテ コンチェルト・ランブルスコ・レッジアーノ2023(グラス100ml 1,300円、写真はペアリング60ml)

三元豚の特製辛味黒酢ソース和えのペアリングはイタリアの微発泡赤ワインの辛口ランブルスコ。「今回のペアリングは肉料理に黒酢のソースを合わせているつながりで、バルサミコの産地であるエミリア・ロマーニャ州のランブルスコを合わせました。ソースの奥のしびれのある辛みと微発泡の刺激が心地よくマッチします」と永冶さん。東西の黒酢のルーツの土地を探る興味深いペアリングでありながら、味わい的にも微発泡がよいアクセントになっていた。

上海蟹の2皿✕クリーンなオレンジワイン

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左)上海蟹の黄金雑炊、右)上海蟹小籠包(「秋の上海蟹コース」より)

秋の上海蟹コースは中盤に上海蟹小籠包、後半に上海蟹の黄金雑炊が付き、旬の上海蟹をさまざまなかたちでいただける。

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上海蟹小籠包

上海蟹小籠包は、みそを彷彿させる鮮やかなオレンジ色の皮が食欲をそそる。もちろん、中にはぎっしりと上海蟹の身が詰まっている。そのため、黒酢と生姜が添えられていない。「何もつけず、蟹そのものの味を堪能してください」と皆川さん。上海蟹のおいしさがしっかりと感じられる自信作だ。

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上海蟹の黄金雑炊も小籠包と同様に、上海蟹のほぐした身やみそをたっぷりと使った一品。黄金雑炊の具材は、上海蟹のほかは卵のみ。味付けも塩こしょうのみと上海蟹の濃厚なうまみが熱々でいただける。さらに長時間、その味わいが続くよう石焼き鍋で提供されるのもうれしい。

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サントール・ワイナリー サントール ロディティス2022(グラス100ml 1,600円、写真はペアリング60ml)

上海蟹がたっぷり入った2品のペアリングは、ギリシャのオレンジワイン。「こちらのワインはアンフォラで発酵してからステンレスで熟成させたオレンジワインです。ブドウのうまみがおだやかなので、蟹のうまみに寄り添うように濃厚な風味をしっかり引き立ててくれます」と永冶さん。ペアリングの法則として色が似ているものはよく合うとされている。上海蟹とオレンジワインはお互いのうまみがバランスがよく調和する絶品のマリアージュだった。

永冶さんの「私が恋した自然派ワイン」

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勝沼醸造 アルガブランカ クラレーザ2023(グラス1,100円、ボトル6,600円)

永冶さんが恋したワインは、日本ワインの良さに気づかせてくれた一本。

「こちらは山梨の勝沼醸造というワイナリーのもので、生産者が来店されてお話を聞いたこともあります。甲州のパイオニアとしても知られ、日本のぶどうのアロマをどこまで引き出せるか、ワインを売っていくためにいろんなことを考えている素晴らしい生産者です。

こちらのワインは低価格ながら品質がずば抜けています。甲州の中では、華やかな香りが強く、甲州由来の洋梨や白桃、ライムの香りがしっかり引き出されています。シュール・リー製法のうまみもありつつ、酒質はさっぱりしています。ぜひボトルで飲んでいただきたいワインです」

入門編となる自然派ワインをラインアップ

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ワイノログでは、ペアリングワイン、グラスワイン、ボトルワインがぞれぞれ用意されている。ペアリングワインは5種(4,950円)、グラスワインは10種類(990〜1,650円)、ボトルワインは40種類(6,600〜30,000円)ある。ペアリングではクラシックワインとあわせて自然派ワインもよく使われている。「当店でセレクトした自然派ワインは入門編となるようなクリーン&ナチュラルなタイプが多いですね。自然派ワインは澱の旨味が強く、ブドウの個性ではなくワインに個性があってフードフレンドリーなところがいいですね」と永冶さん。料理によく合う自然派ワインの魅力が伝わるようなペアリングとなっている。一方で好みや気分に合わせてワインを飲みたいときはグラスワインやボトルワインを選んでもらうことができる。

季節ごとに驚きが待っている

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広東料理を究めて30年。現在は、その本質である素材を活かす料理を模索
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外観

ワイノログでは上海蟹に代表されるように、季節の旬の素材をうまく活かした広東料理とワインのペアリングが楽しめた。これから冬においしくなる食材や野菜も皆川さんの腕にかかるとどうなるか、永冶さんはどうペアリングするのか、季節ごとに味わいに行きたい。

※価格は税込、サービス料別(10%)

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:山田大輔