〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

渋谷の異空間でクラシック要素のあるメニューのギャップが楽しい

1階のワインバー

奥渋や裏渋と呼ばれる、渋谷の神泉・円山町エリアには、個性豊かなナチュラルワイン店が密集している。周辺をホッピングして楽しむ人も多いこのエリアに「Hone(ホーン)」は2022年9月にオープンした。数あるナチュラルワイン店のなかで、Honeの魅力はどこにもない異空間に迷い込んだような気分にさせてくれるところ。実は、建築やグラフィックのデザイン事務所が運営しているというから納得だ。

2階の奥にあるテーブル席

店の場所は神泉駅からすぐなのだが、1階に4軒の飲食店が入居する古民家の奥まった所に入口があり、アプローチからドキドキした気持ちになる。オレンジ色のロゴを頼りに中へ入ると、1階がスタンディングーバー、2階が円形テーブルを含むテーブル席が並ぶ。

2階のカウンターと円形テーブル

足を踏み入れると、昭和初期に建てられたであろう古民家に、どこの国の様式にもとらわれないハイセンスな造りのインテリアが登場する。しかも1階と2階、2階でも手前と奥では造りが異なり、まるでパラレルワールド。洋風建築が珍しかった頃にタイムスリップしたような感覚におちいる。ここでナチュラルワインを楽しめば開放的な気分になるようで、6席の円形テーブルでは異なる3組が意気投合して1本のボトルを下ろすこともあるそうだ。

ヘッドシェフの富田涼さん。クラシックな要素のあるメニューを出している

Honeでヘッドシェフを務めるのは、富田涼さん。デザイン事務所が運営する飲食店だが富田さんはフレンチレストラン「ラマージュ」で修業するなど料理一筋。「最近は、シンプルに直感的に仕上げる料理を出す店が多いですよね。でも10年前に僕が料理を始めた頃は手のかかるビストロ料理を当たり前に出す店が多くて、僕もそれを楽しみにしていました。その感覚は忘れたくないですね」と富田さん。パテ・ド・カンパーニュやブーダンノワール、盛り合わせ料理など手のかかる一品が一から作られている。高感度な店内のインテリアと手のかかった料理とのギャップがまた楽しい一軒なのだ。

前菜盛り合わせ✕キリッとオレンジワイン

前菜8種盛り(2,600円、以下すべて2階メニュー)この日は上から時計回りに玉ねぎのピクルスとエスカベッシュ、バターナッツカボチャのサラダ、ペペロナータ、サーモンマリネ、自家製ハム、ズッキーニのグリルマリネ、キャロットラペ、真ん中はパテ・ド・カンパーニュ

Honeの手始めにちょうどよいのが「前菜8種盛り合わせ」。パテとハム、キャロットラペは定番で、その他は季節によって前菜が変わる。「盛り合わせを作らない店が多くなりましたが、僕は食べるのも作るのも好きなので」と富田さん。パテ・ド・カンパーニュは店によってさまざまなレシピがあるが、それを研究するのも好きで、現在は粗挽きの豚肉と豚レバーを使って、むっちりとした密度の軟らかいタイプに仕上げているそう。

ピエール・フリック リースリング2022(グラス1,400円、ボトル9,900円)

「前菜8種盛り合わせ」に合わせてもらったのは、リースリングのオレンジワイン。「オレンジワインですが果実味が濃く渋いタイプではなく、キレのあるタイプなので、序盤に飲むのにおすすめです」と富田さん。厚みのある酸とキリッとした果実味が魅力のワイン。オレンジワインの包容力もあるため、盛り合わせのどの料理にもマッチしていた。

鮮魚のフリット✕爽快オレンジワイン

鮮魚のフリット秋野菜ソース(2,300円)

ワインに合わせて魚料理を食べたいときは「鮮魚のフリット秋野菜ソース」。今回は穴子と茄子のフリット、かぼちゃのペーストが添えてあり、焼き茄子のヴィネグレットソースがかけられ、大和ルージュ(赤いトウモロコシ)が散らされている。穴子のフリットはサクサクとした小気味よい歯ごたえがあり、一方の茄子は丸のまま焼いて水分を閉じ込められているため、茄子らしい肉厚のおいしさも感じられる。

ラ・ビアンカーラ ピーコ2023(グラス1,500円、ボトル10,500円)

富田さんが「フリットにはこれ!」とおすすめしてくれたのが、ラ・ビアンカーラというイタリアの生産者のオレンジワイン。「僕自身、お客様におすすめを聞かれたときはかっちりペアリングするよりも、好きなタイプを聞いてそのなかで紹介するようにしています。揚げ物には味わって飲むよりも、ごくごくと爽快に飲めるタイプがいいですね」と富田さん。果実味がストレートにおいしいビアンカーラとフリットは、楽しく飲むにはぴったりの組み合わせだ。

黒毛和牛の炭火焼✕ジューシー赤ワイン

黒毛和牛の炭火焼(4,200円)

メインの肉料理は「黒毛和牛の炭火焼」がおすすめ。たっぷり140gの黒毛和牛の赤身には、それに負けないくらいふんだんに野菜がのっている。Honeで使われている野菜は千葉の吉野ハーブファームの野菜が中心。

この日もしまかぼちゃや甘長唐辛子などの野菜やハーブがたっぷり。パワーサラダを食べる感覚で和牛の炭火焼がいただける。

ドメーヌ・レ・ドゥー・テール ジャジャ2023(グラス1,000円、ボトル7,200円)

黒毛和牛の炭火焼におすすめのワインは、フランス・ローヌ地方の赤ワイン。「いろいろな品種のブドウをごちゃまぜにした軽めの赤ワインです。こちらは前菜に合わせることもできるくらい軽めの赤なので、和牛もライトに食べることができます。タンニンの強さではなく、果実味と酸味でじわじわと旨味を楽しむタイプなので、ジューシーにお肉を堪能してみてください」と富田さん。お肉を濃いタイプではなく軽快な赤ワイン味わうのがHone流の楽しみ方だ。

富田さんの「私が恋した自然派ワイン」

レ・コステ ビアンコ2022(ボトル11,000円)

富田さんが恋したワインは、自然派ワインのおいしさに開眼させてくれた1本。

「レ・コステは自然派ワインに興味を持った人なら誰もが衝撃を受けると思いますが、僕もそうでした(笑)。入口としてはレ・コステのリトロッツォという日常キュヴェでしたが、その上級キュヴェであるビアンコもぜひ飲んでほしいですね。

ビアンコ(白)という名前ですがマセラシオンしたオレンジワインです。しっかりした飲み口ではあるんですけど、体へのなじみ方がすごい。こういう飲み心地の良さは自然派ワインにしかないもの。だからといって薄いわけではなくて、お肉にも合わせられる強さがあります。立ち飲みで単体で飲んでもおいしいですし、食事にも合わせられる。ぜひHoneで飲んでいってください」

仏ロワールやアルザスを中心にラインアップ

Honeのワインセレクトは「Kabi」系列「caveman」のソムリエ森本浩基さんが担当。「浩基さんにはHoneらしいセレクトをお願いしています。うちはテイスティンググラスのような小ぶりのワイングラスを利用しているので、むずかしいことは考えず、ストレートにおいしいと思うものが中心です」と富田さん。フランスのロワールやアルザスのようなきれいで飲み心地のいいワインが多い。200〜300種類あるボトルワイン(7,200〜11,000円)は2階のワインセラーにあり、自分で見て選ぶことも可能。グラスワインも10種類(1,100〜1,600円)用意されている。

1階は立ち飲みバー、2階はテーブルでにぎやかに

1階メニュー

1階の立ち飲みバーは曲線のカウンターが中心。1階は1〜2人で軽くつまめるメニューが用意され、黒板を見て注文できる気軽な雰囲気。

外観

1階はカウンターでふらりと、2階はテーブルでわいわいと用途によって使い分けられるのも魅力。2つのフロアはがらりと雰囲気が変わるので、ぜひ両方に足を運んでみてほしい。1階には周辺の近隣飲食店のMAPも用意してあるため、ご近所ホッピングもおすすめ。どんな時間帯でもシーンでも楽しくさせてくれるHoneを覚えておきたい。

※価格は税込

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:木村雅章