〈おいしい歴史を訪ねて〉

歴史があるところには、城跡や建造物や信仰への思いなど人が集まり生活した痕跡が数多くある。訪れた土地の、史跡・酒蔵・陶芸・食を通して、その土地の歴史を感じる。そんな歴史の偶然(必然?)から生まれた美味が交差する場所を、気鋭のフォトグラファー小平尚典が切り取り、届ける。モットーは、「歴史あるところに、おいしいものあり」。

第4回 長岳寺の、そうめんとそば

山の辺の道といえば長岳寺というけど(にゅうめんという人もいる)、周囲を小高い山に囲まれた奈良盆地。古代、その東に連なる美しい青垣の山裾を縫うように、三輪山の麓から石上布留を通り、奈良へと通じる道がある。その山側の道が「日本書紀」にもその名が残る、「山の辺の道」。沿道には今も、記紀・万葉集ゆかりの地名や伝説が残り、神さびた社や古寺、古墳などが次々に現れて、訪れる人を古代ロマンの世界へといざなう。

長岳寺は、僕が山の辺で一番好きな寺

寺で食べるそうめん(にゅうめん)は格別の味わい

「長岳寺」

写真上の長岳寺(ちょうがくじ)は、奈良県天理市柳本町にある高野山真言宗の寺院。なんといってもここの「にゅうめん」はうまい。もともと奈良県の三輪そうめんは有名で麺屋もたくさんあるが、寺で食べるのが風情があって実によい。

この日食べたにゅうめん。麺は、三輪のものを使用。6月から9月は“冷やしそうめん”で、それ以外の季節は温かいおだしの“にゅうめん”として提供される。

箸をいれると、トッピングの玉子や海苔などが気持ちよく泳いでいる。

この長岳寺、背後には龍王山という山があり、戦国時代は十市氏が治めていた。一時は天理市一体まで勢力を伸ばすほどの大勢力だったが、松永久秀の猛攻を受ける。その際、逃げてきた兵が長岳寺に現れて血だらけのまま境内に上がり、兵の血に染まった足跡が床に付いてしまったので、天井板と交換した。その血の足跡が未だに建物の天井に残っている。みなさんも探してみていただきたい。

長岳寺のコンセプトは「花と文化財の寺」。奈良県天理市内に9世紀に建立され、先人から受け継がれた多くの文化財と四季折々の草花を楽しめる寺で、食後の散歩に最適。

長岳寺は、猫がいる寺としても有名。ゆうに10匹ぐらいいるのではないだろうか。

麺行脚は続く。お次は十割そばを求めて

「かおく」

旅を続けていると、麺つながりなのかおいしいそば屋にでくわした。おいしいそうめんが、おいしいそばを呼ぶ? こんな偶然があるから、旅はやめられない。ここのそばは、すべて十割そばで、そばの殻ごと挽いた「玄」と殻なしの「抜き」のどちらかを選べる。写真上は味つけ半熟たまご入りとろろつけそば。

梅おろしそば

辛味大根おろしそば

味がある、手書きのメニュー

この暖簾が目印

写真・文:小平尚典