〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

下北沢に似合うジャンルレスなビストロ

内観

古着やサブカルチャーの街として栄えてきた下北沢が、改めて脚光を浴びている。「タイムアウト」による全世界を対象とした「世界で最もクールな街」において、2019年は2位に選出。アンダーグラウンドなファッションやカルチャーだけでなく、個性のあるレストランやカフェも注目を集めている。

左からシェフの原島正幹さん、料理人の佐藤弘康さん、市川玲奈さん、オーナーの桑原大輔さん

2024年5月にオープンした「meso(メソ)」は、クールな下北沢のイメージを象徴する一軒。コンセプトは、“ジャンルレス&ボーダレス”。「下北沢は多様性のある街。たくさんの趣味嗜好やエネルギーが集まる場所だからこそ、フーディーたちに新しい食体験を発信する店を作りたかったんです」とオーナーの桑原大輔さん。

テーブル席

シェフにはシドニーにあるコンテンポラリー・オーストラリアンのレストランで料理長を務めた経験を持つ原島正幹さんを迎え、新感覚のビストロメニューが提案されている。店内では、2つの価格帯のディナーコース(6,600円、8,800円)とアラカルトメニューが用意され、ヴィーガンメニューもある。またワインは自然派が中心で880円均一になっているのもポイントとなっている。

トレビスのサラダ✕にごりオレンジワイン

軽く焼いたトレビス 白いんげん豆ピュレ(1,430円)

mesoのシグネチャーの一つとなっているのが「軽く焼いたトレビス 白いんげん豆ピュレ」。トレビスの4分の1のサイズを大胆に使って、アートな一皿に仕立てた前菜。トレビスをグリルし、甘みを引き出すソースと合わせることで、トレビスを白いんげん豆のピュレのクリーミーな甘さとともにいただける。もちろんトレビスの苦みもいいアクセントになった一皿として完成している。スパイスとナッツを混ぜたデュカも食感のアクセントになって、小気味よいおいしさがやってくる。

ワンダーワーク ボーン・スリッピー2022(グラス60ml 880円、ボトル11,000円)

トレビスの一皿に合わせたいのは、カルフォルニアの生産者によるゲヴュルツトラミネールやリースリングを使ったオレンジワイン。「はじめは酸味主体の味わいですが、やがてゲヴュルツのパイナップルのような甘みがやってきて、トレビスとの苦みとの相性がいいワインです。デュカの香ばしさとオレンジワインのタンニンもよく合います」と桑原さん。酸味・甘み・苦みがめくるめくようにやってくるおもしろいマリアージュだった。

ルーミート クミンのスパイス焼き✕ジューシーロゼワイン

ルーミート クミンのスパイス焼き 湖南スパイスカシュー(2,200円)

オーストラリアのレストランで腕を振るっていたこともある原島シェフは、カンガルー肉・ルーミート料理も得意。ヘルシーな赤身肉で知られるルーミートはサーロインの下の軟らかな希少部位をマリネ液でさらに軟らかく。原島シェフがブレンドしたクミン多めのミックススパイスで焼いて、たっぷりのパクチーをのせてできあがり。盛り付けには原島シェフの感性が光っている。

チェラウド グライヤスジ・エチケッタ・ネーラ2022(グラス40ml 880円、ボトル15,000円)

ルーミートに合わせたいのは、イタリア・カラブリア州の色の濃いロゼワイン。「いちじくやチェリーのようなニュアンスがあるロゼワインです。ルーミートは淡白なので、赤ワインだと濃すぎる。しっかりめのロゼワインがおすすめです。ルーミートやスパイスの乾いた風味にジューシーさをもたらしてくれるのもポイントです」と桑原さん。エキゾチックな一皿をチャーミングにまとめてくれる組み合わせだった。

鴨のロースト✕軽めの赤ワイン

合鴨胸肉ロースト、鴨出汁でスロークック アップルマデラバルサミック(4,840円)

もう1つ注目したい肉料理が鴨のロースト。合鴨胸肉をたっぷり300g使って、中をレアに焼いた一皿。鴨は皮面を軽く焼いた後、オレンジジュースと赤ワイン、鴨の出汁をベースに八角やシナモン、クローブを入れた漬け汁に漬けてスローに火入れ。ソースにはマディラや長ネギ、しいたけ、りんごを使っている。漬け汁に八角やシナモンが使っているせいか、スパイスの風味もほんのり香る魅惑の味わいだった。

ワイルド・フォーク フォース・ウェーブワイン ピノノワール2023(グラス60ml 880円、ボトル11,000円)

鴨のローストにおすすめのペアリングは、オーストラリアのピノ・ノワール。「ほどよい酸味があるフレッシュな赤ワインです。土っぽいニュアンスがあって鴨と相性がいいですね」と桑原さん。赤くフレッシュなベリーの風味がやや重たさのあるソースを軽やかにしてくれ、軟らかでスパイシーな鴨とのつなぎ役になっていた。

桑原さんの「私が恋した自然派ワイン」

チェラウド グライヤスジ・エチケッタ・ネーラ2022(グラス40ml 880円、ボトル15,000円)

桑原さんが恋したワインは、ルーミートと合わせたロゼワイン。

「イタリアのカラブリア州で造られたロゼワインです。10年前、自然派ワインはまだ未熟なものも多く、今ほど市民権がなく、私自身も懐疑的でした。しかし、こちらのワインを飲んでそんなイメージが吹き飛びました。何と言っても、しびれるほどきれいに造られていて、飲んだ瞬間においしいと感じました。ロゼワインの概念も変わりましたね。

味わいは、最初に木苺のようなチャーミングさがありますが、飲んでいくとスパイシー感やタンニンもあって満足度の高いロゼワインです。自然派やロゼにいいイメージがない人こそ飲んでほしいと思います」

バックストーリーのある自然派ワインをラインアップ

mesoでは、自然派ワインを中心にボトルワイン50種類(6,000〜100,000円)、グラスワイン20種類が用意されている。特にグラスワインはどんな価格帯のものも880円均一で楽しめるため、値段を気にせず選ぶことができる。銘柄によって、40ml、60ml、80mlと3つの量に分けられていて、気に入ったものは追加で量を倍に増やすこともできる。ワイン自体は、イタリアを中心に世界のワインが揃っていて、バックストーリーのあるユニークなワインが豊富。メニューにはワインについて詳しく書いてあるので、自由に選んで自分なりのマリアージュを見つけるのも楽しみ方の1つとなっている。

シェフズテーブルの世界をカウンターで堪能

原島シェフは若き2人の料理人を育てている

mesoでは原島シェフの斬新でモダンな料理と個性的な自然派ワインを均一価格で楽しむことができる。もう1つの楽しみは、カウンターの奥にある料理人たちのエネルギー。原島シェフは次世代の料理人を育むため、若き市川さんと佐藤さんにその技を教えている。その様子を見ながら料理を待っている時間も楽しい。カウンターにはライトがつけられ、シェフズテーブルのようになっているのもワクワク感がある。

外観

また、ディナーメニューは前菜や肉料理だけでなく、リエットやテリーヌ、野菜マリネなどのワインと一緒に食べたい一品も豊富に用意されている。帰りが遅くなった夜に一人でふらりと訪れてワインとアテをつまむのもおすすめ。どんなときにも多様性のある使い方ができる一軒だ。

※価格は税込

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:山田大輔