塩茹でから麺まで…ラムを食べ尽くすならアジアンがおいしい!

東京都内を中心に、ここ数年で羊肉専門店が続々とオープンするなど、ブーム到来中の羊肉をこれまでに数々食し、羊肉好きを公言するフードライター・森脇慶子氏に、今オススメの羊肉専門店を厳選して教えてもらうこの企画。後編は、古くから羊肉をメインにした料理が多く、日常的に食されることの多いモンゴル&中国の羊肉がおいしいお店を紹介。

骨付きラムをガブリ!モンゴルの家庭の味を堪能できる「モンゴリアン・チャイニーズ BAO」

 

ラムでは物足りない羊肉愛好家なら是非訪れてほしい羊料理店がここ、新橋の「モンゴリアン・チャイニーズ BAO」だ。

 

「モンゴル人は羊肉が大好物。毎日の料理には絶対に欠かせません。私も、子供の頃からよく食べましたよ。モンゴルでは朝から羊。骨付きの茹で羊肉を切って、塩味のミルクティーに入れて食べるんです。美味しいですよ」

 

満面の笑みをたたえてこう話すのは、中国内モンゴル自治区出身のご主人バオさん。

 

 

メニューを見れば、「羊のボーズ(包子)」や「羊ねぎクミン炒め」などなど現地さながらの料理がズラリと並ぶ。ふっくらとしたその手から手際よく作られる料理の数々は、いずれも温かみのある美味しさ。料理屋の料理というよりも、バオさん手作りの家庭料理といった味わいなのだ。

 

「うちで使っているのはニュージーランドのマトン。モンゴルの羊より大きくて骨も太い。モンゴルの羊も、ニュージーランドの羊もそれぞれに美味しさがありますね」と、バオさん。そのマトンの味を、ストレートに楽しめるのが、同店のシグネチャーメニュ?!であり、モンゴルの代表的な料理のひとつでもある“チャンサンマハ”こと「羊塩茹で(骨付き)」だ。

 

 

あばら肉やスネ、肩甲骨など羊の各部位を水から塩煮にしただけ、の至極単純な料理ながら、羊の様々な部位から滲み出る旨味やのコクなどが渾然一体となった旨味は格別。羊好きにはたまらぬ逸品だろう。

 

 

さぞかし煮込むのだろうと思いきや、意外にも「お湯が沸騰するまでは強火。そのあとは少し火を弱めて30分も煮込めば大丈夫」とのこと。なるほど、それなら肉にもまだまだ旨味が残されているというわけだ。店の営業中は、ごく弱火でずっとかけているそうだから、開店時と閉店時では、多少肉の加減やスープのコクが変わっているかもしれない。

 

この茹で肉、そのままでも十分旨いが、自家製辣油や山椒をつけて食べれば、またひとつまたひとつと手が伸びるはず。一皿に色々な部位を盛り合わせてあるので最後まで飽きずに食べられそうだ。

 

また、嬉しいことに、羊肉は見た目の割にかなり身体に優しい食材らしい。というのも、羊の脂はどうやら人体に吸収されにくい脂のようなのだ。聞けば、羊の脂の融点は44℃。人間の体温は36℃前後ゆえ、腸内で吸収されずに排出されるというわけだ。しかも、コレステロール低下に役立つ不飽和脂肪酸が多く、脂肪燃焼を促すカルニチンも豊富となれば、心ゆくまで美味を堪能できそうだ。

 

 

ピリ辛仕立ての「羊のモツ煮込み」は、レバーやハツ、胃袋に腎臓入り。たっぷりのパクチーとのコンビネーションはくせになりそうだ。麺好きとしては、ここに麺を入れて食べたいところだが、シメにぴったりの麺もキチンと別に用意されている。

 

 

羊の「ちぎり手打ち麺」がそれ。ちぎりの名の通り、小麦粉と水をこねた生地を注文の都度手でちぎり、先の羊の塩茹でのスープに放り込んでいく。すいとんのようでもあるが、どちらかといえば、岩手県の郷土料理「ひっつみ」風。肉厚のワンタンにも似たつるんと滑らかな舌ざわりの中、僅かにシコッ、モチッとした歯応えが愛おしい。

 

 

そしてスープがまた秀逸。羊を塩茹でしただけのスープとは思えぬ深遠な味わいが、五臓六腑に染み渡るよう。途中でヨーグルトを入れるのがモンゴルスタイルとか。激変する味を楽しんで。このヨーグルトも自家製で、バオさん曰く「牛乳は日本のものだけど、菌はモンゴル」だそう。腸内環境にも効き目がありそうだ。

 

 

ちなみに現在、アラカルトはなく、コース(3,500円or5,000円)のみ。人気店ゆえ、予約を入れてからの方が安心だ。

シメの麺までラムづくし!東北系中華料理なら「羊香味坊」

出典:エノキングさん

 

“羊香”の名の通り、羊一色の東北系中華料理店。オーナーの梁宝璋(リョウホウショウ)さんの故郷中国黒竜江省チチハルの郷土料理を軸に、オリジナルテイストを加味した羊料理を満喫できる。

 

出典:辣油は飲み物さん

 

定番の「羊串焼き」から塊焼きの「ラムランプ」、箸が止まらなくなること請け合いの「ラム肉と長ネギ塩炒め」に「焼売」「餃子」「おやき」まで全て羊づくし。

 

出典:エノキングさん

 

そして、締めには「魚羊麺」をぜひ。羊の骨と鯛骨からとったスープを合わせたWスープは滋味豊か。さっぱりとした後口がしみじみ旨い。麺は、全粒粉を使った自家製手打ち麺と抜かりなし。他所では味わえない佳品である。

 

ちなみに羊は、オーストラリアを中心にニュージーランドやアイスランドのラムを使っているそう。2,500円から揃う自然派ワインとともに楽しみたい。

取材・文:森脇慶子

 

撮影:冨永智子