〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

新鮮な魚介類を使った地中海イタリアン

内観

連日、暑い日が続いているが、よく冷えた白ワインがあれば生き返るというもの。せっかく白ワインを飲むなら、この夏はさまざまなタイプの白ワインを飲み比べて白ワインの違いがわかるようになってみよう。そんなときにおすすめなのが、新鮮な魚介類を使ったメニューが豊富な学芸大学にある地中海イタリアン「SiESOL(シエソル)」。店内では種類豊富な自然派の白ワインが提供されている。

左から店長の入江 陽さん、料理長の芳賀功一さん

シエソルの店長を務める入江 陽さんと料理長の芳賀功一さんは前職からの息の合ったコンビ。オイスターバーに勤めていたこともある入江さんとイタリアンで腕を磨いてきた芳賀さんが手を組み、魚介類が中心の地中海イタリアンを開店した。

カウンター席の向こうはオープンキッチンになっている

メニューはすべてアラカルトで、名物のシーフードプラッターやカルパッチョ、タコのガリシア風など新鮮な海の幸が味わえる一皿を中心に、豚や牛のグリル料理も用意されている。芳賀さんが鎌倉在住であることから、色鮮やかな鎌倉野菜が彩りを添え、地中海料理がカラフルに楽しめるようになっている。

シーフードプラッター✕塩ミネラル白ワイン

シーフードプラッター(3,200円)

初めて来店する客の7割が注文するのが、名物「シーフードプラッター」。エビや貝類を中心に豊洲市場で仕入れた海の幸が宝石のように並んでいて、運ばれてきた瞬間、目を輝かせる人も多い。夏になると産地直送の岩牡蠣が提供されることもある。シーフードプラッターには、トマトの酸味が利いたラビゴットソースと、クリーミーなにんにくマヨネーズ風味のアイオリソースが添えられているのも食欲をそそる。

ドメーヌ・アザン ピクプール・ド・ピネ2022(グラス890円、ボトル4,900円)

シーフードプラッターに合わせるおすすめは、南仏ラングドック地方の白ワイン。「この産地のワインは海沿いに畑があり、海からの潮風で円みのあるミネラル感があるのが特徴。魚介類にはぴったりですよ」と入江さん。レモンやハーブの爽やかさと塩味のあるミネラル感が魚介類やラビゴットソースにマッチしていた。生に近い魚には、海の近くで造られたミネラル感のある爽やかな白ワインを合わせてみるのが正解だ。

季節のフルーツとブラータチーズ✕白ワイン

ブラータチーズ(2,600円)

イタリアンらしい前菜としてもう1つのおすすめは、季節のフルーツとブラータチーズの組み合わせ。季節のフルーツはいちじくとアメリカンチェリーが添えられていた。時期によっては、イチゴやマンゴー、桃が用意されている。こちらの一皿のポイントはイタリア産のブラータチーズ。芳賀シェフがチーズのおいしさをたっぷりと味わってほしいと、通常よりも大きなタイプを見つけたそう。チーズを割ると、ミルキーな中身がトロトロッと溢れてきた。

リオロッカ スティルホワイト2022(グラス980円、ボトル5,600円)

ブラータにペアリングしたいのは、イタリアのトレッビアーノ主体の白ワイン。「こちらのワインは果実のふくよかさがあって、チーズにマッチします。いちじくの甘みやアメリカンチェリーの酸味にも、しっかりしたタンニンで応えてくれます。とはいえトレッビアーノ主体なので、すっきり感もあって、チーズのまろやかさとフルーツの甘みをさっと流してくれます」と入江さん。色がしっかりと出ているとおり、1週間ほど果皮とともに発酵させてある白ワイン。チーズやフルーツの入った一皿には、フルーティーな白ワインがマッチ。ミネラル感のある白ワインとはまた違った白ワインの豊かさが楽しめる。

しらすとカラスミのパスタ✕リッチ白ワイン

しらすとカラスミのアーリオ・オーリオ(1,600円)

締めのパスタも海の幸を使った「しらすとカラスミのアーリオ・オーリオ」を食べたい。「シンプルにしらすとカラスミの塩味だけで仕上げたパスタです。素材のうまみを味わっていただくため、カラスミは塩分控えめなタイプをたっぷり使っています」と芳賀さん。

釜あげしらすは甘みがおいしい!

また、しらすは芳賀さんが鎌倉在住なだけあって、目利きもきびしい。「しらすは生よりも、炊きたての釜あげのほうが甘みがあっておいしいですね。しらすはその時期で一番おいしい産地のものを使っています」と素材を厳選していることを教えてくれた。

ドメーヌ・フォン・シプレ シプレ・ド・トワ2022(グラス1,200円、ボトル6,900円)

1皿目にはミネラル感のある爽やかな白ワイン、2皿目にはフルーティーでタンニンのある白ワインと続いた。そして、しらすとカラスミのパスタには、シャルドネの白ワインをペアリング。「海の影響を受けたミネラル感のあるシャルドネです。1皿目は爽やかな白ワインでしたが、こちらはオイルとニンニクの利いたアーリオ・オーリオなので、ふくよかさのあるシャルドネを合わせました」と入江さん。オイルベースのパスタにリッチなシャルドネがマッチ。3皿それぞれに異なるタイプの白ワインが楽しめて満足感が高かった。

入江さんの「私が恋した自然派ワイン」

ヴァンダル レジスタンス ソーヴィニヨン・ブラン2022(ボトル8,900円)

入江さんが恋したワインは、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランのイメージを変えたヴァンダルという生産者のワイン。

「ソーヴィニヨン・ブランで有名なマールボロのワインは、どれも同じようなパッションフルーツや若草のような風味が感じられます。しかし、こちらは次世代の造り手が素性を明かさず、造ったイノベーションなワイン。爽やかさはありながら、しっかりとした果実味や酸味があります。これこそが本来のソーヴィニヨン・ブランの豊かさだと感じさせてくれたワインです。魚料理もしっかりと引き立ててくれる味なので、新感覚のソーヴィニヨン・ブランをぜひ味わってほしいと思います」

料理を引き立てるきれいなワインをラインアップ

シエソルでは、入江さんが試飲会に出かけて、インポーターと相談しながらワインが仕入れられている。もっとも注意しているのは、ワインの飲み頃。ネガティブな要素が出ないタイミングに気を使い、きれいな味わいのワインが選ばれている。また、ワインが主役ではなく、あくまでも料理を引き立てるワインが中心になっているのもポイント。フランスやイタリア、オセアニアなどのワインが選ばれている。グラスは5〜7種類(890〜1,500円)ボトルワインは70種類(3,900〜20,000円)。

元気にリフレッシュしたいときに訪れたい

芳賀シェフ
外観

シエソルのメニューは、素材の良さをシンプルに引き立てつつ、地中海で食べられるようなカラフルな色合いが楽しい。さらには一皿一皿の料理をさまざまな種類の自然派ワインが盛り上げてくれる。カラッとした元気な気分にリフレッシュしたいときに、ぜひ訪れたい 一軒だ。

※価格は税込