【おいしいパンのある町へ】

Vol.13 神奈川・元住吉「ベトナムサンドウイッチ Thao’s(タオズ)」

近年、パン業界にも着々と進出しつつあるエスニックブーム。なかでも代表格といえるのが、ベトナムの国民食として知られるサンドイッチ「バインミー」。今では百貨店の惣菜コーナーにも進出するほどの人気メニューに。

 

おいしいバインミーを求めて全国を散策するファンの間で注目を集めているのが、東急東横線の元住吉駅にある「ベトナムサンドイッチ Thao’s(タオズ)」。海外留学中に出会ったバインミーに惚れ込み、会社勤めを辞めて飲食業界に転職したというオーナーの、情熱が詰まった味を求めていざ出発。

アメリカ留学中に出会ったバインミーの虜に!

元住吉駅から、徒歩3分ほど。人通りもまばらな路地でひときわ映える、カラフルな看板にプラスチックの椅子。外見から異国情緒たっぷりなこちらの店こそ、今年オープン4年目を迎えた「ベトナムサンドウィッチ Thao’s」だ。

 

オーナーシェフを務めるのは、小坂由紀さん。「一口食べた瞬間、恋に落ちた」というバインミーとの出会いは、本場ベトナムではなく、アメリカ・ポートランドだった。

大学を卒業後、貿易系の会社に就職。“語学力をもっと身につけたい”という思いから、アメリカ留学を決めたという小坂さん。滞在していたポートランドでは、ベトナム料理屋が大人気だったとか。「もともとエスニック料理は好きで、日本でも、タイ料理はよく食べていたんですけど。ベトナム料理はあまり馴染みがなくて、新鮮でしたね」

 

そこで、バインミーとの運命的な出会いを果たす。「一口食べた瞬間、ビビッときましたね。“こんなにおいしいもの、どうして今まで食べたことがなかったんだろう!”って、それまでの人生を後悔したくらい(笑)」

日本で、バインミーの魅力をもっと多くの人に伝えたい。

アメリカで、バインミーの魅力にどっぷりとハマった小坂さん。バインミー専門店を営みたいという思いを抱くも、未経験の飲食業界に参入する不安から、帰国後は以前と同じく会社勤めの生活に。「でもやっぱり“自分の店を持ちたい”という思いが諦められなくて。よく通っていた高田馬場の『バインミー☆サンドイッチ』のオーナー木坂さんに頼み込んで、週に1度、お手伝いをさせていただくことになりました」

平日は会社員、週末はアルバイトという生活を3年間続け、ついに会社を辞めることを決意。ベトナム料理店やカフェ、レストランなどでアルバイトをしながら、飲食店経営のノウハウを学んだ。「そんな生活を始めて3年ほど経ったときに、当時の同僚から背中を押されて。物件探しまで手伝ってくれたんです」

当初は長年働いていた横浜の元町エリアや馬車道駅近辺で開業しようと考えていたそう。「イメージしていた理想は、“デイリー使いしてもらえる店”。元町も馬車道も人気観光地だから人通りは多いけれど、“地元感”が薄いな〜、と。エリアを広げて探していたときに出会ったのが、この物件。元住吉にはまったく馴染みがなかったのですが(笑)、街の雰囲気、物件のサイズ感がドンピシャで。即決して、バタバタと3カ月でオープンしました」

目指すは、おにぎりのように“毎日食べたい味”

アメリカから帰国後、時間を見つけてはベトナムへ足を運んでバインミーの食べ歩きをしていたという小坂さん。地元で人気のバインミー屋さんの自宅で、バインミー作りを学んだ経験を生かした、自家製のハムやレバーペーストに定評が。「はじめは“本場の味を忠実に再現しないと”と頭でっかちになっていましたが、それだと子どもやエスニックが苦手な人には味覚が合わなかったりして。おにぎりのように、多くの人に日常的に食べてもらえるよう、具材をアレンジ。8種類のバリエーションを揃えるようになりました」

もっともベーシックな「自家製ベトナムハムとレバーパテ」のほかに、ベトナムの家庭料理をアレンジしたメニューを展開。食べ応えを重視する男性に向けた「豚ばら焼き肉」、子どもにも親しみのある味付けを意識した「肉団子トマトソース煮」など、ここでしか味わえないユニークなバリエーションがずらり。なかでも小坂さんおすすめの3品を伺った。

改善を重ねた自信作!「自家製ベトナムハムとレバーパテ」

店の看板メニューで、人気No.1を誇るのが「自家製ベトナムハムとレバーパテ」。メインの具材は、豚肉に豚耳、豚タン、鶏肉、キクラゲをチョップして型で固めたヘッドチーズ、豚ひき肉をヌクマム&砂糖で味付けしベーキングパウダーでもちもち感を出したソーセージ風ハム、鶏レバーにたまねぎ&にんにくで風味を加えたレバーペースト。なんとこれらはすべて、自家製!

 

「現地の料理教室やベトナムのレシピ動画で得た知識から、オリジナルの味つけを生み出しました。もうひとつの自慢が、自家製マヨネーズ。現地のバインミー専門店では必ずオリジナルで作っている、いわば“秘伝のタレ”のようなもの。バターとマヨネーズの中間のようなテクスチャーで、酸味が少なく、ねっとりと甘いのが特徴。日本でこれを手作りしているのは、多分うちだけです!」

 

東京のパン屋から卸しているというバゲットも、小坂さん選りすぐり。「通常のバゲットだと皮が厚く、塩味が強すぎるんです。このパンは薄皮でやわらかく、具の邪魔をしないベーシックさがポイントです」。食感が異なる2種類のハムと濃厚なレバーペーストに、フレッシュな人参&大根のバランスが絶妙。長ネギ&パクチーの香りがエキゾチックな風味を際立たせ、食欲を刺激する。レギュラーサイズ600円、スモールサイズ400円。

ベトナムの家庭の味をサンド!「レモングラスチリチキン」

“ベトナムの定番おかずをサンドイッチにしたら、おいしいのでは?”と思い立ち、誕生したのが「レモングラスチリチキン」。具材はベトナムで愛される家庭料理、レモングラス風味の鶏の炒めもの。

 

「ベトナムの醤油といわれる“シーズニングソース”を、唐辛子、にんにく、フレッシュレモングラスで風味付け。その特製タレに鶏肉を漬け込み、炒めたら完成です」。ジューシーな鶏肉を噛み締めるたび、レモングラスの風味がふわっと充満。唐辛子のほどよいピリッと感が好アクセント。レギュラーサイズ600円、スモールサイズ400円。

女性人気高!ヘルシーでさっぱり風味の「蒸し鶏ねぎ油和え」

濃厚でクセのある香りが特徴のサンドイッチが多いため、さっぱりとした味覚を取り入れようと考案。蒸した国産鶏むね肉をねぎ油で和えたシンプルな味わいに、ヘルシー志向の女性からのラブコールが続出しているとか。

 

「さっぱりとしていて、メニューのなかでも一番の食べやすさ。これからの暑い季節、とくにおすすめです」。淡白ながらしっかりジューシーなむね肉と、甘みの強いシーズニングソースがマッチ。レギュラーサイズ550円、スモールサイズ370円。

自家製タレが絶品!サンドイッチとセットで食べたい「生春巻き」

日替わりのスープやデザート、フライドポテトなどが並ぶサイドメニューでダントツの人気を誇るのが、ベトナム料理に欠かせない「生春巻き」。茹でえび、茹で豚、フレッシュミント、しそ、ベトナム米麺、キュウリ、もやし、ニラがぎっしりと詰まっており、食べ応え抜群!

 

「生春巻きそのものよりも、タレが作りたくて(笑)。日本ではスイートチリソースを添える店が多いですが、ベトナムでは味噌ダレが主流。これが、たまらなくおいしい! 甜麺醤とピーナッツバターを混ぜた自慢のソースを一度、味わってみてください」1本380円。

小坂さんに聞く、元住吉の一押しグルメ

「個人経営の小さなお店が多く、近代化が進んでも街のカラーが色濃く残っているのが魅力」だという元住吉。小坂さんが足繁く通う2店を紹介してもらった。

素材の味を感じられるパンが絶品!「ARETE(アレット)」

「小麦粉、砂糖など、素材の旨みをしっかりと感じられるパン屋さん。ここのパンが好きすぎて、オープン3周年のイベントでは、頼み込んでバインミー用のバゲットを特別に作ってもらったほど。小さい店内にところ狭しと並ぶ数々のバリエーションを見るたび、ウキウキします。店主の素敵なスマイルも見逃さずに」

行くたびにホッとする串揚げ屋さん「夕菜」

「家庭的な雰囲気で、温かい笑顔で迎えてもらうと心が、ホッとする憩いの場です。おまかせコースは、串揚げ1本あたりが約100円と、抜群のコストパフォーマンス! 一品料理も豊富で、何度訪れても飽きません」

撮影:山田英博

取材・文:中西彩乃