〈自然派ワインに恋して〉

シェフの料理とマリアージュするのは、自然派ワイン。そんなレストランが増えている。あの店ではどんなおいしい幸せ体験が待っているのだろう。ワインエキスパートの岡本のぞみさんが、自然派ワインに恋して生まれたお店のストーリーをひもといていく。

ナビゲーター

岡本のぞみ

ライター(verb所属)。日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、日本地ビール協会認定ビアテイスター/『東京カレンダー』などのフードメディアで執筆するほか、『東京ワインショップガイド』の運営や『男の隠れ家デジタル』の連載「東京の地ビールで乾杯」を担当。身近な街角にある、食とお酒の楽しさを文章で届けている。

日常デートにうれしい、雰囲気のいいビストロ

内観

中目黒の東山エリアの路地裏には、日常デートにぴったりの小さなレストランが集まっている。なかでも雰囲気がいいと評判なのが2021年9月にオープンしたビストロ「nuit(ニュイ)」。深みのあるグリーンをテーマカラーに木製のテーブルや椅子が配されているのが、センスの良さを感じる。メニューを見ると、料理はアラカルトのみでドリンクには自然派ワインが用意されている。このあたりの気軽さも2人の時間を過ごすのにうってつけといえる。

シェフの渡辺郁也さん

シェフを務めるのは渡辺郁也さん。都内のイタリアンやフレンチ「naturam kazuya sugiura」で腕を磨いた後、nuitへ。2022年からシェフを任されている。渡辺さんが作る料理は心躍るような彩りや盛り付けが楽しめ、一皿ごとに出てくるのが楽しみになる。「アラカルトのビストロで、レストランのような見た目の料理が出てくるのがおもしろいと思って、一皿一皿に心を込めています」と渡辺さん。

ワイン選びも渡辺さんが担当し、試飲会を訪れて自然派ワインをセレクトしている。「初めて自然派ワインを飲んだときはクセの強さに驚きましたが、飲み慣れていくうちに体になじみやすかったり、味のバリエーションがあったりするところが気に入っています。それぞれに個性的な特徴があるので、料理に合わせやすいですね」。自然派ワインと美しい一皿の組み合わせも、nuitがデートで選ばれている理由だ。

ジビエのパテ✕ジューシー赤ワイン

パテ・ド・ジビエ(1,000円)

前菜はアラカルトからビストロの定番「パテ・ド・ジビエ」をチョイス。ジビエには、鴨、鹿、イノシシが使われている。「パテは断面のきれいさが大事だと思っているので、肉は細かく挽かずブロックにしていて、ピスタチオでグリーンの色合いを加えています」と渡辺さん。ジビエのパテは黒ずんだ色合いのものもあるが、nuitのパテはロゼ色が美しく食欲をそそる。パテにはオリーブオイルがかけられ、粒マスタード、ブドウの搾りかすを使ったソース、コショウが添えられていた。

ラルコのヴァルポリチェッラ リパッソ クラッシコ スーペリオーレ2020(グラス1,400円、ボトル9,000円)

パテ・ド・ジビエにおすすめなのは、イタリアのラルコというワイナリーの赤ワイン。「パテになめらかさや甘みがあるので、タンニンがキシキシするようなタイプではなく、イチゴやチェリーのような甘みのある赤ワインを合わせました」と渡辺さん。赤ワインはパテだけでなく、ブドウの搾りかすのソースにも調和。果実の凝縮感はありながら、飲み心地の良さも余韻の長さもあるワインなので、パテ・ド・ジビエの複雑なおいしさを上品に引き立てていた。

初鰹の炙り✕ロゼワイン

初鰹の炙り ふきのとうソース(2,200円)

魚料理のおすすめは今が旬の初鰹を使った一皿。「身が締まってさっぱりした初鰹はふきのとうのソースで春らしく苦みを添えています。レンコンやうるい、菊で華やかな盛り付けにしました」と渡辺さん。見た目からも季節が感じられる一皿で、春が舞い降りてきたようだった。

マリー・ロシェのヴォワラ・レテ2022(グラス1,000円、ボトル6,500円)

初鰹の炙りに合わせたいのは、ブランコに乗った女性ラベルのロゼワイン。「鰹は赤ワインでも合わせられますが、さっぱりとした初鰹なのでロゼワインがおすすめです。こちらのロゼワインは甘みもあってやさしい雰囲気で初鰹が楽しめます」と渡辺さん。初鰹をやわらかく軽快にいただける組み合わせで、まさにブランコに乗ったような気分になった。

蝦夷鹿のロースト✕スパイシー赤ワイン

蝦夷鹿のロースト ポワブラードソース(3,600円)

メインの肉料理は「蝦夷鹿のロースト ポワブラートソース」。ポワブラードソースは鹿のローストに合わせられる定番のコショウを使ったソース。付け合わせにタケノコやサヤエンドウ、タケノコのピュレがあるので、こちらも春らしくいただける。すべてのアラカルトメニューは、2人で訪れたときは1人分ずつシェアして提供されるので、ソースも余すところなく堪能できる。

フォース・ウェイヴ・ワインズのワイルドフォーク シラーズ2022(グラス1,100円、ボトル7,000円)

蝦夷鹿のローストにおすすめなのは、オーストラリアのシラーズを使った赤ワイン。「こちらの赤ワインはブラックチェリーのような果実味とほどよいタンニン、コショウのスパイシーな香りがあるので、ポワブラードソースをかけた蝦夷鹿にとてもよく合います」と渡辺さん。蝦夷鹿のローストというフレンチの王道メニューにシラーズとオーソドックスなペアリングだったが、その分、ワインのピュアな果実味とタケノコの季節感が印象的だった。

渡辺さんの「私が恋した自然派ワイン」

ペパンのオランジュNV(グラス1,400円、ボトル9,000円)

渡辺さんの恋した自然派ワインは、昨年出会ったというオレンジワイン。

「ペパンというアルザスの生産者のワインです。こちらは同じくアルザスで人気のドメーヌアキレのピエールがもっとワインを造ってほしいとのリクエストに応えてチームで造っています。アキレのワインが好きだったので、注目していたところ、昨年来日して生産者に初めて会いました。とても背が高くて、まだ赤ちゃんの子どもを連れて来ていました。生産者に会うとワインがもっとおいしく感じられるものです。

こちらのオレンジワインはオレンジやパイナップル、ライチなど香りが豊かで味わいがきれい。とても上質な風味なので、ぜひ味わってほしいですね」

特徴のある個性的なワインをラインアップ

nuitではヨーロッパ、オーストラリア、日本など世界各国の自然派ワインを提供。ワインは渡辺さんが試飲会で見つけてきたものがほとんどで、すっきりして飲みやすいもの、ミネラル感のあるもの、フルーティーなものなど特徴がはっきりした個性的なものが多いそう。「個性がはっきりしているほうが料理にも合わせやすいですし、すすめやすいですね。インポーターさんから話を聞いておもしろい背景があるワインであれば、お客さんに伝えることもあります」と渡辺さん。グラスワインは15〜20種類(900〜1,500円)、ボトルワインは100種類(6,000〜20,000円)、用意されている。

気軽だけれど、特別な夜になる

心を込めて盛り付けをする渡辺さん
外観

若き渡辺さんが腕を振るい、アラカルトと自然派ワインが楽しめるnuitは気軽なビストロながら、盛り付けの華やかさや個性あるワインとの出合いを果たせる場所。ドアを開ければ、いつもの日常を特別にしてくれる夜が待っているだろう。

※価格は税込、チャージ1人400円

取材・文:岡本のぞみ(verb)
撮影:山田大輔