〈今夜の自腹飯〉

予算内でおいしいものが食べたい!

食材の高騰などで、外食の価格は年々あがっている。一人30,000円以上の寿司やフレンチもどんどん増えているが、毎月行くのは厳しい。デートや仲間の集まりで「おいしいものを食べたいとき」に使える、ハイコスパなお店とは?

教えてくれる人

猫田しげる

20年以上、グルメ誌、旅行本、レシピ本などの編集・ライター業に従事。各地を転々とした挙句、現在は関西在住。「FRIDAYデジタル」「あまから手帖」「旅の手帖」(手帖好き?)などで記事執筆。めったに更新しない猫田しげるの食ブログ 「クセの強い店が好きだ!」。

2度目でも迷う! 路地裏に提灯だけがともる隠れすぎた店

路地裏中の路地裏と言えるでしょうか、縦にも横にも大きな通りはなく、ランドマークになる建物も近くに見当たらない。ここで飲み会をする時、後から来る人から大体「迷った」と電話があり「またかよ」と思いながらどっかまで迎えに行く……というのが常です。

1度来たことがある人でも「どこだっけ」と電話をかけてくる、ウルトラ覚えにくい立地です

表に「おでん」の小さな提灯が出ているだけ(イタリアン酒場なのにおでんってのも初訪者を混乱させる)。看板も目立たなすぎる。なぜこんなに分かりにくい場所に店を構えてしまったんでしょう。「あんまり人が来ない路地裏でやりたかった」とマスターの鳥越芳幸さん。まあまあ変わり者ですね!

古民家を探していたところ、この築100年の物件に出合ったそう

分かりづらい立地の上に店内が暗いのもポイントです。以前、この店でミーティングをしたところ「暗くて資料が読めへんわ!」と相手に怒られたことがありますが、ここでやろうとした自分が悪いなと反省しました。まあ、あまり顔を晒したくない密会には便利ですが。

意外とマスターは好青年で、しかも元税務課の公務員

クラブマンレース(F1のアマチュア版みたいなもの)のレーサーであるという噂も聞きました。どんだけマルチ!

マスターの鳥越さんは経歴がユニークで、もともとは泉佐野市の税務課で公務員として働いていました。役所勤めの頃から「コーヒーと料理がおいしいイタリアンをやりたい」と将来像を描いており、週末にカフェのスクールに通学。UCCのラボでもコーヒーの修業を積み、コーヒーマイスターや、イタリアの「IIAC」が認定するエスプレッソの世界基準の資格なども取得。

基本的にマスター一人で切り盛りしていますので、調理中に無理難題を言わないようにしましょう

2009年にはついに約20年勤めた役所を退職し、翌年、江戸堀にイタリアンバール「インコントロ」をオープンさせました。

当時は料理を他の人に任せ、自身はバリスタとしてカフェ担当に。過去の食べログの口コミを見ると「バリスタのいれるエスプレッソやラテアートもいけてましたよ」などと称賛されていました。

冬期はおでんが登場。このPOPを見ると「今年も冬が来るなあ」と実感します

つまりマスターは最初コーヒーから入って、料理はその後に独学で勉強したんですね。てっきり厳しい職場で罵声を浴びながら修業を積んだんだと思い込んでいたので、この話を聞いて驚きました。そういや食後のエスプレッソが妙に旨い。そういうことだったのか。

そんな江戸堀の繁華街から静かな古民家に移転オープンしたのは2014年。最初はインコントロ時代とは違い、料理もぐっと居酒屋寄りで、冬にはおでんも出しちゃうなど地域密着型の酒場としてやっていました。

確かに私が行き始めた3年ほど前はイタリアンなメニューの中に「しめ鯖」「肉じゃが」「アジフライ」なんぞが交じっていましたが、つい最近から「居酒屋メニューは全部やめて、イタリアン・フレンチに振りました」とのこと。おお、なんかマスター本気出した感じです。

しかし料理は本格的になったのに価格は居酒屋並みに安いまま。クスクスのサラダ390円、キッシュ・ド・ロレーヌ590円、小アジのカルピオーネ(南蛮漬)490円……とむしろ居酒屋より安いかもしれません。カメラマンも「やっすっ!」と驚いていました。

この値段でいいのかと問いたくなる、美しき魚のカルパッチョ! ソースにはアレが……!?

街中のレストランなら2,000円ぐらいしそうなカルパッチョ。盛り付けも美しい

数ある好きなメニューの中からまずご紹介するのは「お魚のカルパッチョ」。具材はその日の仕入れによって変わりますが、この時はカンパチ、ホタテ、甘エビでした。ソースはサルサヴェルデです。へ〜サルサヴェルデね。と知ったような顔をして食べましたが、何だかエスニックな味わい……?

通常、サルサヴェルデはパセリとアンチョビを使ったソースなのですが、コチラはなんと生のパクチーで作っているそう。パクチーって好き嫌いが分かれるのですが、有無を言わせずパクチーで出すあたり、やっぱりマスター変人ですよね。

エディブルフラワーに彩られた一皿。この量で890円って、やっすっ!

白ワインビネガーとオリーブオイル、アンチョビ、ニンニク、ケイパーで作るドレッシングはしっかり乳化していて、まろやかでクリーミーな後口です。パクチーも青臭さ皆無で全体に馴染んでおり、これはパセリの方がクセが出るかもなと思いました。

基本、魚介類は天満市場を中心に目利きして回るそうですが、この日のホタテは例外的に北海道出身の知人から流れてきたというレアもの。身厚でプリッと弾力がありました。

 

猫田しげる

ここの料理はピンクペッパー使いが秀逸だなといつも感心します。真似して家でもあらゆる料理に使ってみるけど、別物になるのはなぜだろう。