〈秘密の自腹寿司〉

高級寿司の価格は3~5万円が当たり前になり、以前にも増してハードルの高いものに。一方で、最近は高級店のカジュアルラインの立ち食い寿司が人気だったり、昔からの町寿司が見直されはじめたりしている。本企画では、食通が行きつけにしている町寿司や普段使いしている立ち食い寿司など、カジュアルな寿司店を紹介してもらう。

教えてくれる人

山本 憲資

Sumally Founder&CEO。1981年生まれ。大学卒業後、広告代理店を経て雑誌『GQ JAPAN』の編集者に。テック系からライフスタイル、ファッションまで幅広いジャンルの企画を担当。コンデナストを退職後、Sumallyを起業、2023年10月末に代表を退任し顧問に就任。食だけでなく、アートやクラシック音楽への造詣も深い。

名店で10年以上経験を積んだ寿司職人が開いた、三田の立ち食い寿司

全7席のカウンターには注文用のiPadが置かれ、キャッシュレス決済のみとスマートに寿司を楽しめる工夫も
 

山本さん

ご主人が修業されていた以前のお店にも何度か伺っていたので、足を運んでみました。

山本さんが紹介する「鮨 三か田」は、都営地下鉄「三田」駅から徒歩10分ほど、あの「ラーメン二郎 三田本店」の真向かいにある。ガラスの扉を開けると、アーティストのKensuke Takahashi氏が手がけた登り龍の壁画が目を引く。屋久杉の地杉で作られた柔らかい風合いのカウンターとあいまって、従来の立ち食い寿司とは一味違う趣がある。

安藤聖さんとみかこさん。店オリジナルパーカーは二人の行きつけだという白金高輪の立ち飲み屋「籃らん」店主のタローさんがデザインした

店に立つのは寿司職人の安藤聖(たかし)さんと「みかちゃん」の愛称で親しまれている妻のみかこさん。聖さんは居酒屋の料理人から飲食業界のキャリアをスタートさせ、寿司の世界に飛び込んだ。10年以上いくつかの名店で経験を積み、最終的には人気立ち食い寿司店の店長も務めた。

立石出身の聖さんには、子どものころ父親に連れて行ってもらっていた「栄寿司」のように、フランクに足を運べる町の寿司屋でありつつ、しっかりおいしいお店をやりたいという思いがあった。そんな聖さんを後押ししたのが妻のみかこさんだ。そして、二人が手を取り合い、1貫からでも注文できる立ち食い寿司店として「鮨 三か田」を2023年11月にオープンさせた。

握り8貫6,600円から! 麗しき寿司の数々に酔いしれる

カサゴダイ

「若い人でも足を運べる、肩肘張らない店を目指した」と言うように寿司は1貫440円から、コースは鮪3種を含むおまかせ握り8貫6,600円、10貫8,800円と日常使いしやすい。しかし寿司は味も見た目も高級店と遜色ない一級品だ。

例えば、この日のコースの1貫目に登場した茨城県日立産のカサゴダイは、隠し包丁による皮目と身のコントラストが美しい。塩をして寝かせてから、煎り酒に漬けており、肉厚なカサゴダイの味わいを醤油とはまた違った角度から優しく引き出している。

スミイカ

兵庫県淡路産の「スミイカ」は塩をふって2時間ほど脱水しており、スダチと醤油で味付け。歯切れの良いスミイカは噛んでいくほどにねっとりとした甘さが口の中に広がり、スダチの爽やかさがワサビの良質さを際立たせる。同店では静岡県筏場のわさび、和歌山県の九重雜賀の米酢、長野県の永井農場のあきたこまちの古米、ヒゲタしょうゆの本膳を使用。どれも「鮨 三か田」をオープンするにあたって聖さんが厳選したものだ。

金目鯛
 

山本さん

寿司の本格感とはある意味コントラストのある、立ち食いのカジュアルな雰囲気が魅力的。

千葉県勝浦産の「金目鯛」も、シンプルながら素材の上質さを引き出す仕事ぶりが光る。塩をして寝かしてから、皮を湯引きしてあり、弾力と品の良いうまみが印象的だ。

穴子

コース後半で登場した長崎県対馬産の「穴子」からも、聖さんの仕事の丁寧さが窺える。「穴子」を身が崩れないギリギリの加減でゆっくり蒸しあげることで、驚くほどのふっくら、ホロホロ食感で、正統派のツメが穴子のうまさを引き立てている。

小肌
 

山本さん

おまかせ6,600円でこのクオリティの寿司を食べられるのはやはり立ち食いならではで、立ち食いでちゃんとしたお寿司を提供するというお店は増えてきているものの、その中でもちゃんとしていらっしゃるなと思いました。