ズッパ(zuppa)

「zuppa」
店の名前がいいじゃないか。
この店に誘われた時、まずそれを思った。

手間暇がかかるけど、人の心を温めるスープを店名に付けるなんて、きっと主人はそんな思いを込めて料理を作っているんだろうなぁと想像した。

若き主人は、東京・裏渋谷の名ワインバー「アヒルストア」の出身だ。
店内に掲げられたメニュー黒板がいい。
片っ端から頼みたくなるメニューが、味のある字で書かれている。
これにやられた。

そして料理を頼む。ワインを合わせてくれる。
そうすると更にはまっていく。
滋味のあるスープの中に沈み込んでいくように、この店の魅力から抜け出せなくなる。

最近やられたのは「さんまのコンフィ」である。
サンマと言えば普通は塩焼きで、洋食ならマリネやカルパッチョもある。
しかしシェフは、油で煮てみようと考えた。
そのセンスがよい。

3時間、低温でじっくりと油煮にし、提供前にオーブンでさっと焼き、青レモンのゼストをかけた「さんまのコンフィ」である。

まず、今まで散々サンマを食べて来たが、頭も骨も尾ひれもなんなくおいしく食べたのは初めてだった。
次に皮下の脂やゼラチン質を意識したのも初めてであった。
噛むとニュルッと、皮の下に控えた甘いゼラチン質が舌に広がって相好を崩す。
旬のサンマの魅力は脂であると認識していたが、このように個別に感じることはない。
舌は喜び、歯も口腔内の粘膜も喜ぶ。
それは、サンマの知られざるエロスである。
次に身はしっとりとして、大海を泳ぐ筋肉が損なわれることなく生きている。
最後に肝である。
甘い。優しく甘い。
正確にはかすかに苦みもあるのだが、そのかすかさが甘みに深みを与えて、うっとりとさせるのであった。

ああ、こう書いているうちにも食べたくなる。

合わせたワイン、ジュラの「オリヴィエ・ブラン La Dent du CHaPFFF 2021」も良かった。淡いうまみの中にさまざまなニュアンスがあって、それがこの新しいサンマの魅力を包み込む。そんなワインを選ぶとは、さすが「アヒルストア」出身だ。

その他、今まで食べたので言えば、やはりスペシャリテの「チキンナゲット」。シェフ曰く「ふと仕事終わりにバーガーショップのナゲットが食べたくなり、食べてみると、揚げたてのナゲットはやはりうまい。少し観察し、バーガーショップのナゲットは2度揚げの衣とソースを食べる料理と解釈。休日に家で試作し、1度揚げのジューシーさがちょうど良くてバジルと合わせました」とのこと。

どこにもない、最高のチキンナゲットにやられてしまった。

またタコとアボカドの対比的な食感がクセになるサラダや、大根がはつらつと舌に訴えてくる「大根と実山椒のラペ シラスのせ」など、どれも食べた瞬間にワインが恋しくなる。

今はやっていないらしいが、青森県特産である馬肉を使ったタルタルも。
また作って欲しい。

文・写真:マッキー牧元